放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんと、NSC大阪校13期で同期だった、次長課長・河本準一さんの対談記事をまとめてお届け! ※2025年1月掲載記事を再編。

1.「パチンコと日雇いで食いつないだ」次長課長・河本がNSC同期の桝本壮志と振り返る青春の日々

桝本 この「恵比寿 代官亭」は僕らがよく来るお店だけど、準(河本)は久しぶりだよね。僕らはNSC大阪13期の同期ってことで、当時の思い出話とかから話そうか。
河本 やんちゃの集まりやったんで、むちゃくちゃだったよ。
桝本 僕らは「不良の13期」って言われてたから。野性爆弾にブラックマヨネーズ、俳優になった三浦誠己、クワバタオハラ、超新塾、チュートリアルの徳井とか……。
河本 あと、8期生やけどもう1回入り直してるチャンス大城(笑)。
桝本 僕と準はNSCに入る前に出会ってるんだよね。当時はNSCに入るための面接があって、僕らは出身が岡山(河本)と広島(桝本)で近かったんで、僕と後の「次長課長社長」の4人で面接受けてね。今は次長課長に「社長」がいたことを知らない人も多いかもしれないけど、社長は山下っていうて、今は美容師やったっけ?
河本 埼玉でお店構えてる。面接受けた時はトリオを組むとか考えてなくて、「とにかく3人で受けてみるか」ってノリだった。
桝本 今でも覚えてるのは、準は昔から喋りが達者やから、面接でも面接官を圧倒するぐらい喋ってたこと。あと、男前の井上が一言も喋らなかったこと(笑)。その時俺らは名前も知らんから「岡山くん」「広島くん」と呼び合っていて、入学式で再会して準に、「あー、広島くん!」って言われたのも覚えてる。
河本 結局4人とも受かった。
桝本 「よかったなぁ」言うて、その日にカラオケ行って。そこで聞いた井上と準のCHAGE and ASKAがメッチャ上手くて。
河本 『万里の河』な。
桝本 そうやった。『万里の河』で井上の声を初めて聞いたわ(笑)。
2.関東と関西で違う! タモリ、さんま、とんねるず…大御所に好かれる次長課長・河本に聞く、上司との付き合い方

桝本 これは僕が裏方だから分かるんですけど、準ちゃんは木村祐一さんや松本さんだけでなく、タモリさんはじめ非吉本の大御所の方にも好かれている。そういった目上の人から気に入ってもらえるコツを聞きたいなと思って。
河本 コツは1つだけで、「自分をアピールしないこと」。だいたいの人って、「僕ってこういう人なんです」「僕を覚えてください」って主張しがちなんだけど、大御所さんの多くは「お前は俺をどうやって神輿(みこし)の上に乗せてくれんの?」と思ってる。「お前と俺とは芸歴の差があるんだから、お前らの担いだ神輿の上に乗るのは俺だ」って。だから、まずは気持ちよく乗せてあげたほうがいいと思う。自分の良さを見せるのは、仲が深まってからでいい。
桝本 気持ちよく神輿に乗せてあげるためには、具体的には何をすべきなのかな?
河本 とにかく質問をして、興味を持っている態度を見せること。人間は自分の好きなことを喋りたい生き物だから。聞いているフリで右から左に全部流してもいいんだけど、とにかく聞き続ける。たとえ自分の方が知識があったとしても、何も知らないテイで「もっと教えてください!」と目をキラキラさせて話を聞く。
桝本 どこでそういうテクニックを学んだの?
河本 育った環境かね。僕は他人が自分の家に入り込んでくるような環境で育ったので、「この人を怒らせないようにするにはどうしたらいいか」と必死だった。その人を喜ばせないとどつかれるので、相手の機嫌を取る方法が小学生の頃から身に付いてきたんだと思う。
3.実は同期一番のバケモノ芸人。河本が語る相方・井上聡のすごさ

