PERSON

2025.03.29

「このままじゃ終われない」32歳・宮市亮。“あれから”と“今”【前編】

18歳にして名門アーセナルの一員となった宮市亮は、度重なる大ケガを乗り越え、10年ぶりの日本代表の舞台へ。そして、再び大ケガ。だが、彼は立ち上り“過去最高の自分”へ向けて走りだした。あの涙のインタビューから2年、再び宮市を直撃した。前編。

あのインタビューから、2年後――

2022年12月。

宮市亮は、話しながら泣いていた。

「次に大ケガをしたら引退しようという思いが心のどこかにあって。一人のプロ選手としては、ケガが多すぎることに対する後ろめたさみたいなものがあったんです。ピッチに立てないプロなんて意味がないし、そうなってしまう自分には、プロであり続ける資格がないんじゃないかって」

2022シーズンのスタートは順調だった。10年を過ごしたヨーロッパのそれとは大きく異なる“日本のサッカー”にようやく慣れ、持ち前のスピードを武器に観るものをワクワクさせるオリジナリティーを見せつけた。7月には2試合連続ゴールを記録し、その勢いで日本代表にも名を連ねた。

しかし、約10年ぶりに日の丸を背負った晴れの舞台で、宮市は再びピッチに倒れた。

右膝前十字靭帯断裂。全治8ヵ月。

自らの選手生命を手術に委ねるのは4度目のことだった。サッカーファンはそれをよく知っていたからこそ、悲運の天才にエールを贈るしかなかった。

それから5ヵ月後の2022年12月、復帰を見据えてリハビリに励む宮市と向き合った。

記憶はまだ鮮やかに残っていた。苦しみと哀しみ。喜びと感謝。複雑に絡み合う5ヵ月前の感情を思い出してボロボロと涙した彼は、しかし感情を言葉に変換しながら少しずつ落ち着きを取り戻し、最後に笑った。

「もしかしたら、まだ、もっと速く走れるかもしれませんよ」

冗談半分ではなく、真顔で、言葉を続ける。

「それしかないですから。今回の手術で、やっと心技体が揃う気がするんです。だから、もっと、速く走れる自分をピッチで見せたい。僕のキャリアは苦しいこと、悔しいことが95%。でも、残りの5%が最高だったから、それをまた味わいたくてサッカーを続けている。これから先、その割合をほんの少しでも増やしたいですよね」

あのインタビューからさらに2年後の2025年1月。

宮市亮の“あれから”と“今”を聞くため、再び彼と向き合った。

「100%の宮市亮」を作るためのリスタート

301日ぶりにピッチに戻ったのは、2023年5月のことだった。

リハビリは順調だった。宮市の期待どおり、外科的な意味においての“膝の状態”は今回の手術によって劇的に改善した。

まともに歩けるようになってからは横浜F・マリノスのメディカルスタッフと文字どおりのニ人三脚で「走り方をイチから作り直す作業」に没頭した。走り方の安定性の向上は、身体全体の安定性の向上につながる。身体全体が安定すれば、ケガのリスクを最小限に抑えられる。さらに、スピードのMAX値も上がる。

もっと速く走れる――。

その可能性が何よりのモチベーションだったことは間違いない。

「最初に『100%で走っていいよ』と言われた時に出たスピードが時速37km台だったんですよ。もちろんGPSによって多少の差はあるんですけど、自分でもびっくりしちゃって。『マジで足速くなってるじゃん!』と笑ったし、スタッフのみんなと『あの時、やめなくて良かった』と話しちゃうくらい嬉しくて」

その後に肉離れを発症して戦線復帰が遅れたのは、ある意味“順調すぎたリハビリ”のせいだった。つまり、スピードが出過ぎる身体をコントロールしきれなかった。大きなケガから復帰するまでの苦労はひととおり経験してきたつもりだったが、たとえ想定内であっても、次々に起こる小さなアクシデントに対応するのは簡単じゃないと改めて思い知らされた。

もっとも、横浜F・マリノスもそれをわかっていたからこそ、あくまで“100%の宮市”にこだわった。

「コーチングスタッフやメディカルスタッフが僕を一番いい状態で復帰させようと根気強く待ってくれて。ケヴィン・マスカット監督(当時)とも何度も話をしました。復帰したアウェーの札幌戦も前日に呼ばれて『試合に出られる状態にあると思うけど、移動の負担もあるから無理してほしくない。自分で決めていい」と。そこまで深く配慮してもらって、本当に感謝しかなかった」

5月24日。ルヴァンカップ・グループリーグ第5節。アウェーの北海道コンサドーレ札幌戦。

後半37分、宮市の途中出場が告げられると、札幌ドームは万雷の拍手に包まれた。301日ぶりに、ピッチに帰ってきた。

「そうですね。いけると思いました。怖さはなかったし、楽しみたいと思えました。久しぶりにアウェーゲームの遠征に帯同して、ホテルに泊まって、それだけで『サッカー選手っぽいな』と思えて嬉しかった。それから、サポーターの姿を見て気持ちが引き締まった。サポーターの言葉が僕を奮い立たせてくれたので、その恩を絶対に返さなきゃいけないと」

2年前のインタビューで耳にした言葉が、鮮やかに蘇ってくる。

「SNSに救われたんです。あの時、僕のInstagramにはものすごい数のコメントが書かれていたけど、ネガティブなコメントは1つもなかった。本当に1つもなかった。それを見て、気持ちがすっと楽になりました。本当に助けられました。本当に、本当に、感謝しかありません」

