GOURMET

2025.11.23

北と南を紡ぐひと皿──ヒルトン京都の新オステリアが描く「イタリアンの現在地」

京都・河原町に立つヒルトン京都のメインダイニングが、静かに、しかし確実に表情を変えた。「オステリア イタリアーナ セブン・エンバーズ(OSTERIA ITALIANA 7EMBERS)」は、数々の国際舞台で経験を積んできたイタリア出身のマリアンジェッラ・ルッジェーロ氏を総料理長に迎えた。

北と南を紡ぐひとさら皿──ヒルトン京都の新オステリアが描く「イタリアンの現在地」
ヒルトン京都 総支配人 ジェームス・マーフィー氏(左)、マリアンジェッラ・ルッジェーロ総料理長(中)、在大阪イタリア総領事 フィリップ・マナーラ氏(右)。

マリアンジェッラ・ルッジェーロ​氏は、南イタリアにルーツを持ち、ミラノで育った。ケータリングビジネスや欧州主要国、エジプト、中東などでも腕を振るい長年ヒルトングループでも要職を歴任。2022年には「Hotelier Middle East」で最も影響力のあるシェフ50人に選ばれ、イタリア政府より「ユネスコ世界遺産・イタリア料理のアンバサダー」の称号も授与。そしてこの度、ヒルトングループ国内初の女性総料理長として着任した。

表札

ノンナのレシピとプロの洗練が同居する料理哲学

ルッジェーロ氏の料理はノンナ(祖母)から受け継いだ家庭料理の根幹を尊重しながら、北イタリア深みと南イタリアの快活さを同じテーブルに饗する。彼女自身が“2つのイタリア”で培った技術を生かし、パルミジャーノやトリュフといった北の素材を、トマトや魚介の鮮烈な旨みに重ねることで、一皿の中に“対話”を生み出す。こうした作り手としての在り方こそ、イタリアの食文化を世界へ伝える「アンバサダー」としての評価にもつながっているのだろう。

京都の旬を受け止める、ローカルとの協奏

特徴的なのはルッジェーロ氏が京都や淡路島など関西の素材を積極的に取り込んでいる点だ。京野菜や近海の魚介、地元で育まれた肉類、淡路島のチーズなどをシェフの経験で再解釈することで、「和」の繊細さと「伊」の快活さが程よく折り合う。

ルッジェーロ氏の料理には“家庭の記憶”があるからこそ素朴な温もりが宿り、しかしその底流にはプロフェッショナルとしての徹底した技術と洗練があるため、結果として“プロの家庭料理”が成立している。訪れる人はここで、懐かしさと新たなイタリア料理の発見を同時に味わえるのだ。

家庭的でありながらモダン──皿の向こうにある物語

試食会でサーブされたカヴァテッリ 京丹波高原豚ラグーは特に印象深い逸品だった。祖母から受け継いだ手打ちのパスタの弾力たるや!肉の濃厚なうま味が口いっぱいに広がり至福。かと思うと、淡路産フィオルディラッテモッツァレッラチーズとパルミジャーノ・レッジャーノを使った南イタリアの王道ピザ・マルゲリータはもっちりしていながら軽やか。店内の釜で焼かれ、芳ばしい香りが広がる。

他にもミラノの名物料理オッソブーコをリゾットにしたり、タコとケッパーのトマト煮込みなどイタリアを縦断するかのごとくメニューが展開された。かように地場食材の個性を損なわずに引き立てる料理の設計が印象深い。パスタは毎日手作りされ、窯で焼き上げるピザは天然酵母を使用するなどこだわりが詰まっている。

「実は家族伝統のレシピを提供するのは初めて。温かい気持ちになるものの、今は亡き人のことを思い出して少しさみしくもなります」と語ったルッジェーロ氏。「日本の人や食材に出逢い、もっと素晴らしい料理を届けられるはず」と、今まで開かずに取って置いた引き出しを開ける決意をしたと語った。

空間デザインとサービスが整える体験の完結性

こちらのオステリアはヒルトン京都の建築的背景と調和するデザイン。木や和紙を想起させる素材使いとモダンな照明が織りなす落ち着いたムードは、カジュアルさも備えつつ、ビジネスで訪れるゲストの会食や接待、記念日というシーンに馴染むだろう。

ホテル・ヒルトン京都自体も「京都SYNAPSE」をコンセプトに、伝統・革新・現代デザインが共存する上質な空間に仕上がっている。エントランスから広がる縦にも横にも奥行きあるロビー、京都の伝統工芸にインスパイアされたアートが映える客室などが特徴的。ダイニングには自然光と季節の移ろいが贅沢に届く設計に。

食後の余韻を紡ぐスパの存在とルーフトップバー

また、滞在中にぜひとも試して欲しいのがヒルトン初のオリジナルスパ「eforea Spa」。使用するトリートメントオイルはヒルトン京都限定だ。京都産の北山杉やクロモジなどの精油を用い、心身の調和を促す。食の高揚から“静の時間”へと自然に移行させることで、ここに滞在すること自体がひとつの洗練された体験となるだろう。

そして屋上にある「クラウドネスト・ルーフトップバー」(季節限定営業)も食後の余韻を楽しむのに最適だ。こちらでは、にぎわう京都の街並みを見下ろしつつ、フリーフローでシャンパーニュを楽しめるコースもある。

ヒルトン京都の新しいオステリアは、世界各地で研鑽を積んだ女性総料理長が、祖母のレシピに根ざした温かさとグローバルな技術を融合させ、京都という土地の素材と対話することでここだけの食体験を構築している。出張や接待で世界のあちこち訪れている経験豊かなビジネスパーソンにとって使い勝手がいい。彼女の到来は、ホテルのダイニングを単なる食事の場から洋の東西とイタリアの南北がクロスする文化的な交差点へと押し上げる契機へとなるだろう。

外観
オステリア イタリアーナ セブン・エンバーズ
ランチ:11:30~14:30(L.O. 14:00)
ディナー: 17:30~22:00(L.O. 21:30)

問い合わせ
ヒルトン京都 TEL:075-212-8007

TEXT=藤村岳

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