2020年5月号からスタートし、58回目となるこの連載も今回が最終回となる。「経営と美」の相関関係について、今、森田恭通氏が思うこととは。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」

経営も、生き方も、美意識が投影される
18歳からこの仕事を始め、2025年で40年になります。たくさんの方々とお仕事をさせていただきましたが、そこで実感したのが連載タイトルにもなっている経営と美の相関関係。素敵だなと感じる方々は、オリジナリティとセンス、そして美意識を持っていらっしゃいます。それが身なりや持ち物、所作はもちろん、手土産や周りの方への心配りに表れていて、さまざまなところで学ばせていただいています。
例えば、ビジネスシーンで欠かせない“おもてなし”。ある経営者の方に、幻と称されるシャンパンを振る舞っていただいた時のこと。その方は、これまで銀座で飲んできたその銘柄の空き瓶からオーダーメイドでつくったシャンパンクーラーをご用意し、もてなしてくださいました。また、東京湾からでないと出合えない美しい景色を大切な方々にお見せしたいと、屋形船をイチから設えた方もいらっしゃいます。
いずれもその発想とセンス、ご自身の美意識や世界観、心からのおもてなしの姿勢に感激しました。と同時に、これがサマになるのは、この方の人柄やキャリアがあるからこそ。いわば、「人生が反映されているからだ」とも感じました。他の人が真似しても、これほどまで心が揺さぶられなかっただろうと思います。
BtoBでもBtoCでも、仕事には必ずお客様がいらっしゃいます。何を求めているかを的確に読み取り、サプライズ性も含め心を動かすものを提供してこそ、ビジネスは成功すると思います。それはおもてなしも同様。だから、おもてなし上手な人は、卓越した経営者でもあるのでしょう。
もうひとつ、僕が素敵だなと思う方に共通しているのは、どんなことにも誠実に対応され、誰にでも平等で優しく、いざという時には惜しみなく力を貸してくださること。まさに美意識とは、生き方そのものに投影されるのだと思います。
こうした素晴らしい方々に仕事を通じて出会えているのは、僕にとってかけがえのない財産です。常に新しいことに挑戦し、魅力的なものを探し続け、努力を惜しまない。そんな風に高みを目指し続けるなかで、センスや美意識は必然的に磨かれるのだとも教えていただきました。
そもそも僕自身、「こんな空間があればいいな」「こうしたらもっと素敵になるのでは?」と、そこにないものを求め、問い続けてきたからかもしれません。それは、40年経った今も同じです。人間とは、現状に満足することができない生き物なのかもしれませんね。
とはいえ、僕も今年で58歳。今のペースで仕事ができるのは、あと10数年でしょうか。この先もずっと、自分が素敵だなと思うような空間をつくり続けるのだろうと思います。それが、宿泊施設なのか、シニア向けの施設なのか、商業施設なのか、はたまたお墓なのか僕にはわかりませんが(笑)。
答えがひとつとは限らないように、多様な“美”があります。おこがましくはありますが、約5年間僕がお話させていただいた言葉が、飽きることなく読んで下さった方にとって何かのきかっけになれたのであれば嬉しいなと思います。最後になりましたが、長らくご愛読いただき、ありがとうございました。さようなら、またいつか。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。