健康や高いパフォーマンスを維持するために、睡眠を味方につける人が増えている。一方で、睡眠中は意識を失うため、自分がどのくらい、どのように眠れていたのかを正確に捉えるのは難しく、実際の睡眠状態と本人の認識にズレが生じることもある。「自分の睡眠状態を客観的に把握することが、より良い睡眠への近道になることも多い」と、S’UIMIN睡眠ウェルネスアドバイザーの谷明洋氏は語る。#前編 【特集 睡眠投資2026】

睡眠誤認とは? 自身の睡眠をどう把握するか?
「睡眠誤認」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 客観的な睡眠と本人が感じている睡眠にズレが生じている状態のことを指し、「客観的にはよく眠れているのに、『眠れていない』と感じている人も少なくない」と谷氏は言う。
同じように『眠れていない』と感じていても、客観的によく眠れている人と、客観的にも眠れていない人では、改善のために考えるべきことが変わってくる。では、自分の睡眠に何が起きているのかを知るには、どうすればよいのだろうか。
「そのひとつの手段が『睡眠計測』です。主観的に『睡眠の質が悪いのかもしれない』と感じている方が計測すると、客観的にも寝つきが悪いのか、睡眠が浅くて不安定になのか、睡眠時無呼吸などの可能性があるのか、それとも睡眠時間が短いだけなのか、などの問題を切り分けやすくなります。もちろん、主観と客観で生じているズレ、つまり睡眠誤認に気付くきっかけにもなります。の要因を考えるうえでも、重要な情報が得られます『眠れていない要因とその対策』のヒントが得ることができるのです」
谷氏が所属するS’UIMINの睡眠計測サービス「InSomnograf(インソムノグラフ)」は、世界的睡眠研究施設である筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構と共同開発し、睡眠状態を医療レベルで“見える化”するもの。睡眠時の脳波データを解析すると、寝つくまでの時間や途中で目が覚めていた時間、ノンレム睡眠・レム睡眠などの時間が示され、自分の睡眠の質を客観的に知ることができるというものだ。

※専門家の個別アドバイス付きレポートは含まれません。
ここで、睡眠計測サービスをゲーテ編集部スタッフが実際に2日間、受けてみることに。その結果はどうだったのか、実際に谷氏に解説してもらった。

