PERSON

2025.09.12

54歳・西島秀俊の原動力「やらないで後悔するくらいなら、やって後悔したほうがいい」

2025年9月12日に公開される映画『Dear Stranger /ディアストレンジャー』。ニューヨークで暮らすアジア人夫婦の息子が誘拐されたことをきっかけに、二人の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を描いている。本作で夫の賢治を演じる西島秀俊さんにインタビュー。【前編はこちら】

西島秀俊氏

海外での仕事は一歩、一歩の段階

――真利子哲也監督の作品は一貫して、人と人の分かり合えなさや壁を描いています。だからといってそれを悲劇的に描くというよりは、リアルな対処法を常に映画で描いていて面白いと感じているのですが、今回はお互い母国語が違う夫婦のディスコミュニケーションを真正面から追及しています。西島さんは、映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年)の世界的な評価を受け、2023年にアメリカのエージェントと契約されて、海外進出を果たされていますが、海外でのディスコミュニケーションという点で感じるところはありますか。

「僕は、映画というメディアがひとつの共通言語みたいなものだと思います。撮影に入る前は、現場でコミュニケーションを取らなければとか、どうやって自分の考えを伝えていこうかとか、いろいろなことを考えますが、実際に撮影が始まると、“日本と変わらないんだ”と思うことの方が多い。だから映画の撮影に関しては、そこまでディスコミュニケーションということを感じたことはないです。むしろ、余計な言葉が取り払われて、言いたいことが明確になる部分があります。相手もわかりやすいように僕に説明してくれますし、その人となりが出るので、逆に強く繋がる部分を感じる機会の方が多いです。

今、世界全体がどんどん狭くなり、いろいろな国や人々が共存するようになっています。当然良いこともあれば問題も起きます。アメリカで仕事をすると、アジア人という大きなくくりに入れられることが多いですが、アジア人も当然いろいろな国から来ており、それぞれ違う文化を背負っている。

本作の賢治とジェーンはまさに微妙な文化の違いからディスコミュニケーションに直面しているわけです。今だからこそ、こういう題材の作品を見てもらうことにはすごく意味があると思っています。映画だけでなく、野球などのスポーツ、文化、食でもそうですが、それぞれの国の文化をお互い体験して理解し合うことは、ディスコミュニケーションの問題を解決する、ひとつの希望の光なのかもしれません」

――西島さん自身は、海外の監督たちから今、こういう要素に期待をかけられてキャスティングされているんだという何かしらの実感はありますか?

「ヘンリー・ダナム監督の『Enemies(原題)』と、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『Her Private Hell(原題)』に少しだけ出演しましたが、それぞれ監督の個性が強いので一概には言えないと思います。真利子監督は真利子監督にしか撮れないものを撮っていて、独特の視点で世界を見ている。当然、ニコラス監督はニコラス監督の視点で撮っています。僕にとっては、この監督は世界をこんな風に見ているんだ、という驚きの方がいつも大きいです。作品を見ていただいた観客の方に、作家たちが見つめる現在の世界の中の共通するテーマを見出してもらうほうがよいかもしれません。

自分が期待をかけられている部分も、自分ではまだよくわからないですね。海外での仕事は本当に一歩一歩の段階で、やっと周りのシステムが整ってきたという状況です。チャレンジとしてもこれからで、まだ、あまり語れることはないです。僕にとっては一つ一つが大きな経験ですが、実際には本当に小さな一歩なので。ですから、真利子監督の『Dear Stranger /ディア・ストレンジャー』に関しては、真利子監督が海外で暮らして実感したことと、今、監督の中で撮りたいと思った題材と、僕の状況が合致したということではないかと思います」

西島秀俊氏

やりたいことはずっと変わらない

――現在、国内での仕事は事務所には所属せず独立して活動されていますが、海外へのチャレンジも含め、西島さんにとっての原動力は何でしょうか。

「僕がやりたいことはずっと変わっていません。いい映画に参加したい、素晴らしい監督、スタッフ、キャストの方々と一緒に仕事がしたい、という思いが常にあります。海外へ進出しているというつもりはなく、今は僕に限らず海外作品への間口が広がり、チャンスが広がったのだと思っています。

日本でも海外でも、企画をいただいて、監督とお会いしてお話をする中で作品への参加が決まっていくというプロセスは変わりません。独立したり、アメリカのエージェントと契約したのは、そのためのシステム作りであり、間口が少し広がったという意識です。少しずつシステムを変えてきましたが、これからもいろいろなことを勉強して変えていくと思います。

それでも自分のやりたいことにこれからも挑戦していきたいです。僕はやらないで後悔するくらいなら、やって後悔したほうがいいと思っています」

西島秀俊/Hidetoshi Nishijima
1971年東京都生まれ。1992年にドラマ『はぐれ刑事純情派5』で俳優デビュー。1994年に『居酒屋ゆうれい』で映画初出演、黒沢清監督の『ニンゲン合格』(1999年)で初めて主演を務めた。その後も多彩な映画やドラマに出演。2021年には主演を務めた映画『ドライブ・マイ・カー』で、第56回全米批評家協会賞でアジア人初の主演男優賞を受賞した。近年では、映画『首』(2023年)、『スオミの話をしよう』(2024年)、A24制作のAppleTV+『Sunny』(2024年)や、Prime Video『人間標本』(2025年12月19日配信開始)など、国内外の作品に出演し活躍中。

TEXT=金原由佳

PHOTOGRAPH=太田隆生

STYLING=オクトシヒロ

HAIR&MAKE-UP=亀田雅

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