GOLF

2025.07.31

振り遅れてスライスしてしまう…全英OP覇者シェフラーのリリースを参考に

完璧とも言えるプレーで2025年の全英オープンを制したスコッティ・シェフラー。そんなシェフラーに学ぶ、リリースのタイミングを習得する練習法を紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

全英オープン2025で完璧なプレーを見せたスコッティ・シェフラー。
全英オープン2025で完璧なプレーを見せたスコッティ・シェフラー。

シェフラーの全英オープンの強さを振り返る

北アイルランドのロイヤル・ポートラッシュGCで開催された2025年の全英オープン。スコッティ・シェフラーが「圧勝」と呼ぶにふさわしいプレーを披露し、クラレット・ジャグを手にした。

初日は68で滑り出し、2日目には64の猛チャージで首位に浮上。3日目も67でまとめると、最終日は前半5ホールで早くも7打差にリードを広げた。8番でダブルボギーを叩いたが、直後の9番でバーディーを奪って即座にバウンスバック。

2位との差が4打以下に縮まることは一度もなく、最終日も68で回り、通算17アンダーで2位に4打差をつけて、全米プロに続く今季2つ目のメジャータイトルを手にした。

「カラミティ・コーナー」を手なずけた4日間

ロイヤル・ポートラッシュGCの16番ホール──通称「カラミティ・コーナー(災厄の一角)」は、筆者が2019年の全英オープン取材時に、特に“難しい”と感じたホールだ。

230ヤードの打ち上げのパー3で、コースの端に位置するため、風の影響を強く受ける。右はブッシュが生い茂る崖、左は急な傾斜地。風向きが日替わりで変化するこのホールは、2019年大会において、バーディー数が全ホール中最少の24にとどまった。

現地でこのホールを定点観測していたが、高低差の打ち分けや左右の曲がり幅の計算に加え、風の影響を抑えるためのスピン量のコントロールまで求められる、極めてタフなホールだった。

そんな難所で、シェフラーは4日間すべてで1オンに成功し、そのうち3日間でバーディーを奪取。風の読み、ボールコントロール、そして冷静さ──あらゆる要素を兼ね備えた“完全攻略”に、私はただ脱帽するしかなかった。

数字が証明する支配力

今大会まで、シェフラーは54ホールを終えて首位に立った試合で約65%(17戦11勝)という勝率を記録していた。2025年シーズンの3勝も、すべて3日目終了時に首位から逃げ切ったものだった。そして今回も例外ではなかった。

5打差の3位で最終日を迎えたマシュー・フィッツパトリックは、現実的に考えてシェフラーに追いつくことは難しいと語っていた。実際、その言葉どおり追いつくことはできず、最終的に6打差の4位タイでフィニッシュ。3日目にシェフラーと同組で回った彼は「パットが見違えるほど良くなっていた」ともコメントしている。

データもそれを裏付ける。ストロークゲインド(フィールド平均に対して稼いだ打数)では、パッティングが全体2位の+8.52打。グリーンを狙うショットでは+9.05打で全体トップを記録し、ショットとパットの両方がかみ合った完璧な状態だった。特にストロークスゲインド・パッティングは、前年の77位から今季は21位に急上昇し、まさに“鬼に金棒”の様相を呈している。今回の勝利で、54ホール首位からの戦績は18戦12勝に伸び、勝ち切る力の高さをあらためて証明した。

シェフラーの“伝説”へ

この勝利で、シェフラーのメジャー通算は4勝目。残すは全米オープンのみとなり、キャリア・グランドスラムがいよいよ現実味を帯びてきた。

長年フィル・ミケルソンのキャディを務め、テレビ中継のラウンドレポーターとしても活躍する“ボーンズ”こと、ジム・マッケイは、シェフラーについて「自分の人生でタイガー・ウッズに近いレベルの選手を見られると思っていなかった」と語っていた。

その言葉を裏づけるかのように、世界ランキング1位としての在位日数はすでにグレッグ・ノーマン、タイガー・ウッズに次ぐ史上3位。

さらに、メジャー初優勝(2022年マスターズ)から今回の4勝目までに要した日数は、ウッズと全く同じ「1197日」であることが米NBCによって報じられ、何か運命的なものも感じざるを得なかった。

もし彼が全米オープンを制したならば、それは単なる個人の記録ではなく、“時代の節目”としてゴルフの歴史に深く刻まれることになるだろう。

技術が裏打ちする強さ

圧倒的なショット力を誇るシェフラーのスイングは、現代のトレンドとは異なり、非常に個性的なスタイルだ。彼はウィークグリップでクラブを握り、トップ・オブ・スイングではフェースがオープンになり、スイング中には右足を後方にスライドさせ、まるでボウリングのような動きで振り抜いている。

ウィークグリップを用いたスイングモデルでは、フェースを閉じるためにリリースのタイミングを早くする必要があるため、ダウンスイングの早い段階でクラブをインパクトへと振り戻す動きを行う。

シェフラーの幼少期からの師であるランディ・スミスは、その独特なフットワークやタイミングを矯正せず尊重し、クラブを“操作”しなくても自然にリリースが起きるように感覚を体に染み込ませてきた。スミスは、下半身を連動させながらクラブを振り戻す練習ドリルを推奨しており、切り返しの動きとリリース動作を組み合わせることで、振り遅れを防ぐことができるようになる。

シェフラーと同じようなスイングタイプの人や、振り遅れて方向性に悩むゴルファーにとって、このスミスのドリルは、スイングの再現性を高める大きな助けとなるだろう。

シェフラーのスイングの動画解説はコチラ

◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=Matthew Harris/アフロスポーツ

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