試合勘を取り戻すために生きた経験

復帰から約2週間後のJ1リーグ第17節、柏レイソル戦。宮市の出番は3-3で迎えた試合終盤の79分に巡ってきた。

90分を過ぎてなおヒートアップする好ゲームはアディショナルタイムに突入した。その7分、横浜F・マリノスに勝利をもたらす決勝ゴールを決めたのは宮市だった。

「あれはでき過ぎでしたね(笑)。まさかあんな形で自分がゴールを決めるとは思わなかった。奇跡みたいなことを期待しちゃいけないんですけど、あのゴールについては、本当にいろんな人の想いが乗っかって生まれた奇跡みたいなゴールなのかなって」

もっとも、本人にとって最大の喜びは“奇跡みたいな自分のゴール”にはなかった。

「勝利に貢献できれば、ホントになんでも良かったんです。僕が決めたことより、ゴールを決めてサポーターのところに行って、そこにみんなが駆け寄ってくれたことのほうがはるかに嬉しかった。あれから2年近くも経ってますけど、あの喜びは忘れられないですから」

サポーターが待ち焦がれた“持ってる男”の戦線復帰は、想像よりもはるかに鮮やかだった。しかし、チームにとってこの2023シーズンは楽観的な1年ではなかった。連覇を目指したJ1リーグは最終盤に失速し、2位でフィニッシュ。天皇杯、ルヴァンカップ、AFCチャンピオンズリーグでも敗れて無冠に終わると、シーズン終了後にはケヴィン・マスカット監督の退任が発表された。

変革期に入ろうとするチームの中で、宮市も我慢の時間を続けていた。

「復帰することはできたけど本当に『まだまだ』という感じでした。相手選手との間合い、ボールを持った時の視野、スプリントした後の回復の遅さ、そのあたりがぜんぜんダメで。僕の場合、“お客さんがいるスタジアムでの試合”から1年離れたら、ケガをする前の自分を取り戻すまでに復帰後1年かかるという感覚なんです。ほとんどのアスリートがそういう感覚なんじゃないかな。だから長期離脱って大変なんですよね」

トレーニングと試合では、懸ける想いが違う。緊張感が違う。対面する相手選手の本気度も、自分を見る目の数も、声援のボリュームも明らかに違うから心拍数の上がり具合もまったくの別モノだ。

だから、復帰直後の不安定なフィジカルコンディションと向き合いながら“試合勘”を取り戻すのは簡単じゃない。取り戻せないままキャリアを諦めざるを得ない選手だって数え切れないほど存在する。

経験――。

幸いにして宮市には、それがあった。

「若い頃は焦ってました。『なんで俺はこんなに下手なんだ』と思ったし、『サッカー選手としてやっていけるレベルじゃない』と落ちるんです。時間が解決してくれることを知らないから、とにかく焦って『もうダメだ』と思ってしまう。でも、あきらめずに辛抱強く向き合っていると、少しずつ見えてくるんですよね。戻る感覚が。だから、とにかく平常心で向き合うだけ。それは過去の経験が生きたかなと」

宮市亮/Ryo Miyaichi
1992年生まれ。中京大学中京高3年時にイングランドの名門クラブ、アーセナルと契約。爆発的なスピードを駆使したドリブル突破を武器とするタレントとして大きな期待を集めた。度重なるケガと向き合いながら欧州の舞台で約10年プレーし、2021年7月に横浜F・マリノスに加入。2022年7月に日本代表復帰を果たした。

このままじゃ終われない

特にスピードを武器とする選手にとって、本当の意味で試合勘を取り戻せるかどうかは決定的な意味を持つと言える。

タッチライン際でパスを受ける。目の前には自分をマークする相手選手がいるが、前方には大きなスペースがある。駆け引きを優位に進めるための時間もある。仕掛ければ抜ける。そう確信できる。

しかし、もしもそのタイミングで一瞬でも迷いが生じたら――。

「ブランクがあると、そういう一瞬の迷いが生まれやすい。その躊躇が隙になって、上のレベルに行くほど通用しなくなるんです。だから、そこで絶対に負けちゃいけないんですよ。要は“ケガをしてしまった自分”として自信を取り戻せるかどうか。復帰する過程で小さな成功体験を積み重ねて、その迷いを完全に消さなきゃいけない。どんなプレーでもそう。一瞬の迷いがイメージを壊すということを、今回もめちゃくちゃ痛感しました」

2023シーズンはフィジカル的なコンディションを上げることに重点を置いた。続く2024シーズンは、迷いや躊躇から生まれる隙と向き合い、苦しみながら試合勘を積み上げていった。

「2023シーズンと同じく、2024シーズンも途中出場が多かった。でも、ゴールに直結する決定機が明らかに増えた1年でした。それを自分の力で仕留められなかったことが情けなかったし、一瞬の迷いを感じていたことが悔しくて。恩返しをしたいという気持ちが強かったからこそ、とにかく歯がゆかった」

2024シーズンの横浜F・マリノスは低調だった。J1リーグは9位。2シーズン連続の無冠。脚光を浴びたハリー・キューウェル監督は7月に退任し、後任を託されたジョン・ハッチンソン暫定指揮官もシーズン終了後に退いた。

宮市亮は、12月14日の誕生日で32歳になった。

「このままじゃ終われない」

その想いをさらに大きく膨らませて、キャリア15年目となる2025シーズンを迎えた。

※後編に続く

ジャケット¥75,900、シャツ¥28,600、パンツ¥40,700(すべてタンジェネット/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com)、靴、ベルト(ともにスタイリスト私物)

TEXT=細江克弥

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

STYLING=久保コウヘイ

HAIR&MAKE-UP=鈴木雄大

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年5月号

単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年5月号

単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ5月号』が2025年3月25日に発売となる。今回の特集はビジネスライフを輝かせる“単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑”。さらにファッション特集として“エグゼクティブが着るべき贅沢な服”を展開。表紙にはSnow Manの岩本照が登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる