年が明け、またいつもの日常が戻り始めた。想いを新たにした人も多いに違いない。そうした想いをいかにして実現に近づけるのか。ビジネスパーソンにとっても自分を見直すいいタイミングになる。その実現のヒントを、栗山英樹の言葉から探る。
栗山英樹、財産を伝える
NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演でも話題を呼ぶ前侍ジャパン監督の栗山英樹は、大谷翔平の二刀流に代表されるように、「想いを成し遂げるため」に選手に寄り添うリーダーだった。
例えば昨年、栗山は1冊の本を上梓した。大きな反響を呼んだ厚さ848頁にも及ぶ本のタイトルは「監督の財産」。栗山のリーダー論はここに表れている。
「監督にとっての財産は、選手やそれを支えてくれるスタッフ。つまり財産とはすべて、人。人が生きている限り、一番の大きな財産は人なんだと思っています。この本のタイトルも人がいかに大切か、ということを表現したいと思いました」
その思いは10年のファイターズ、2年の侍ジャパン監督を経た現在も変わらない。
「侍ジャパンの監督を辞めてからも、たくさんの人にお会いしました。それは僕がずっと、お会いしたいと思っていた人たちです。その方々の多くは、本を出されていて、それを読んで聞いてみたいこと、知りたいことがあった。でも、実際に会ってみると全然違った印象を抱いたりするわけです。逆に言うと、本の良さというのはある意味、自分の都合に合わせて解釈できるところでもあるんですが……それはまた別の話で……」
人に会い、触れ、人の言葉を知ること
監督職を離れてから栗山がずっと会いたかった人のひとりに作家の五木寛之氏がいる。
「五木先生の本をずっと愛読させていただいていて、先生は『努力できない人間がいる』と書かれていた。僕らの生きた野球界とは真逆の発想なんです。野球選手は、いい選手になりたければ当然、努力もするし、一人であっても練習する。もっとやらないとうまくならないという世界なわけです。
でも、五木先生は『人はみんな努力できるわけではない、努力できるというのはその人がもってる能力のひとつ。だからやろうと思ってもなかなかできない人がいるけど、それを否定する必要はまったくないんだ』と。その真意をお聞きしたかったんですね」
念願叶って、五木氏と出会った栗山はその対話の中で「あるヒント」を得る。
「先生が『人と人が会うと、言葉を一切発することがなくても、その人の想いや感覚がお互いを行ったり来たりする。だから、人と人は実際に触れあいながら前に進まないとダメなんだ』とおっしゃられた。コロナなどを経て、人と会うことも減りましたよね。そうじゃないんだ、と。結局、人を大切にすることで人は前進するんだ、とわかった」
人がいかに大切か。想いを成し遂げるためには、人に会い、触れ、人の言葉を知ること。栗山はそう考える。
では「会う」ことをどう実践してきたのか。
「どうしても会いたい、と思う人には会った方がいい。だからすぐ行動することです。会いたい人がいたら会える方法がないかを考えて、口に出す。これは、かつてお会いしたかった人とお会いできずに終わってしまったというある種のトラウマからきているんですが、逆に、あの人と会いたいんですってずっと言い続けていると、意外と接点が生まれるんですね」
「これは僕の仕事柄そうできる環境にあったからかもしれないけど」と前置きしつつも、「発信する」ことの重要性を説いた。
『監督の財産』のなかで栗山は「迷ったらこの人の言葉を当たってほしい」という想いを込めた「光るべきもの」という章を設け9人の名前を挙げている。
栗山によると、これだと思った言葉は「光り、浮かび上がってくる」。人と出会い、触れあい、そして言葉に接する。選手たちの「想いを成し遂げてきた」リーダーの哲学は、今年こそは、と思う多くのビジネスパーソンへのヒントになるはずだ。