「たくさん寝れば正解」という時代は、静かに終わりつつある。睡眠研究は日進月歩で進み、かつての“常識”のなかには、すでに更新されたものも少なくない。TENTIALのコンディショニング研究所で、トップアスリートの睡眠をサポートなども行う藤田樹里氏に、多忙なリーダーこそ知っておきたい睡眠の「新常識」を聞いた。【特集 睡眠投資2026】

睡眠の専門家が教える、最新の睡眠知識とは
「BAKUNE」のリカバリーウェアシリーズをはじめとする製品展開で知られるTENTIALは、単に製品を売る会社ではない。睡眠や食事、運動といった日々の営みを整え、人が本来のポテンシャルを発揮できる状態をつくるための「コンディショニング」を、科学と現場の両面から追求している。その研究の中核を担うのが、社内に設けられた「コンディショニング研究所」だ。
同研究所は、臨床試験や学術機関との共同研究を通じて、科学的根拠に基づいた製品・プログラム開発に取り組む部門。コンディショニングの知見を日常生活に届けるために、アスリート・一般生活者・企業・自治体向けのコンディショニングセミナーも実施している。
その研究所の立ち上げメンバーであり、現在はサポートプログラムの開発を手がけているのが藤田樹里氏だ。もともとは事業開発に携わっていたが、自身が不眠に苦しんだ経験と、アスリートを支えるなかで得た気づきから、研究所を立ち上げた。上級睡眠健康指導士、スリーププランナーといった資格を持ち、科学的な知見と現場の実感を往復しながら、日々アスリートやビジネスパーソンの睡眠と向き合っている。
睡眠を知り尽くした専門家は、いま何を“新常識”と捉えているのか。多忙なエグゼクティブこそ知っておきたいトピックを、一問一答で紐解いていく。
──睡眠は「量より質」とよく言われます。実際のところは?
「量より質」についてはたくさんの方から質問されます。「ショートスリーパーになれますか?」「短時間でどう回復すればいいですか?」という質問もとても多いです。その答えは、必要な睡眠量を確保したうえで、質を高めてくださいということになります。では、気になるのは理想の睡眠時間ですよね。皆さんやはり「何時間寝ればいい?」と、明確な数字を知りたい。でも実は、その数字を求めること自体にリスクがあるんです。
というのも、理想の睡眠時間は、遺伝的な要素や環境的な要素により、個人差があるからです。一人ひとり、必要な睡眠時間は違うんです。少し前までは「日本人の睡眠時間は短い、だから長く寝ましょう」という風潮がありましたよね。でも今、重視されているのは「睡眠休養感」というもの。朝起きたときに、どれくらい休まった感覚があるか、という主観的な評価です。
睡眠時間や睡眠スコアなどの客観的な数値も重要ですが、同じくらい自分の感覚も大事にする。そしてその両方を意識しながら、自分にあった睡眠習慣をデザインしていくことが求められています。
──どうやって「自分の睡眠」をデザインすればいい?
ひとつは、ウェアラブルデバイスなどの客観的なデータを活用する方法です。ただ、ありがちなのが、毎日データを見て「今日は良かった」「悪かった」と確認するだけで終わってしまうこと。大事なのは「なぜ低かったのか」を掘り下げて、体感(睡眠休養感)と紐づけていくことなんです。
「あの日は寝る直前にお風呂に入ったな」「食事が遅い時間だったな」といったその日の行動や環境、睡眠休養感などの体感も合わせてデータを見る。そうすれば、入浴した日はスコアが高い、寝る前に食事した日はスコアが低い、といったことがだんだんわかってきます。あとはその分析結果を生活にいかしていけばいいわけです。
注意したいのは、データ主義になりすぎないこと。「データが正義」と思い込みがちですが、睡眠においては主観的な感覚も同じくらい重要です。データ上は中途覚醒が多くても、主観的には気にならないこともある。そういう場合は、主観を優先してもいいんです。
──「睡眠のゴールデンタイム」は本当にあるの?
かつて言われた22時〜深夜2時がゴールデンタイムという“時間帯”の考え方は、実は正確ではありません。
重要なのは、眠りに落ちてからの最初の90分です。この間に、成長ホルモンがたくさん分泌され、それが疲労回復につながると言われています。つまり、何時に寝るかという時間帯ではなく、最初の90分でどれだけ深く眠れるか。そのことを重要視してください。そして90分の質を高めるために、寝る前の過ごし方や睡眠環境が大切になってきます。

