11度目の挑戦で悲願のマスターズ制覇を遂げたローリー・マキロイ。プレーオフを制し、生涯グランドスラムを達成した。マキロイがプレーオフで勝利を手繰り寄せたライン出しショットのコツも伝授。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

生涯グランドスラムまでの苦難の道程
ローリー・マキロイが2025年のマスターズを制してメジャー通算5勝目を挙げ、タイガー・ウッズ以来25年ぶりとなる史上6人目の生涯グランドスラムを達成した。
18番グリーンで頭を抱えてうずくまるマキロイの姿は、長きわたる呪縛の過酷さを物語っていた。それと同時に、苦しみから解放された安堵の姿にも見えた。
2025年5月に36歳になるマキロイ。その苦悩の始まりは、21歳で出場した2011年のマスターズにまでさかのぼる。
マキロイは2011年のマスターズで初日から首位に立ち、2位に4打差をつけて最終日を迎えた。しかし、10番でトリプルボギーをたたいて首位から転落すると、そこからずるずるとスコアを崩し、終わってみれば80の大たたきとなって15位タイにまで順位を落とした。
その後、2011年の全米オープンでメジャー初制覇を達成し、2012年には22歳10ヵ月で世界ランキング1位になるなど、順調にキャリアを積みあげてきた。その後、2012年に全米プロで勝利。2014年には全英オープンでも勝利し、生涯グランドスラムまではマスターズを残すのみとなった。この年は全米プロで2度目の勝利を手にし、マスターズでの勝利も間近だと思われていた。
ところが、ここから約11年間、マキロイはメジャーの栄冠から遠ざかってしまう。2024年の全米オープンでは、最終日に約1mのパットを2度も外して優勝を逃した記憶が新しい。
近年のマスターズでは、2019年に2位タイ、2021年に3位タイなど、過去5年でベスト10フィニッシュが4回あるものの、勝者に与えられるグリーンジャケットに袖を通すことができずにいた。
毎年マスターズが近づくたびに、メディアではマキロイの生涯グランドスラムの話題が取り上げられることが恒例となっており、そのたびに2011年のマスターズでの悲劇が蒸し返され、マキロイの心に刺さった棘が痛み続けていたに違いない。
プレッシャーを跳ねのけたローリー・マキロイ
2025年のマスターズでは、マキロイは最終日を2位のブライソン・デシャンボーと2打差の単独首位で迎えた。ほかにも、ジャスティン・ローズやスコッティ・シェフラー、ルドビグ・オーバーグらが後を追う展開。
3日目終了時点で、最終日は混戦が予想されていた。
オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブには魔女が住むといわれている。2011年のマキロイ以外にも悲劇が繰り返されてきた。
1996年にはグレッグ・ノーマンが2位に6打差で最終日を迎えたものの78の大崩れで優勝を逃し、2016年のジョーダン・スピースは2位と5打差で最終日のバックナインに入ったが、12番パー3で7打を叩くトラブルで首位から陥落した。
マスターズで最終日を首位でプレーする選手は尋常ではないプレッシャーがかかる。トッププロといえども順調にスコアを伸ばすことが難しい。そのため、マキロイも最後は地力のあるシェフラーやオーバーグに追いつかれる展開になると思われた。
実際、最終日のマキロイは1番ホールからショットが安定せず、ダブルボギースタートとなり、いきなりデシャンボーに並ばれた。
その後は立ち直るも、後半に入った13番で3打目をグリーン手前のクリークに入れてダブルボギーとし、続く14番でもティーショットを右に曲げてボギーとし、首位から陥落した。
だが、15番パー5のセカンドショットで流れを変える。左の林がブラインドになる位置から、7番アイアンでビッグフックを放ってピンそばに寄せ、バーディーを奪取して再び首位にカムバックしたのだ。
17番でもバーディーを奪い、2位のローズに1打リードの状態で最終18番ホールを迎える。しかし、セカンドショットを右のバンカーに入れ、「決めれば優勝」という1.5mのパーパットを外して、ローズとのプレーオフに突入した。
18番をボギーとしたマキロイと、バーディーでチャンスをつかんだローズのプレーオフ。ローズ有利の展開になるかと思えた。
勢いに乗るローズが先にピン奥のバーディーチャンスにつける。しかし、マキロイのウェッジで放ったライン出しショットはピンに絡むスーパーショットとなり、プレーオフ1ホール目で勝負を決めた。
この日のマキロイのスイングは全体的に下半身の動きが悪く、上半身にも力みが見られたため、手元が先行する振り遅れが目立っていた。
マキロイは優勝後のインタビューで、最終日は緊張で下半身がゼリーのように感じていたと語っており、足が思いどおりに動かず、スイングリズムが崩れたことが原因で振り遅れていたのだろう。
実際に、14番ホールと17番ホールでは3番ウッドで振り遅れてボールが右に飛び、13番と18番ではウェッジのコントロールショットが振り遅れ、こすり球のミスが出ていた。
スイングリズムが悪いときは、振り切ったほうがスイングリズムを取り戻せることがある。実際に、バーディーを奪った15番ホールと17番ホールでは、セカンドショットを振り切ってチャンスにつけていた。フルスイングをすることで足の動きが良くなり、スイングリズムを整えることができるようになるからだ。
8年前の忘れ物を取りに来たローズ
最後までマキロイを追い詰めた相手は、最終日に10バーディー・4ボギーの66でラウンドした44歳のローズだった。
オーガスタナショナル・ゴルフクラブはショットの正確性だけでなく、コースを知り尽くしていることが求められるが、ローズがプレーオフ進出を決めた18番ホールのバーディーパットは今までの経験が凝縮された一打だった。
その18番のバーディーパットは、2017年のマスターズでセルヒオ・ガルシアと優勝争いをしたときとほぼ同じラインだった。
当時のローズは18番グリーンの左手前のカップに対して、最終ラウンドとプレーオフの2度とも同じような位置からバーティーパットを打ったが、いずれも決め切ることができず、グリーンジャケットを手にすることができなかった。
その後、2019年のマスターズの練習日に、ローズが18番ホールで同じラインを入念に練習していたことが印象に残っている。今大会でプレーオフがかかった大事なパットを決め切れたのは、そのときの悔しさを忘れず、何度も同じラインを練習して準備してきた成果に違いない。
ローズはツアー会場ではいつも練習ドリルを黙々とこなし、ショット前も同じルーティンを繰り返すなど、忍耐強く努力を続けることができる選手だ。
17歳のときにアマチュアとして出場した全英オープンで4位入賞し、鳴り物入りでプロデビュー。しかしなかなか結果が出ず、PGAツアーで初勝利したのは29歳。メジャーを制したのも32歳と苦労を重ねて結果を出してきた。
その後も2016年のリオ五輪の金メダルを36歳のときに獲得し、2018年には38歳でPGAツアー年間王者になったことからも大器晩成型といえるだろう。
18番ホールのバーディーで遅咲きの苦労人にオーガスタの魔女がほほ笑むのかと思われたが、最後はマキロイの忍耐が報われる形となった。
ライン出しショットは7割の振り幅で
マキロイがプレーオフで勝利を手繰り寄せたライン出しショットは、うまく打てるようになれば心強い武器になる。シングルプレーヤーを目指す人は身につけたいスキルだ。
ライン出しショットは、通常の7割くらいのコンパクトな振り幅のスイングだが、見かけより難しい。腕を振ってライン出しショットを打とうとすると、腕を振るタイミングに左右されてインパクトが安定せず、かえって方向性が悪くなってしまう。ライン出しショットは単純に小さく振ればいいというものではなく、体と腕をシンクロさせることが求められる。また、上半身に頼らないために、下半身の動きを積極的に使うことも重要な要素だ。
ライン出しショットに必要な体と腕のシンクロを身につけるために、シャドースイングの練習から始めよう。両脇を締め、両腕を真っすぐに伸ばした状態で、上半身で腕をコントロールする感覚を身につけてほしい。ついつい腕を振りたくなると思うが、腕はアドレスの位置に留めるように意識をしてスイングをする。体と腕をシンクロさせた状態をキープしたまま、下半身を積極的に使ってスイングをすることで、体の動きの順番が適切になってコンパクトなスイングが可能になる。
シャドースイングで体と腕をシンクロさせる感覚をつかんだら、次はクラブを持って練習してみよう。最初は腰のあたりまでの小さなスイングで練習し、徐々に感覚を身につけていくといいだろう。
体と腕をシンクロさせたうえで、積極的に下半身を動かせばライン出しショットをマスターすることができるようになる。まずはシャドースイングから取り組んでみてほしい。
動画解説はコチラ
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。