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2025.04.12

「多すぎる中間管理職」撤廃。赤字6億円、経費の無駄遣い、天下り…“ヤバい”会社がたった2年で蘇った理由

前年度の赤字6億2000万円。そんな会社を2年で黒字化させた経営者が行った驚くべき改革とは!? 役職も部署もすべて廃止、社員全員をフラット化した人事について、ITサービス企業「Colorkrew(カラクル)」の中村圭志社長が語る。

カラクルの中村圭志社長
カラクルの中村圭志社長。

年一で社長が代わる、覇気のない会社が激変

「人事改革をしよう」

成長が止まり、煮詰まってきた会社や部署は、そんなふうに考えがちだ。

けれどせいぜい行われるのは既存社員でぐるぐる席替えを繰り返す程度。時には部署名や役職名もカタカナにして、グローバルでフランクな印象にしてみても、結局働く人たちの関係性は変わらないから大きな変革は起こらない。

右に座っている人を左に水平移動させたからといってなんになるのだろうか。そもそもそれは「人事改革」でもなんでもない。

それならばと人事の基盤である、役職、部署をすべてとっぱらい社内をオールフラット化。誰でも平等に意見を言える環境づくりが功を奏し成長を続けている会社がある。

それがITサービスの開発、提供を行うColorkrew(カラクル)だ。

「2010年にカラクルの前身であるISAOの代表に私が就任した際、前年度の赤字は6億2000万円でした。社員は約70名でしたから、ひとり800〜900万円の損失が出ていたということです」

カラクル代表取締役・中村圭志氏はそう当時を振り返る。

中村氏は豊田通商の営業として勤めた後、ドイツに出向。現地で子会社設立を成功させ帰国した際に、当時、豊田通商の子会社であった現カラクルの再建を任されたのだった。

そもそもカラクルの前身の会社は、セガのゲーム機「ドリームキャスト」と抱き合わせてインターネットサービスを提供するビジネスで1999年に創業。しかし2001年には、このドリームキャストの製造が終了してしまう。

「ですから、いきなり祖業を失ってしまった会社なんです。ドリームキャストが製造終了したのちも会社は残ってはいましたが、主に親会社役員の天下り先として利用されているような状態で社長は毎年変わっていたそうなのです(※)。コロコロ社長が変われば、社員の士気は上がらないですよね。私で10人目の社長だったので、就任当時は『中村さんはどれくらいいるつもりですか?』と聞かれましたから(笑)」

(※豊田通商は、中村氏が社長に就任した2010年に現在のカラクルであるISAOを前親会社から譲渡された。なおカラクルは2019年に豊田通商から独立している)

毎年赤字を出し続けている状態で、社員たちも赤字に慣れてしまっていたのだという。

「その状態で仕事が面白くなるはずはないですよね。みんなせめて楽しいことをと考えたのでしょう、交際費をやたら使うんです。さらに携帯電話を2個持ちにしていて、通信費も異常に高かった。『携帯2個いらないでしょ、このサービスの契約もいらないでしょ』と刻んでいって、社長就任後すぐに月数十万円を浮かせることに成功はしたものの、月の赤字が3000〜4000万円ですから、まさに焼石に水。

赤字をなんとかしよう、新しいビジネスをつくって盛り上げよう、そういう士気も覇気も働いている人たちにありませんでした。それまでの不運な環境を考えればそれも仕方ないことではありますが、この状態を脱するには人事制度の大幅な改革が必要だと思いました」

カラクルの中村圭志社長
中村圭志/Keiji Nakamura
1970年新潟県生まれ。1993年豊田通商入社。営業を務めた後、2004年にToyota Tsusho Europe S.A. ドイツ・デュッセルドルフ支店へ出向。2006年にToyota Tsusho ID Systems GmbH設立・代表就任。帰国後にISAO(現Colorkrew)代表取締役に就任。2020年に社名をColorkrew(カラクル)に変え独立。ソフトウェア設計・開発・運用などを行う。自身が制作に携わったプロダクト『Colorkrew Updates』が2025年1月にローンチしたばかり。

階層の中間以上にいる人は、本来の業務をしていない

当時、社内には派閥があり、派閥のトップは自分が贔屓にする部下たちの給料を上げようとするような状態。明確な人事、評価制度は存在しなかった。

最初に中村氏が行ったのはこの派閥トップである幹部クラスを集め、「この社員の給与はいくらぐらいが妥当だと思うか」と社員ひとりひとりを例に考えさせた。その際、当時実際に支払われていた給与は伏せられていたゆえ、彼らが考える適正価格よりも多くもらい過ぎている社員、少なすぎる社員も炙り出されたという。これにより、幹部たちのなかで給与の基準が共有され、やがてそれは社員全体にも広がっていく。

もちろん給与が下がり反発した幹部もいたが、そもそも自分たちでつくりあげた基準で、その基準を越えれば確実に給与はアップするという仕組みは、社員のモチベーションに繋がった。

「この改革はまだまだ序の口で、もっと人事制度を変えていく必要がありました。そのために大事なのは情報です。けれど外から来た社長だった僕は、信頼されていませんでしたから、誰も情報をくれない。であれば私の方から、情報を出していくことにしました。『親会社からあと1年赤字が続いたら潰すと言われています』などということも含めて、僕が知った情報はすべて社員に向けて出す。そのためのSNSもつくりました。社長だけが知っている情報はこの会社にはひとつもない、透明度の高い組織を目指したんです」

そうしているうちに、これまでの社長から部長へ、部長から課長へ、という重要事項の伝達形態が不要であることに気がついた。逆に言えば、社員が社長に意見したい時、上長の許可も不要であるということだ。

「僕が全員にいっぺんに話してしまうので人事の階層っていらないですよね。それに中間以上の階層にいる人は、マネージメントの仕事ばかりで、実質事業については何もしていないことも多い。この状態も変えたかったんです。僕も含めて全員事業に関わって貢献しよう、そういう思いからだんだん階層をなくして、オールフラットになっていったんです」

誰をどこに配置する、誰になにをやらせる、やらせない。そのマネジメントもとても大事な仕事だ。しかし本来の事業そのものは部下に丸投げ、自分は政治と人事だけを行う、そんな中間管理職はどこの会社にも多いだろう。

「そう考えて、徐々にポジションを減らしていきました。このポジションって何してたんだっけ? いらないよね? そういうふうに改めて確認するなかで気がついたのが、70人の社員のうち22人がマネージャーだったということ。70人しかいないのに、22人もの人がマネージメントだけに時間を費やしていたなんて、それでは生産性も上がらないですよね。だからまずその人たちを現場に戻しました。そもそもマネージャーになれる人は実力があるので、現場で生き生きと活躍してくれたんです」

こうして中村氏の社長就任から2年で、カラクルは赤字から脱出。さらに5年で、すべての役職、部署を撤廃した。部署がないのですべての仕事はプロジェクトごとのチーム編成になり、リーダーも毎回変わる。

「私だって社長業だけして、経営だけ考えていればいいわけではありません。カラクルはITシステムの開発、販売を行っていますから、私が開発をしているプロダクトもありますし、いちメンバーとして、リーダーの下についているプロジェクトもあります。私には代表取締役という肩書きはついていますが、これはあくまで外向きのもの。社内では効力はありません(笑)」

インタビュー後編(4/13公開)では、フラットな人事の給与と評価形態について詳しく聞く。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=田中駿伍(MAETTICO)

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