ゲーテ編集部 主観的には睡眠についての悩みはないのですが、計測器が気になって、初日はあまり寝つきが良くなかった印象で……。
谷 なるほど。でも22時から翌日の5時まで大きな中途覚醒もなく眠っていますね。深い睡眠はありませんが、全体としてはよく眠れているほうです。
ゲーテ編集部 初日は私のベッドで子供と一緒に寝ました。部屋が暗いと怖がるため、普段は照明をつけて寝ています。夜中に何度か目を覚ますことがありましたが、これは問題ないでしょうか?
谷 お子さんが寝返りを打つと、その動きで目が覚めてしまうということはありますよね。ただし、目が覚めてもすぐに再び眠れているのであれば、それほど気にすることはありません。2日目は睡眠の状態が上がっていますが、思い当たることはありますか?
ゲーテ編集部 この日は子供と別に寝たんです。いつもはシャワーで済ませていましたが湯船に浸かり、照明も消して寝ました。そうしたら翌朝までぐっすり(笑)。目覚まし時計よりも早く、目覚めました。
谷 1日目に比べて深い睡眠が安定して増え、細かい覚醒やN1の繰り返しも減り、睡眠がだいぶ変わっています。睡眠を悪化させてしまう要因を取り除いたことが、良い睡眠につながったのかもしれませんね。
ゲーテ編集部 本当ですね。翌朝の目覚めから日中のパフォーマンスまで、睡眠環境を整えただけでこんなに違いが出るんだ、と驚きました。私の場合は、睡眠時間を増やすことよりも睡眠環境を整えることのほうが重要みたいです。
「『眠れていない』と感じているなら、実際にどんな睡眠をとっているのか客観的に知ることで、自分にあった睡眠対策が見えてきます。睡眠計測はそのための、とても有効な手段なのです」と谷氏。これまで気づかなかった改善のヒントが見えてくるかもしれない。
睡眠にまつわる素朴なQ&A
最後に、気になる睡眠の疑問・質問をまとめて谷氏に聞いてみた。
Q:「ショートスリーパー」って存在するの?
「実際に、生まれつき短時間の睡眠で足りる方もいらっしゃるようですが、一方、自分ではショートスリーパーだと思っていても、 実際は『無自覚な睡眠不足』であることが多いです。というのも、慢性的な睡眠不足では、眠気をあまり感じなくなることがあるからです。
実は、眠気を感じるということは、自分の睡眠時間が足りているかどうかを知るうえでも、とても大切なこと。『短時間睡眠でバリバリ働けてすごい』と理想のスタイルのように捉えるのは良くありません。また、『平日を短時間睡眠で過ごし、週末に長く眠る』というのも生活リズムを乱すことにつながります」
Q:企業によっては昼寝時間を設けているところも。昼寝は必要?
「まずは、夜の睡眠をしっかり確保することの方が大切ですが、それが難しい場合は、15分程度の昼寝をすることも考えられます。あくまでも『午後のパフォーマンスを下げないため』の対処療法と考え、夜の睡眠を妨げないことがポイントです」
Q:早寝・早起きはやはり大事?
「『早寝・早起きが正解』とは、一概には言えませんね。私たちの身体には体温やホルモン分泌、睡眠などの生体リズムを約24時間周期でコントロールする『体内時計』が備わっています。朝型・夜型は個人差のほか、年齢による変化もあり、10代〜20代はこの体内時計が後ろ倒しの夜型に、逆に40代〜50代以降は朝型になりやすいというデータもあります。
学生が朝起きられず寝坊してしまうのも、年齢を重ねると早く目が覚めるようになることも、ある意味、自然な現象であることを知っておくことも大切です。場合によっては、それぞれの身体の仕組みを考慮して柔軟に就業時間を決めた方が、生産性が上がるかもしれません」
Q:理想の睡眠時間を知る目安はある?
「ひとつの探し方として、まずは休日も含めて毎日同じくらいの睡眠時間を確保して1週間ほど過ごしてみてください。次の週には、15〜30分ほど睡眠時間を伸ばし、日中の調子の変化などを確かめます。もっと眠れそうであればさらに延ばし、逆に眠れなくなってしまうようであれば、睡眠時間を短くします。これを繰り返し、『目覚めはすっきりしているか?』『日中のパフォーマンスに変化はあるか?』などを確認してみるとよいでしょう。
大切なのは、『○時間眠れば正解』ではなく、自分が本当にその時間でいいのかを知ることが大切です。自分のベストな睡眠時間を探してみてください」
Q:睡眠薬とどのように付き合えばいい?
「まず、睡眠薬にはさまざまな種類があるので、医師に症状や原因を評価してもらい、適切な薬を使うことが基本です。近年は、依存性などのリスクが比較的小さい薬も増えているため、『睡眠薬は怖い』と必要以上に避ける必要もありません。また、薬だけに依存して漫然と続けるのではなく、生活習慣や不眠の原因にも目を向けながら、必要に応じて減量・終了まで含めた治療戦略を医師と考えていくことが大切です」

S’UIMIN睡眠ウェルネスアドバイザー。1980年静岡市生まれ。株式会社S’UIMINで睡眠改善プログラムの開発・実施に従事。プロスポーツ選手や企業従業員、健康診断オプション検査の利用者など、年間200名以上の睡眠改善に携わる。睡眠脳波計測で得られた客観データと本人の主観を照らし合わせ、一人ひとりに最適な睡眠衛生指導を提供する。

