約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのことと。【その他の記事はこちら】

いい話だけが伝えられ、悪い話は消えるのが“昭和”
明治、大正、昭和、平成と日本には後世に名を残す素晴らしい経営者がたくさんいる。そのような経営者は、みな品行方正な人格者だということになっている。でも、ほんとうにそうなのだろうか。
有名な経営者の息子さんとかお孫さんに話を聞くと、まったく違った話をしてくれる。「うちの祖父はそれはもう豪快で、芸者を川へ投げ込むような遊び方をしていましたよ」とかね。それが真実がどうかはわからないにしても、伝説がつくられていくなかで、いい話だけが伝えられて、悪い話は消えてく。伝説はその経営者が活躍している時につくられるのではなく、成功した後、あるいは亡くなった後につくられる。後からつくる話だから、いい部分だけになってしまうのが昭和の時代だった。
平成以降はSNSが発達して、経営者の悪い話もすぐに拡散してしまうようになった。だからみな気をつけて、公の場では品行方正に努めるようにしている。仲のいい経営者が何人かいて、いっしょに遊んだりしているけど、みな品行方正な経営者として世間に知られている。しかし、友人である僕は品行方正でない部分も知っている。それがあたりまえ。人間なんだから。だから、友人としてつきあっていて楽しい。
世の中は、品行方正だから素晴らしい経営者だと評価するのだろうか。絶対に違うと思う。
僕を評価してくれる人は、音楽産業の仕組みを変えてきたことを見てくれているのだと思う。昭和から平成にかけて、音楽ビジネスを変えてきたことを評価してくれる。
別に音楽産業を変えてやろうと思ってやったわけではない。その時その時で、古いやり方にとらわれず、これがいちばんいいという方法を選んでいったら、それが上手くいき、いつの間にか周りが僕を真似るようになっていた。
何十年も“品行方正”でなければ経営者になれない現代
一方、僕を評価しないという人がたくさんいるのもわかる。平成以降、僕のように起業して経営者になる人は少なくなり、平社員から会社の階段を一歩一歩登っていって、役員にたどり着くという経営者が多くなっている。それまでには、いろいろなことを我慢しなければならない。何十年も品行方正を貫き通さなければ、経営者になれない。
僕は品行方正な人に反抗したい気持ちがあって、お金の稼ぎ方も使い方もわざとめちゃくちゃやってきた。アーティストを世間から守るのに、怖いというイメージがあった方がやりやすいから、あえてそういうパブリックイメージをつくってきた。だから僕の社会的イメージはよくないはず。よくなくていいと思っていたし、よくない方がかっこいいとすら思っていた。もう、子どもが不良に憧れるのと同じ。
そんな、何の我慢もしないできたように見えるやつが「経営者です」などと言うのだから、我慢を積み重ねてきた人が「こんなやつ評価できるか」となるのはわかる。
これは煽っているわけではない。僕もレコード会社に入社して、時間をかけて経営者の座にたどりついていたとしたら、「エイベックスの松浦なんて評価できるかよ!」となっていると思う。
株主総会では、言葉遣いひとつとっても、できる限り丁寧にやっている。だから、僕も品行方正な経営者に見えるはずなのだけど、誰もそう見てくれない。僕が丁寧な言葉遣いをしていると、慇懃無礼に見えてしまう。僕としては株主に失礼だから、できるだけ丁寧にしようと努力をしているのだけど、そうは見てくれない。
もう何十年も、“怖い”とか“やんちゃ”というイメージを世間に刷り込ませてきたから、株主総会で急に品行方正にしてみたところで変わらない。
さすがに疲れるから控えているけど、最近まではSNS上で腹立つこと言われたら、普通の人が相手でも本気で喧嘩していたし。それが大炎上して、さらに反論して、みたいなことをしていた。まったく品行方正ではない。
経営者が名前を残すのではなく、会社の名を残すというケースもある。すごく有名な企業で誰もが社名は知っているけど、創業者の名前や現在の経営者の名前や顔をよく知らないということがある。そういう企業は、既存のビジネスモデルを大きく変えて業績をあげたから、人の記憶に残るのだと思う。
でも自分に都合よく、図に乗って言わせてもらえば、ビジネスモデルはいつか消えていく。もっといいモデルが出てきたら、上書きされてしまうから。
だから、僕は音楽を仕事にしてきてほんとうによかったと思っている。その人の最も敏感な時期に音楽が与えた感動は、時代を経ても変わらない。人の心に残るものは変わりようがない。僕はそういう仕事をしている。僕が品行方正であるかどうかは、どうでもいいことなのかもしれない。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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