アスリート、文化人、経営者など各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第8弾が、2025年5月8日、9日の2日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、サッカー日本代表監督の森保一さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。

ヘッドコーチ型からマネジメント型へ
2026年のワールドカップまであと1年余り。いい準備をしていきたいという思いはありますが、特別なことはあまり考えていません。選手一人一人が成長し、その先にチームの成長がある。世界一になるという高い目標を持ちながら、目の前の一戦一戦の勝利を目指しながらコツコツと歩んでいきたいと思っています。
前回のワールドカップと大きく変わった点はコーチ陣です。前回のコーチ2人がジュビロ磐田、FC岐阜というJリーグのチームで「監督になる」という夢をかなえることができたため、新たに2人のコーチを加える必要が出てきました。前チームでは、まずは守備の部分を構築し、そこから攻撃につなげていくというベース作りはできていた。そこに「攻撃のオプションをどれだけ増やしていけるか」と考えたときに、適任だと感じたのが名波浩と前田遼一です。この2人にコーチ就任のオファーを出しました。
私自身は今回が2期連続の代表監督ということになります。監督というポストは同じですが、意識的に立ち位置を変えました。監督には2つのタイプがあって、ひとつは現場で指揮を執るヘッドコーチ型、もうひとつが現場から一歩引いて全体を統括するマネジメント型。私はこれまでヘッドコーチ型でしたが、現場の仕事はコーチングスタッフやチームスタッフに託し、チームとしてより大きなパワーを作っていきたい。そう考えて、マネジメント型の監督になろうと決断しました。
というのも、現在の日本代表チームはほとんどが海外組。試合の2、3日前になってやっと選手が揃って、チームとしてトレーニングやミーティングを行います。使える時間は決して多くはありません。その中で私一人が全部をやろうとすると、すべてが薄くなってしまう。各選手により深く戦術と自分の役割を理解してもらうためには、コーチ陣が選手一人一人と向き合い、掘り下げていくのが最善だと考えました。
チームのルールは3つだけ
今の日本代表の選手たちは、個性もプライドも強い。絶対的な個の力がないと世界の舞台では生き残っていけないということがよく分かっていて、ギラギラしている。僕の話は、あまり聞いてくれません(笑)。でも、チームの輪はきちんと保たれています。
それは、お互いを尊重しているからです。個の強さは必要だけど、試合に勝つためには全員の力が欠かせないということが理解できている。その意識をチームとして共有できているのが、今の日本代表の強みだといえるのではないでしょうか。
私がチームのルールとして選手に言っているのは3つだけ。「時間を守る」「チーム内の問題はチームで解決する」「SNSの発信に注意する」。現在は各個人がメディアになっている時代なのでSNSは重要ですが、自分の発信がチームメイトにどういう影響をもたらすかということを考えてほしいと伝えています。
また、チームには手本となるようなベテラン選手も大切です。その意味で次のワールドカップも長友(佑都)選手に期待しています。彼を招集している理由は、まず今の代表チームでも彼のパフォーマンスは通用するということ。そして彼のポジティブなキャラクター。彼は大学時代はレギュラーじゃなく、そこからトップまで上り詰めた苦労人です。ワールドカップでは試合に出られず、ベンチでストレスをためる選手も出てきます。長友選手であればそうした選手たちにも積極的にアプローチしていけるでしょう。
ワールドカップでの世界一。絶対にできると思って、頑張っていきたいと思います。
▶︎▶︎森保一さんの講義全文を動画でチェック。
2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。
森保一/Hajime Moriyasu
1968年長崎県生まれ。長崎日大高校から1987年にマツダサッカークラブ(サンフレッチェ広島の前身)に加入。広島では1994年のサントリーシリーズ優勝に貢献した。その後、京都パープルサンガ(1998年)、広島(1999~2001年)、ベガルタ仙台(2002~2003年)でプレーした後に現役引退。日本代表では 35試合に出場し、1993年には「ドーハの悲劇」も経験。2004年に広島の育成コーチ、2005年にU-19、20日本代表コーチ(兼任)、2007~2009年に広島のトップチームコーチ、2010~2011年にアルビレックス新潟のヘッドコーチを歴任。2012~2017年に広島を指揮して3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年に東京オリンピックを目指すU-20日本代表の監督、2018年にロシア・ワールドカップの日本代表コーチを務め、2018年に日本代表監督に就任。2022年のカタール・ワールドカップではドイツ、スペインを破り、ベスト16の成績を残し、現在2026年北中米ワールドカップに向けて2期目の指揮。