2024年5月に現役を引退したサッカー元日本代表主将の長谷部誠が、指導者として充実の日々を過ごしている。2024~25年シーズンからドイツ1部のアイントラハト・フランクフルトU-21(21歳以下のチーム)でアシスタントコーチを務め、8月からは日本代表のコーチも兼務。新たな環境に身を置き試行錯誤を続けている。
熱量をグラウンドに持ちこむ
現役引退から半年以上が経過しても、スリムな体型に変化はない。
2025年1月12日の浦和駒場スタジアム。長谷部誠はドイツ1部のアイントラハト・フランクフルトと浦和レッズが協力して開催したサッカー教室で、小学生3~6年生の50人を指導していた。
座学では「考える力」「行動する力」「継続する力」の大切さを強調。ピッチ上のミニゲームでは子供たちに交ってボールを追い、誰よりも大きな声を出して指示を送った。
小学生が相手であろうと、指導の熱量は落ちない。練習終了後、長谷部の声は枯れていた。
「指導者という立場になって、コーチングの熱量というところを日々学んでいる。向こう(アシスタントコーチを務めるアイントラハト・フランクフルトの、21歳以下のチーム)では練習から選手達に対して自分の熱量を全て注入するぐらいの気持ちで毎日やっています」
22年に及んだ現役生活で、公式戦約700試合に出場。日本代表で通算114試合に出場し、ワールドカップでは2018年ロシア大会まで3大会連続でキャプテンを務めた。
所属クラブや日本代表では、数々の監督やコーチングスタッフと接してきた。自身の経験をもとに指導者転身後に大切にしているのが「熱量」だ。
「選手時代に自分が魅力的だなと感じた指導者は、熱量をグラウンドに持ち込める指導者でした。そういう指導者にすごく惹かれていたので、自分も今トライしているところ」
質を語る前に、まずはとにかく量をこなす
現役時代から生活は一変した。フランクフルトU-21では毎朝午前7時頃にクラブハウスに行き、練習メニューの確認などの準備に取りかかる。
練習後もトレーニング映像の振り返りや、次戦で対戦するチームの分析などに時間を割く。クラブハウスを後にするのは、午後7時を回ることが多いという。
現役時代はチームの全体練習が2時間前後。トレーニング前の準備や全体練習後の自主練や体のケアを含めても、練習場の滞在時間は5時間程度だった。
「今は朝から晩まで練習場にいて、いろんなことをしている。現役時代は練習場にいる時間は5時間ぐらいだったけど、今は12時間ぐらいいることが多い。それは新しいことを始めるうえで当たり前だと思っています」
現役時代の練習を通して、質の重要性は十分に理解している。だが、指導者1年目の今は質より量を重視。コーチングに対する理解を少しでも深めるためにガムシャラに働いている。
「質を語る前に、まずは量をやろうと思っている。量をやったうえで、そこから質を求めていこうという考え。子供たちには『パパ家にいない』とブツブツ言われるけど、それはいつか分かってくれることを願っています」
多忙な日々を送るなかでも、身体を鍛える作業は怠らない。引退後は週5回程度の頻度で10kmランニングするのが習慣となった。
「朝凄く早く起きて、夜は結構早く寝るようになりました。練習に行く前に走ることもあるし、皆が車やバスで移動するクラブハウスから練習場の帰り道を、自分だけ走ったりもする。時間を見つけて身体は動かしていますね」
世界トップレベルで通用する監督への道は始まったばかりだが、現役時代と同様に心も身体も整っている。
長谷部誠/Makoto Hasebe
1984年静岡県生まれ。藤枝東高校卒業後、浦和レッズに入団しプロデビュー。2008年にドイツ1部リーグのヴォルフスブルクに移籍。その後2013年にニュルンベルク、2014年からアイントラハト・フランクフルトでプレー。2024年に現役を引退した。著書『心を整える。』は150万部以上のベストセラー。