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2025.05.25

小学生はヘディングや筋トレはやめるべき? 我が子の出場時間が短い…親のモヤモヤを解決【育成カリスマの解答⑤】

日本代表歴がある選手からサッカーとは別の道に進んだ人まで、自身のもとを旅立った多くの教え子たちに、今なお慕われている育成歴30年のFC町田ゼルビアのアカデミーダイレクター・菅澤大我氏。連載最終回は、パパコーチ&保護者から寄せられた悩みに、一問一答形式で答えてもらおう。#第5回 連載記事はコチラ

町田ゼルビア・菅澤大我

大人になっても慕うのは、小学生年代の指導者

――小学生年代はやらない方がいいトレーニングはありますか? ヘディングや筋トレなどを行わない方がいいという意見もありますが。

菅澤 脳震盪の問題もあって、子供のうちはヘディングをしない方がいいという意見は、確かに聞きます。しかし、空間認知や額のどこにボールを当てるか、身体をどのように使うのかは、小学生年代から積極的にトレーニングした方が良いと思う。それが身についていないと、上の年代に上がった時に苦労しますから。例えば、硬いボールではなく、柔らかいボールを使えば、脳震盪のリスクは低くなるので、そんな風に工夫しながらやってほしいと思います。

ヘディングに限らず、ボールコントロールなど、すべての動きにいえることですが、正しいフォームを身に着けさせることはとても大事。チーム練習では、複数いるからこそできるトレーニングをするべきで、ひとりでもできるトレーニングを提示することを推奨します。

筋トレや体幹トレーニングも、小学校3、4年から行ってきたというプロ選手もいるのですから、決してダメなわけではありません。ただ、練習の前に長々と筋トレさせるのは、やめた方がいい。子供は楽しくないし、飽きてしまいますよ。ボールを使ったトレーニングの合間など、タイミングを考慮しつつ、取り入れた方が効果的です。

――欧米では、体を休めることを重視し、平日の練習は1日おきに2時間程度、週末の試合はどちらか1日など、制限しているようです。体を休める日は設けるべきですか?

菅澤 チームの練習がオフの日に、小学生がじっと家で休養をとっているかというと……、僕にはそう思えません(笑)。サッカーが好きで楽しくてたまらない子たちは、練習がない日でも、仲間といっしょにボールを蹴っているんじゃないでしょうか。ケガをしているなら別ですが、子供が自主的に楽しんでいるようなら、ボールを蹴ることを制限する必要はないと思います。どれだけやっても飽きない。やればやるほど楽しい。そのくらいサッカーに夢中になっているのなら、見守ってほしいですね。

菅澤大我/Taiga Sugasawa
1974年東京都生まれ。1996年、選手として所属した読売クラブ(現・東京V)育成部門コーチとなり、元日本代表の森本貴幸氏や小林祐希氏ら、数々の逸材を発掘。その後、名古屋グランパスや京都サンガF.C.へ。ジェフユナイテッド市原・千葉ではTOPチームとアカデミーを指導。ロアッソ熊本などで育成年代のコーチや監督を歴任し、2021年からFC町田ゼルビアのアカデミーダイレクターを務めている。

――監督が、自分の子をレギュラーに据え、他の子より出場時間を長くしたり、エースナンバーを与えたりと、パパコーチチームの起用は「??」と思えるものがあり、それを巡って保護者間でのいざこざも発生しています。どうしたら避けられますか?

菅澤 親は自分の子が一番かわいい。もしかしたら、どの子も試合の出場時間は同じくらいかもしれないけれど、親は自分の子しか見ていないから、物足りなく感じてしまうのでしょう。僕の息子はバスケットをしていますが、「どうしてもっとウチの子を試合に出さないんだ」と思いますからね(笑)。だから、このモヤモヤ、よくわかります。

監督やコーチは、「みなさんの大事な子を預かっている」という責任を感じているはずですし、休日返上で指導にあたっている、大変な役目。パパコーチや監督の中には、周りに気を遣い、自分の子の出場時間を短めにしたり、起用を控えたりする人もいるんじゃないでしょうか。保護者のみなさんには、「自分が監督だったら、コーチだったらどうするか」という視点も持っていただけたらいいなと思います。

その上でアドバイスするとしたら、最初にルールを決め基準を明確にし、周知すること(監督としての自分の戒めにもなる)。たとえば出場時間に関しては、「この時期までは、みんな同じ時間試合に出します」とか「最低でも出場時間4割は確保します」と決めごとをつくり、それを年度初めの保護者会などでみんなに伝える。有言実行でなければ意味がないので、怪我などよほどのことがない限り、それを守る。記録をつけておくことも必要。そうすれば、「どうしてウチの子は試合に出さないんだ」とクレームが来た時に、出場記録を見せつつ、「ちゃんと〇時間出ていますよ」と説明できますし、相手も納得しやすいと思います。

――スタメンがいつも変わらず、一軍と二軍、きっちり分けられてしまっています。この序列は永遠に変わらない気がして、親としてはモヤります。

菅澤 プロの監督であっても、誰を起用するかは悩ましいところ。監督としては、「出場時間はみんな平等にするから、誰をスタメンにするかは一任してほしい」のが本音だと思いますが、それでは、保護者も子供も、なかなか納得しませんよね。

サッカーは集団スポーツなので、誰と誰を組ませるかは非常に大切。でも、それは、実力が同じ人同士を組ませなければいけないということではありません。“絶対的エースのA君とサブメンバーのB君”のように実力差がある子を一緒に出しても、A君ならB君のサイドをカバーしてくれるだろうという計算ができれば、チームとしては、意外と成り立ちます。子供のモチベーションを高めるためにも、監督は、時々そんな風にメンバーをシャッフルするといいと思います。そうすれば、保護者も、「監督はいろいろ考えてくれている」と、少し納得してくれるのではないでしょうか。

――最後に、パパコーチにアドバイスをお願いします。

菅澤 お父さんコーチの多くは、ボランティアがほとんどでしょう。休みの日に、わざわざ子供の指導を買って出るのだから、きっとサッカー、そして、子供が大好きなのだと思います。だからこそ、まず考えていただきたいのが、「自分がサッカーを楽しいと思うのは、どんな時か」。プレーする楽しみもあれば、観る楽しみもあるなど、サッカーのいろんな楽しみ方を子供たちに伝えてほしい。そして、自分自身が楽しむことも忘れないでほしい。

僕は指導者になって30年ほど経ちますが、嬉しいことに、小学生や中学生の頃に指導した子たちが、大人になった今も、連絡をくれるんですよ。たいしたことをしてあげていないのに、「大我さん、ありがとう!」って…、ちょっと照れてしまう時があります(笑)。初めてサッカーに触れた時の指導者や、サッカーの楽しさを教えてくれた人は、子供にとって、それくらい特別な存在なんだと思います。

大変なこともたくさんあると思いますが、これからも子供たちにサッカーの素晴らしさを教え、ご自身もサッカーを楽しむために、頑張っていただきたいですね。

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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