新作が出るたびにNetflixやSNSを賑わす韓国ドラマ。『トッケビ』『太陽の末裔 』『ザ・グローリー』など大ヒットドラマを手がけたキム・ウンスクなど、韓国ドラマ業界を引っ張る売れっ子脚本家たちのギャラが右肩上がりだという。この動向はビジネスパーソンとしてもキャッチアップしておきたい。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
『ザ・グローリー』は約1億6000万円
待望のパート2が公開されると同時に、いきなり世界26ヵ国でランキング1位になったNetflixオリジナルシリーズ『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』。高校時代にいじめを受けた主人公が人生をかけて練り上げた壮絶な復讐劇を、息を飲むようにして見守った日本の視聴者たちにも多いことだろう。
終止符が打たれたその物語の結末に関してはさまざまな意見もあるだろうが、この『ザ・グローリー』が誕生したきっかけは、脚本家のキム・ウンスクが高校生の娘からふと投げかけられた質問だったという。
「ママは私が死ぬほど人を殴るのと、死ぬほど殴られてくるの、どちらが胸が痛い?」。
質問自体も衝撃だが、“もしも”を想像すると「地獄すぎた」というキム・ウンスクは、その答えを探すべく『ザ・グローリー』の執筆を始めたそうだ。
そしてパート2の公開直前、トークイベントで語られた彼女の結論というのが非常に明快だった。
「もしも娘が死ぬほど殴られてきたら、解決方法があると思った。私には、加害者たちを地獄に引きずり込むお金がある。だから殴られてくるほうが良いという結論に至った」
「お金がある」という発言は母親としての責任感や覚悟などを示唆するものでもあるが、彼女の場合は額面どおりに受け取ってもまったく問題ない。
何しろキム・ウンスクは、『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』『太陽の末裔 Love Under The Sun』『相続者たち』など、数々のヒット作を生み出した超売れっ子脚本家だからだ。
キム・ウンスクのデビュー当初のギャラは1話につき約70万ウォン(約7万円)だったが、2004年に大ヒットした『パリの恋人』以降、3000万ウォン(約303万円)に跳ね上がったという。
それから2016年の『トッケビ』は7000〜8000万ウォン(約708〜809万円)、それ以降は1話1億ウォン(約1012万円)を上回ると言われている。
つまり、今回執筆した全16話の『ザ・グローリー』は単純計算で16億ウォン(約1億6000万円)ということになる。
1話1000万円時代の幕開け
韓国ドラマ業界で人気脚本家のギャラが1話につき5000万ウォン(約511万円)を突破したのは2010年。『美しき人生』を手がけた脚本家キム・スヒョンだ。
そのことが大々的に報じられると、自分もギャラをアップしてほしいと要求する脚本家たちが急増したという。
ちょうどその頃、韓国で爆発的に増え始めたドラマ制作会社も、地上波での編成を勝ち取るため我先に人気脚本家たちを囲い込み、ギャラの高騰を後押しした。そうやって「1話につき1億ウォン時代」が幕を開けたのだ。
現在、キム・ウンスクの他にギャラが1億ウォンを超える脚本家としては、日本でも爆発的な人気を呼んだ『愛の不時着』のパク・ジウンがいる。『星から来たあなた』『プロデューサー』など、手がける作品すべてが高視聴率を記録する彼女は、メガヒットとなった『愛の不時着』によって、キム・ウンスクとともに韓国ドラマ界を引っ張る二大脚本家の1人となった。
その次に高額のギャラを誇るのは『シグナル』『キングダム』のキム・ウニで、1話あたり5000万〜1億ウォンと推定。『皇后の品格』『ペントハウス』などを手がけ、現在Disney+で配信中の『パンドラ 偽りの楽園』にクリエイターとして参加したキム・スノクもそれくらいの額だと噂される。
ただ、過去に例を見ないほど毎年多くの韓国ドラマが世に送り出される昨今、ネームバリューのある脚本家のドラマが必ずヒットするとは限らない。実際に、『ザ・グローリー』のキム・ウンスクも2020年の前作『ザ・キング:永遠の君主』(2020)は“失敗作”と評価されている。
主演俳優に韓流スターのイ・ミンホ、ヒロインにはトップ女優キム・ゴウンを起用したにもかかわらず、無理のあるパラレルワールド設定や複雑すぎる人物関係、過度な間接広告などが視聴者の集中力を途切れさせ、韓国内での視聴率は期待に満たなかった。
その後、娘からも「キム・ウンスクの時代は終わった」と言われて心機一転し、専売特許だったラブコメを捨てて復讐劇に挑戦。『ザ・グローリー』で新境地を開くと同時に名誉回復したのだから、さすが売れっ子というべきか。
いずれにせよ、今この瞬間にも世界を魅了する韓国ドラマは多くの人気脚本家たちによって作られている。
特に2023年は『愛の不時着』のパク・ジウン、『キングダム』のキム・ウニら売れっ子脚本家たちが口裏を合わせたかのように新作を披露する予定だ。『愛の不時着』のように世界中を魅了する新たな韓国ドラマの誕生に期待したい。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。