河本 最近「次長課長が2人で活動しているのを見ませんね」って言われるけど、舞台としては月に10本出ているし、大阪で番組もある。2週間に1回ラジオもやってるし、月の半分は一緒に活動してるね。
桝本 テレビを見る側の人間が間違えがちなポイントは、テレビで見かけなくなる=その芸人さんが終わった、と思いがちなことだよね。
河本 あと、井上としてはもう、テレビは精一杯やりきったと思う。ジャッキー・チェンにも3回も会えてるし(笑)。
桝本 あいつ、芸能界に入ってきた理由は「ジャッキー・チェンに会いたいから」やからな。
河本 そのジャッキーに3回も会って、しかも井上に会うとジャッキーは爆笑する。なぜかといったら、広東語のセリフを完コピしているから。
なので、井上のなかで今は仕事のセカンドステージ。憲さん(木梨憲武さん)と一緒で、もう好きなことだけをやらせてくれという段階。でも、井上とは仲いいよ。僕たちがネタやっている時って、中学生の頃の休み時間の2人そのままだし。「休み時間」って聞くと手を抜いてるみたいだけど、そうじゃなくて、「2人で喋ってるだけで面白い」って感覚。今でも俺は、誰よりも井上を笑かしたいと思ってる。井上が笑うと客も笑うし、その時間が楽しい。
桝本 30年間、そんなに仲よくやれる秘訣は何?
河本 NSC入ってからコンビ組んだ人とは違って、お笑いを目指す前からの仲だから、相方の人となりを分かっていることかな。だからキレる瞬間も、ウケる瞬間も分かる。ダウンタウンさんもナインティナインさんもそうだよね。
4.急性すい炎で死にかけること2回。次長課長・河本「身体が不調でも前を向いて生きる方法」

桝本 準ちゃんが2015年に急性すい炎で入院、ICUに入ったのは本当にビックリしたんだけど、あれから仕事や人生への感覚がどう変わったのかも聞きたくて。この話、知らない人が多いじゃない? 全然報道されていないから。
河本 入院した直後に福山雅治さんと吹石一恵さんが入籍して、俺の記事が飛んだ。「俺がトップニュースだったのに、後から出てきて全部根こそぎ取りやがって」って恨んだよ(笑)。
桝本 意識なくしているんだよね、あの時。
河本 2日間ね。「3日目に起きなかったらもう終わりです」と言われて、親族も呼ばれて。そりゃあ当時は自分が倒れるなんて可能性はみじんも考えていなかったから、酒は朝まで飲むわ、ねえちゃん遊びするわ、テレビでやりたい放題だわ、毎日どんちゃん騒ぎしてた。でもその入院以降、「未来日記」が書けなくなって。
桝本 え、そんなん書いてたん?
河本 書いてた。20代、30代、40代、50代でそれぞれこんなことやって、60歳になったら田舎に家買って農家でもやろうみたいに考えてたのが、急に何も書けなくなってしまった。そこから未来日記をスパンとやめて、「とにかく、今自分がやれることをやろう」と思うようになった。
それに、テレビに出ることだけを追い求めるんじゃなくて、他にもいろいろチャレンジするようにもなった。アイドルのオーディションも受けたし、グループのキャプテンにもなれた。
桝本 吉本坂46な。
河本 アイドルになれる機会なんて人生でないし、履歴書に「吉本坂のキャプテンやっていました」と書けるし、それに秋元康さんに作詞してもらってFNS歌謡祭に出るなんて、こんな面白いことないじゃない。
5.あれから10年…次長課長・河本がいま語る、生活保護騒動

桝本 俺はひとりの同期として準ちゃんを擁護する気持ちを持ってるけど、生活保護の一件があってから、準ちゃんがどうやって仕事や人生とかと向き合ってきたかも聞きたいなと思って。この件を俺と喋るのは初めてだけど、あの一件はキツかったでしょ?
河本 むちゃくちゃキツかった。自分自身のことではなく母親の件だったから、どうしていいか分からず困惑するのもあったし、「今までと変わらない姿勢で仕事をしていいのか」って葛藤もあった。これは徳井(チュートリアル・徳井義実)もそうだと思うけど、“食らった人間”にしか分からない圧倒的な圧力ってのがあって、どこかで誰かに「まだふざけてんのか」って言われているような気がするんだよね。
桝本 そうだよね。
河本 でも、お笑い芸人って特殊な職業やから、ずっとふざけんとあかんのですよ。
桝本 他の職業の人は違うよね。たとえばピエール瀧さんは、自分の犯した罪でお茶の間からは一度消えたけど、『地面師たち』でまた大きく評価されている。ソフトバンクの山川穂高選手もスキャンダルを起こしたけど、日本シリーズに行ったことが禊になった感がある。一方で、芸人さんって、禊の場所が一生与えられないんだよね。僕は「それってどうなんだろうな」と思っているひとり。楽しくやっていると、多分ずっと許されないみたいなところが非常にもどかしくて。
この対談でも準は、包み隠さず自分のことを話しているけど、お父さんが何人も代わっている家庭環境を考えても、すごく難しい問題なんだよね。準がどこまで何を把握していたかは本人にしか分からないところでもあるし。
河本 ひとつハッキリ言っておきたいのは、僕自身の認識が甘く、母親の生活保護を終わらせる時期が遅れてしまったのは確かってこと。ただウチの母親については、両腕が動かなくなったことで岡山の役所の人が認定した生活保護の受給者だった。あと当時、僕には母以外にも身内に3人ほど困っている人がいて。その面倒も全部見つつ、目の前で倒れている後輩にもメシを食わせて、さらに自分の家族がいて、子供たちの面倒も全て見なきゃいけなくなって妻もパニックになってしまって。
6.次長課長・河本の命を救った、4人の後輩と志村けん

