若者の凶悪犯罪が増えている。その原因を養育環境に求める声もあるが、安藤氏によれば、犯罪にも遺伝が関係しているという。我が子にその傾向がある場合、親はどう対処すべきか。行動遺伝学者、安藤寿康氏連載最終回。【その他の記事はこちら】

「親の顔が見たい」は的外れ
トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)による強盗殺人事件や集団暴行殺人、違法薬物の使用・売買など、悲惨な犯罪に加担する若者が増えている。こうした事件が注目されるたびに聞こえてくるのが、「親の顔が見たい」「どんな育ち方をしたのか」という声だ。「罪を犯すのは生育環境に問題があるから」という考えは根強いが、安藤氏は、「学力やパーソナリティと同様、15歳未満、つまり中学生くらいまでは環境の影響が大きいですが、15歳以上になると遺伝の影響が上回ります」と指摘する。
「15歳は、そろそろ分別がつく年齢です。15歳未満の子供が、飲酒や喫煙、不純異性交遊、万引きといった非行に走るのは、悪い仲間がいるとか、社会的モラルが低いエリアに住んでいる、非行を促しやすい場所に遊びに行くといった環境に加え、この年代ならではの好奇心や興味から、悪いとは知りながら“つい”やってしまう、いわば若気の至りであるケースも少なくありません。
対して犯罪は、強盗、殺人、詐欺といった重大な反社会的行為。事の重大さがわかる年齢になっても、衝動に歯止めが効かず、悪事を働いたり、繰り返し犯罪に手を染めたりするのは、遺伝の影響が大きいというデータが出ています」
罪を犯しやすい環境から子供を遠ざけるのが重要
罪を犯すか否かにも遺伝が関係している――。衝撃的な事実だが、我が子にその傾向があるかどうかは、どうすれば見極められるのだろう。「激高しやすい」「すぐに手が出る」「衝動的」といったわかりやすい特性があればともかく、「犯罪につながるような“心の闇”までは、親が見抜くことは難しいと思います。心の闇は、事件が起こった後に表面化するケースがほとんどではないでしょうか」と安藤氏。
「勘違いしていただきたくないのですが、遺伝的素質があるからといって必ずしも犯罪に手を染めるわけではありません。そうした素質のある人に、運の悪い出会いが重なって引き起こされてしまうのです」
つまり、「大金が欲しい」と思っていた時に、強盗を計画している人物と出会い、格好のターゲットの存在を知らされ、必要な道具もそろっていて強盗を決行する環境が整っていた、といったところか。
「ごく一部の例外はあるにしても、そうした環境に陥らなければ、犯罪につながる素質は発現しないと思います。幼少期に、悪いことは悪いと子供に教える、子供に攻撃性が認められるならそのエネルギーをスポーツなどで発散させる、そして、子供を犯罪に手を染めやすい環境に置かない。残念ながら、親にできるのはこのくらいではないでしょうか。若い世代に限りませんが、犯罪を減らすには、社会全体の取り組みが求められると思います」
良くも悪くも、親は自分が思っているほど、子供の人生をコントロールできない。その事実を悲観せず、ポジティブなあきらめに変換していくのはどうだろうか。そうすれば、子供にさまざまな体験を与えてやれないと嘆くことも、良い教育を授けているのだから期待に応えるべきだと子供にプレッシャーを与えることもなくなるはずだ。
「遺伝とは、とても複雑で豊かなもの。極端な貧困や虐待のある家庭は別ですが、一般的な家庭であれば、子供は自分の遺伝的素質を勝手に伸ばしていきます。親御さんは、子育てマニュアルにあまり振り回されず、自分が良いと思うもの、できることを子供に授け、あとは静かに見守ってあげてください。きっと遺伝が、子供を“あるべき居場所”に自然と導いてくれますよ」
安藤寿康 / Juko Ando
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授、教育学博士。日本における双生児法の第一人者で、専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。『生まれが9割の世界をどう生きるか』『教育は遺伝に勝てるか?など著書多数。

