多忙を極める経営者ほど、睡眠は削られがちだ。だが、リカバリーウェア「BAKUNE」などを展開するTENTIALを率いる中西裕太郎は、むしろ逆を行く。自らの不調体験からコンディショニング事業を立ち上げた経営者は、日々の睡眠にどう向き合っているのか。今日から真似できる、具体的な睡眠投資術に迫った。【特集 睡眠投資2026】

上場準備で再認識した睡眠の大切さ
リカバリーウェア「BAKUNE」を筆頭に、睡眠を中心としたコンディショニングにまつわる製品を次々と生み出すTENTIAL。
代表を務める中西裕太郎氏は、自身の睡眠にも当然こだわりがある。その根っこにあるのは、高校時代のある経験だ。
「高校時代に、病気でサッカー選手になる夢を諦めざるをえなかったんです。その経験があったから、健康への意欲はすごく高まりました」
その意識の変容は、やがてTENTIALの起業へとつながっていく。経営者となった中西氏は、ビジネスパーソンとして高いパフォーマンスを維持するために、自身の睡眠に対してより深く向き合っていった。
睡眠の質は、経営判断の質に直結する。中西氏はそれを実感したエピソードとして、上場準備をしていた頃の話をしてくれた。
「僕の役割は、事業を推進するアクセルを踏むことです。でも、ちゃんと寝ていないとその踏む力が落ちてしまう。頭が回らなくなるんです。創造性や意思決定の質は、きちんと睡眠が取れているかどうかで確実に変わります。そのことは上場準備の時期にも実感しました。やることが本当に多くて、どうしても寝不足になってしまう。するとそれが、焦りや思考の浅さにつながっていく。きちんと睡眠がとれていればもっといい判断ができていたかもしれません。睡眠の重要さを再認識しました」
欠かせない夜のルーティン
では、中西氏は睡眠の質を担保するために、どんなルーティンを心掛けているのか。まず徹底していることは、帰宅後の入浴だという。
習慣としているのは、40度ほどの湯につかる、30分ほどの半身浴。湯船にはTENTIALの重炭酸入浴剤を入れて、じっくりと汗をかく。その狙いのひとつは血行を促すことだ。
「立場上どうしても会食が多いのですが、それでも22時から23時には帰るようにしています。そして帰ったら必ず、30分ほど入浴する。これが日々の欠かせないルーティンです。日中は座りっぱなしで、血行が回っていない感覚があります。すると頭がモヤモヤしたり、身体が重い感じがする。だから、入浴でちゃんと血流を良くして汗をかいて、日中のマイナスをカバーするようにしています。シャワーだけだとダメですね。湯船に浸かることに、すごくこだわっています」
お酒はあまり飲まないが、付き合いで飲む際には水をたくさん飲む。そして早めに切り上げて、帰宅したら入浴で汗をたっぷりかく。その日の負債は翌日に残さない。それが質の高い睡眠につながっているという。
そしてこの30分には、もうひとつの意味がある。それは、身体だけではなく“頭”を整える時間でもあるということ。経営者である中西氏にとって、それは欠かせない時間だという。
「お風呂には携帯を持ち込まず、1日の出来事を整理するんです。そして入浴後は机に向かいます。日記を書いたり、入浴中に考えたことを紙に書き出していきます。この作業をしておかないと、睡眠時間が十分でも心理的な疲れが翌日に残る感覚があるんです。でも、考えるべきことを整理して翌日やることも具体的に決めてしまえば、安心して眠れます」
数値管理と仮眠でパフォーマンスを維持する
心身ともに眠る準備が整ったら、いよいよ寝室へ。もちろん、睡眠環境についても中西氏にはこだわりがある。そのひとつが「湿度」だ。
睡眠中、人は汗をかく。そしてその汗の処理は、睡眠の質を左右する。なぜなら、布団の中のムレは快眠の妨げとなるからだ。
だからこそ、吸放湿性や通気性に優れた寝具やパジャマは快眠のマストアイテム。加えて中西氏は、湿度計を寝室に置き、数値を見ながら室内の湿度コントロールも心掛けているという。
「湿度が高いと寝苦しさを感じてしまうんです。だから寝室の湿度にはこだわっています。理想の目安は50%くらい。湿度計を確認しながら、加湿は加湿器、除湿はエアコンでコントロールします。湿度が高い日は、寝る前にエアコンをガンガンにきかせて湿度を下げておいて、寝る時に適正温度に設定を戻しています」
寝室の湿度に限らず、中西氏は睡眠を“感覚”だけに委ねない。Fitbit、Apple Watch、Oura Ring、SOXAIなど、さまざまなウェアラブルデバイスを活用し、自身の睡眠スコアを計測しているという。
また、睡眠のために中西氏が取り組むのは、夜の工夫だけに限らない。日中は、仮眠も積極的にとる。
アイマスクは常に持ち歩き、長距離移動の際には仮眠を。社内にはチャージルームという仮眠スペースもつくり、よく利用しているという。
中西氏にとって、仮眠は日中のパフォーマンス維持のために欠かせない習慣になっているのだ。
「夕方になるとどうしても思考能力が落ちてしまいます。だからその前のタイミング、11時〜15時ぐらいの間に仮眠をとるんです。時間は20〜30分ほど。わずかな時間ですが、仮眠をとると頭がクリアになって、また仕事に向き合える。会食前に仮眠をとることも多いです」

TENTIAL代表取締役CEO。埼玉県生まれ。プロサッカー選手を志すも、高校時代に病を得て断念。その原体験から健康への関心を深め、ベンチャー・大手企業での経験を経て2018年にTENTIALを創業。リカバリーウェア「BAKUNE」などヒット製品を世に送り出す。2025年2月、東京証券取引所グロース市場に上場。
勝負を左右する身体と精神のコンディショニング
睡眠のために、夜も昼も工夫を凝らす。そんな中西氏は、睡眠スコアが下がる要因を「身体」と「精神」に大別できると自身の経験から分析する。
「明確にスコアが下がるのは、汗を流せていない、運動ができていない時期。もうひとつは精神面で、やるべきことやビジョンが見えていない時です。だから、質の高い睡眠のためには、『身体』と『精神』のコンディショニングが欠かせないんです。精神面で言えば、頭のなかをどれだけ整理された状態にできるか、そこに尽きます。自分で解決できることは、なるべく頭を整理しておく。それが、大事だと思っています」
そんな中西氏だが、かつては事業や資金繰りの不安で朝まで眠れない夜もあったという。ベンチャーとして走っていた頃だ。
「来月、資金がショートするのではないか、この商品を今月中にリリースできるのか、そんなことを考えて朝まで眠れない時期が僕にもありました。不安を抱えたままだと眠れないし、パフォーマンスも下がる。悪循環ですよね。それでは事業も長続きしない。睡眠の量は確かに大切です。できれば十分な時間を確保した方がいい。でも僕は、睡眠時間を少し削ったとしても、30分かけて頭を整理したい。その方が睡眠の質が高いと実感しています。目の前の問題に対して、逃げたり誤魔化したりせず、きちんと向き合う。それこそが、よく眠れる秘訣なのかもしれません」
TENTIALでは、経営幹部の睡眠スコアを、自社の研究所で分析し、経営と睡眠の関連性を探る取り組みもスタートした。その分析対象を全社員まで広げる構想もあるという。
もう、仕事のために睡眠を削る時代ではない。睡眠は、ポテンシャルを引き出す大きな要素。そこに投資できる者こそ、ビジネスでの勝者になれるはずだ。

