壮絶な中学時代を送った俳優、大東駿介。ここ数年は、自身のネグレクト経験を公に語り、苦しみ悩む人たちにはSNSを通じて「相談してほしい」と呼び掛け、社会問題にも大きな関心を寄せている。その理由について語ってもらった。【その他の記事はこちら】

何も持っていないから、いろんなことに気づけた
「自分ではない人生を生きたい」「自分を捨てた親を見返したい」。俳優になって10年は、そんな負のエネルギーを原動力にしてきた大東だが、俳優という職業そのものに魅せられるようになったことで、気持ちが大きく変化。現在は、「人を笑顔にしたり、温かい気持ちにさせるような生き方をしたい」と語る。
その一環というわけではないが、最近は、自分の生い立ちをメディアで語るようになり、自身のSNSなどを通じて、悩み、苦しんでいる人たちの相談に乗ることも増えた。
「(ネグレクトされていた時期の)僕もそうでしたが、誰しも、身近な人にはカッコ悪い自分を知られたくないという気持ちを持っていると思うんですよ。自分のことを知らない、全然関係のない第三者に対しての方が、悩みを打ち明けられるし、助けを求められるんじゃないかなって。
いじめに苦しんでいる10代の学生から、親の介護に悩む50代の方まで、いろんな方から連絡をいただきます。ただ、最終的に人生を好転させられるのは、自分しかいないんですよね。
世の中、公平か不公平かと言ったら、当然不公平です。生まれ持った環境もあるし、貧富の差もある。でも、そこだけを見て、不公平だって嘆いたってしょうがないと思う。お金持ちの家に生まれて、親に沢山のものを用意された暮らしの中で生きている人が、本当に幸せだとは限らない。僕みたいな、親に捨てられて一度は肉の塊になった人間が、生きていく過程で、いろんな人に出会い、やりたい仕事に向き合えているのは、ものすごく豊かな人生だと思います」
そう言った後、「スタートラインは違っていても、なりたい自分とか求めるものを得るためにどう進むかというところは、みんな平等なんですよ」ともつけ加えた大東。10持って生まれても、何も持たずに生まれても、その後の自分次第で、100手にすることもできれば、0になってしまうこともあるということだろう。
「むしろ、10持っていた人は、それが0になるのが怖くて思い切った挑戦ができないかもしれないけれど、もともと0なら、失うものがないということ。やりたいことにどんどんチャレンジしてほしいし、自分をあきらめないでほしい。そうすれば、必ずギフトがあると思う。僕自身、昔は、何も持っていないことがコンプレックスだったけれど、今はそのおかげで、たくさんのものに気づけたし、得られたと思っています」

1986年大阪府生まれ。2005年デビュー。近年は連続テレビ小説『らんまん』、『アナウンサーたちの戦争』(2023)や『あのクズを殴ってやりたいんだ』(2024)などに出演。待機作に映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025年5月23日公開予定)、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』(2026)がある。
“0”になったことを感謝している
悩み、苦しむ人たちに寄り添うなど、社会問題に深い関心を寄せている大東だが、その大きなきっかけになったのが、2020年公開の映画『37セカンズ』だ。出生時に37秒間呼吸が止まったことで脳性麻痺を患う女性の自立を描き、第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門の観客賞と国際アートシアター連盟賞を受賞した秀作である。大東はこの作品で、ヒロインに寄り添う介護福祉士を演じた。
実家のそばに障がい者のための施設があったため、障がい者と健常者とのつながり方に、大東はずっと問題意識を抱いていた。この作品を機に、障がい者に対する理解が深まり、介護の知識やスキルも得られたが、それは「人間・大東駿介にとっても大きなものだった」という。
「作品を深く読み解くには、そのテーマに関して本やネットで調べて得た知識だけでは全然足りなくて、体験や実感が必要だと僕は思います。たとえば、過疎がテーマなら、過疎化した村をリサーチし、問題を解決するにはどうしたらいいか自分なりに考えたり。しかも、それは演技に生きるだけじゃなく、僕という人間にとって、ものすごくプラスになっているんですよね。
……30歳くらいまでの僕は、圧倒的に人としての経験が不足していたと思います。俳優としては成長しているかもしれないけれど、人として豊かになっているんだろうか、経験値がないから台本を深く読み解けないんじゃないかと感じたこともありました。それを解決するには、実際に自分がいろんな人に話を聞き、体験するしかないんだって」
それからは、仕事に関係するか否かにこだわらず、自分が興味を持ったこと、関心を抱いたことに積極的にコミットするようになる。大東は、そうやって自分という人間を“肉付け”していったのだ。
「電気が止められた家で孤独を感じ、ただの肉の塊になっていた自分が、いろんなことを知り、体験して、それを吸収していく。それが、めちゃめちゃ楽しかったし、嬉しかった。0が1になるって、ものすごい進化ですよね。それを実感できるんだから、0になったことを感謝しているくらいです」
自らの力でどん底から這い上がり、今、俳優としてだけでなく人としても充実期を迎えている大東。最終回は、父としての大東駿介をフューチャーする。
<衣装クレジット>
コート¥55,000、パンツ¥29,700(ともにニードルズ)、ベルト¥27,500(ウォーボーン ウォーク)、シューズ¥86,900(ネペンテス/すべてネペンテスTEL:03-3400-7227) シャツ¥31,900、ネクタイ¥14,300(ともにエンジニアド ガーメンツ/エンジニアド ガーメンツTEL:03-6419-1798)