──酒好きはどうすればいい?
正直に言うと、アルコールは睡眠に良い影響がありません。寝つきはスムーズになりやすいのですが、後半にかけて質が落ち、覚醒を招いてしまいます。
とはいえ飲酒を避けられない日もありますよね。アルコールを分解する能力は体質によって変わるので一概には言えませんが、前提として心がけたいことは、就寝の100分以上前には飲み終えること。あとは飲みすぎないことに加えて、飲酒時は水分を十分にとることもおすすめできます。
──リーダーが知っておくべき睡眠×ビジネスのデータは?
令和8年度の健康経営度調査では、新たに睡眠の質向上に向けた取り組みが独立設問として新設されました。その背景にあるのが睡眠が生産性に深く関わるというデータで、睡眠不足や質の低下は、労働生産性の低下を招くということがわかっています。会社のパフォーマンスを上げるためには、社員の睡眠の質も上げていく必要があるということです。
もうひとつ知ってほしいのが、働く世代にも多い「リベンジ夜更かし(就寝先延ばし)」です。日中に充実感が得られないと、目的もないのに夜遅くまで作業を続けたり、スマホをダラダラ見たりして、失った時間を取り戻そうとするように夜更かししてしまう。すると就寝時間が後ろにずれ、翌朝がだるくなり、それがまた日中に響くという悪循環に陥りやすいんです。
──「リベンジ夜更かし」をやめる方法は?
2つの視点があると言われています。ひとつは短期的な視点で、ダラダラ過ごすのをやめ、日中に本当にやりたいことを意識的にやって「今日はこれができた」という充実感をつくること。もうひとつは中長期的な視点で、「睡眠=削るもの」から「睡眠=投資」へと考え方をシフトすること。将来チャレンジしたいことがあるなら、そのために健康な身体が要る。明日以降の自分をつくるために、今日眠る。そう捉え直すことです。
ただ、夜型・朝型は必ずしも矯正する必要はありません。これも個人差があるからです。大事なことは、自分のリズムをできるだけ一定のサイクルで回すこと。夜型の人は夜のほうが生産性が上がることもあるので、リズムをバラバラにせず、睡眠時間をきちんと確保したうえで自分にとって最高のサイクルをつくる視点が大切です。
──日中のパフォーマンスを保つコツは?
仮眠(パワーナップ)を、ぜひ取り入れてほしいですね。今、仮眠によって生産性が上がるというデータが出ていて、ビジネスパーソンにも強く勧められています。ポイントは、20分程度の仮眠を15時くらいまでに取ることです。
注意点は、30分以上寝ないこと。長く寝ると深い睡眠に入ってしまい、かえって起きづらくなってしまいます。20分ほどならスッと起きられて、夜の睡眠への影響も少ない。ちなみに私は、仮眠の直前にコーヒーを飲むようにしています。というのもカフェインの覚醒効果が出始めるのが摂取後20分後くらいで、ちょうどいいタイミングで目覚められるんです。コーヒーを飲んで仮眠。これ、おすすめです。
──寝る前のスマホや運動はよくない?
ランニングやジムでしっかり身体を動かす運動は、就寝の2〜3時間前までに終えるのが良いと言われています。なぜなら上がった深部体温(体の中心の温度)が下がるまでに時間がかかり、体温が高いままだとスムーズに入眠できないためです。一方、ヨガのように体温があまり上がらないリラックス系なら、1時間前でも影響は少ないと考えられます。
スマホについては、実は光そのものよりコンテンツの内容の影響が大きいと言われています。ワクワクする内容だと脳が興奮して妨げになりますが、動物の動画のように単調でリラックスできるものを流して寝落ちする分には、脳への影響は少ない。それで眠れて朝すっきり起きられているなら、気にしすぎなくていいんです。

TENTIALコンディショニング研究所。もともとは事業開発に携わっていたが、自身が不眠に悩んだ経験と、アスリートのサポートを通じた気づきから、製品とコンディショニングを掛け合わせる部門を立ち上げた。上級睡眠健康指導士、スリーププランナーの資格を持ち、客観的なデータと科学的知見をもとに、一人ひとりに合った睡眠のデザインを支援している。
──寝るときに「何を着るか」で、眠りは変わる?
スウェットや部屋着ではなくパジャマを着ることをおすすめします。睡眠中は寝返りなど、日中と異なる動きをします。その動きを妨げない、ストレスの少ないパジャマを着ることは睡眠の質の向上にもつながります。素材は、主観的に心地いいと感じる肌触りのものを選んでください。
また、深部体温(内臓や脳の温度)も、質の高い睡眠のための重要な要素です。深部体温が下がると、自然な眠気が誘発されると言われていますが、人は手足から放熱して深部体温を下げます。その放熱を妨げないことも、パジャマや寝具に求められる機能です。もちろんTENTIALのリカバリーウェア「BAKUNE」も、こうしたことに配慮しながら商品を開発しています。
深部体温のコントロールで最も効果的なのは、就寝前の入浴です。38〜40度のお湯に10〜15分。就寝の90分ほど前に入ると、ちょうど寝るタイミングで深部体温が下がります。ただ、研究やデータはあくまで統計的なもの。最後は自分の身体で試しながら、朝すっきり起きられるベストな方法を見つけてください。