桝本 変な話、生活保護騒動が加熱している最中は「もうすべてから逃げ出してこの世の中からいなくなりたい」と思ったこともあった?
河本 本当にそう。特に、とろサーモンの村田(秀亮)、ソラシドの水口(靖一郎)、レギュラーの松本(康太)、天津の木村(卓寛)、この4人がいなかったら、たぶん僕は死んでる。ほんまに、そういう考えも浮かびました。
それを4人が早めに察知してくれて、夜中に車を出して1日コテージを借りて僕を連れ出してくれた。そこで他愛もない話をして、死ぬほど涙流しながら、「お笑いをしましょう」って言ってくれて。この4人の後輩は僕の恩人です。だから、彼らのことは僕が一生面倒を見ていきたいと思ってる。
桝本 この話は初めて聞いた。
河本 僕は図太くテレビや舞台も出れるものは出続けていたけど、家族にも危害が及びそうな状況になった時は、さすがに考えちゃって。その時、最後に出てくるのって「自分がいなくなること」なんだよね。それで家族が助かるなら、と。でも、死んでわびることが答えじゃないって4人が分からせてくれた。
彼らは「生きて、生きて、生きまくってください。それで先陣きって死ぬほど笑い取って、前以上のポジションまでのし上がってください。そうしないと後輩の自分たちの仕事もなくなりますから」って言ってくれた。「次死ぬって言ったら俺らで殺しますわ」とも(笑)。
桝本 ええなぁ。
河本 自分がやったことが十分あかんというのは分かってる。けどひとりになって、孤独で、真っ暗になった時って、本当にすぐ「そっち」が浮かんじゃう。でも、生きて、生きて、生きまくって、笑いを取って帰ってこなきゃいけない。僕も徳井(チュートリアル・徳井義実)も井上(NONSTYLE・井上裕介)もフジモン(FUJIWARA・藤本敏史)も、みんなそう。家庭もあって、仕送りとかもせんとあかんわけ。だから、何とかしないといけない。
桝本 準ちゃんのこういう他人を思いやれるところ、18歳の頃から変わっていない。そして失敗も受け入れて前を向いて生きているんで、こういう芸人にこそ光が当たってほしいなと僕は思ってる。
7.西田敏行や平泉成も演技力に太鼓判。河本準一の「俳優」としての未来

河本 マスマン(桝本)って、バラエティーの作家じゃなくても、物語で泣かせるのメッチャ上手。何でかっていうと、人の感情の一番いいところをくすぐるのが得意だから。僕は先日亡くなられた西田(敏行)さんにはかわいがってもらっていたんだけど、『釣りバカ日誌』みたいな映画をやりたいってマスマンにずっと言ってるよね。あと寅さん(『男はつらいよ』)みたいな、メッチャ笑いがあるのに最後に泣ける、泣き笑いの映画。NetflixとかAmazonプライムでも、今勢いのあるU-NEXTでも、そういうのやったら面白いと思うよ。
桝本 僕が河本準一を見てきて思うのは、芝居的なものにめちゃめちゃ才能がある人だということ。
河本 マスマンに俺からお願いしたことはないって言ったけど、これは初めてお願いするかもしれない。人が笑って泣ける脚本を書いてほしい!
桝本 僕じゃなくても、例えばもし若い映像クリエイターで作品をつくっている人がいたら、俺は河本に打診してほしい。準ちゃんの芝居には、心がある。
河本 クリエイター、募集しよう!
桝本 俺はNSCで講師やっていて分かるんだけど、20代の子って俺らと考え方とかぜんぜん違うから、若い子と組むと新しいことができると思う。あと準が副業みたいな感覚じゃなく、俳優業に本気なのを僕は知ってて。この前、2人で一緒に都内で仕事があった時に、僕が「寅さんってここの神社に通っていたんだよ」と言ったら、「じゃあ一緒に行こう!」と準が言って2人でその神社に行った。
河本 小野照崎神社という、渥美清さんが「大好きだったタバコをやめるから主役を1本くれ」と願掛けしたといわれる有名な神社で、そこから寅さんが決まったんだよね。で、その神社に行く途中は雨だったけど、俺らのお参りが終わったら雨が止んだ。その時の写真、今でも大事に持ってるわ。
桝本 青空を背景にした準ちゃんの後ろ姿を、俺が撮った。あの日の準ちゃんの様子を見て、彼にはお笑いと同じくらいの熱量がお芝居に対してあるなと感じたよ。そういう気持ち、あるよね?
河本 もちろん!

