世界的に絶大な人気を誇る韓国のガールズグループ、NewJeansのハニが“職場内いじめ”を国会で証言し、韓国の内外で大きな話題となっている。ビジネスパーソンとしてキャッチアップしておきたい。
大手音楽事務所・HYBEで「職場内いじめ」
2024年6月、東京ドームで行われた来日ファンミーティングで松田聖子の「青い珊瑚礁」をカバーし、日韓で話題となった世界的人気を誇るK-POPガールズグループNewJeansのハニ(HANNI)。
そんな彼女が同年10月15日、韓国国会の国政監査に参考人として出席し、大手音楽事務所・HYBE(ハイブ)で「職場内いじめ」があったことを訴えた。
HYBEの傘下にはNewJeansの所属レーベルであるADORのほか、10以上の独立レーベル(子会社)があり、そのほとんどが同じビルに入居している。
スタジオやリハーサル用ステージまで完備されているので、アーティスト専用フロアやエレベーターなどで各レーベルの人と出くわすことも日常茶飯事。
ハニはとあるグループを見かけて挨拶するも、そのグループのマネージャーが「無視しろ」とメンバーたちに指示するところを見たそうだ。
そもそもNewJeansはデビュー当初からビル内で遭遇したお偉いさんたちに挨拶をしても、なぜか無視されることが多かったという。
このことをYouTubeチャンネルの動画を見て知ったNewJeansのファンたちは関連機関に告発。それを受けて韓国の環境労働委員会はハニを招致し、国政監査を開いたのだ。
現役アイドルが国政監査に出席するのはこれが初めてである。
「人間として尊重し合うならば、いじめは起きない」
ハニはこの日、「会社(HYBE)ぐるみでNewJeansを嫌っていることに確信が持てた」と発言した。
“NewJeansの生みの親”ミン・ヒジンがHYBEとの内紛騒動によって代表を解任された後、新たに就任したキム・ジュヨン代表にいじめ問題を相談したが、「証拠がないからどうしようもない」とうやむやにされたという。
このハニの主張に対し、「私はできる限りのさまざまな措置を講じたと思う。ただ、もっと上手くやれた部分もあったのではないかと反省する」と述べたキム代表。
するとハニは「すみませんが、最善を尽くしたとは思えない。私たちを守りたいなら闘うべきだったが、闘う意志も、アクションを取る意志もないので」と真っ向から否定した。
1時間以上の攻防が続いたなか、国会で議論されたのは、ハニのような芸能人が労働基準法上の「労働者」に該当するのか、という問題だった。
結論としては、「労働基準法上のいじめ禁止条項は、労働契約を結んだ労働者にのみ該当する。芸能人は現行法上、個人事業主と分類されるため、職場内のいじめが適用されるのは厳しい」という。
ただ、ハニらが経験したことは法律で守られない死角に置かれた労働者たちを象徴する事案であり、新たな対策を立てる必要があるということで意見がまとまった。
ハニはメルボルンで生まれ育ったベトナム系オーストラリア人で、2024年10月6日に20歳の誕生日を迎えたばかりだ。韓国語のレベルはネイティブ並みだが、政治家たちに囲まれて話すとなると相当な勇気が要るはず。
世間ではそんな彼女を国政監査に呼び、質疑応答を行ったことはある種のショーではないかという批判の声も上がった。
しかし、1人で国会に立ったハニから感じられたのは、もしこれが茶番劇だとしても、思ったことを言ってやりたいという気概。堪えきれずに涙を流した最後の発言に至っては、我々に一石を投じるものになった。
「この世のすべての問題を法律で解決できないことは知っている。それでも、人間として尊重し合うならば、少なくとも職場内のいじめや仲間外れの問題は起きない。私たちみんな、人間でしょう?」
ハニが国政監査に出席したこの出来事は、もしかしたら韓国エンターテインメント業界におけるいじめ問題の解決への糸口になるかもしれない。ハニの勇気は、バタフライ効果をもたらすのだろうか。
■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。