PERSON

2025.01.06

「他人に仕事を任せられずに抱え込んでしまう人」への2つのアドバイス

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

せっかくの年末年始、休息して英気を養いたいけど、眼前には仕事の山。そんな方にピッタリの相談がきました。

「人に任せるより自分でやったほうが早い! という思いから、部下に仕事を振らず、何から何まで仕事を抱え込んだ結果、いつもキャパオーバーになってしまいます。私のやりかたは間違っているんでしょうか?」

会議資料、企画書、顧客対応など、部下に任したほうがいいと分かってはいるけど、微妙なニュアンスをいちいち伝えるのは七面倒だし、文章力やトークが信用できない……。同じような悩みを抱えているリーダーは多いですよね?

そこで今回は、根っからの「自分でやりたい病」であり、年間1000を超える締め切りをこなしてきた僕が、「他人に仕事を任せられずに抱え込んでしまう人」たちと、頭のストレッチをしてみたいと思います。

「頼めない」のでなく「頼める言葉」を持っていないかも

まず、他者に仕事を任せず、自分一人で仕事を成立、成功させてきたあなたは優秀なビジネスパーソン。頼もしい職人肌です。

10代で芸能界に入った僕も、全ての仕事を一人でこなすフリーランスの放送作家として40代までやってきて、「後輩を育てる必要はないし、センスの世界だから、教えても伝わるはずがないだろう」と考えてきました。

しかし数年前、作家やディレクターを目指す人たちの学校で「講師をやってほしい」と言われ、まあ、どうにかなるだろう。と軽い気持ちで引き受けたのですが、いざ壇上に立つと、とくに教えることがない。課題を出そうにも伝える言葉が見当たらない……。

そう、「教えても伝わるはずがないだろう」は思い込みで、僕自身が“伝える言葉を持っていなかった”のです。

「人に任せるより自分でやったほうが早い」と考えている人は、自分の仕事のやりかたを言語化できていますか?

呑み込みの悪い部下にイライラしていたけど、あなたが曖昧な伝えかたになっていませんでしたか?

もしそれで仕事を抱え込み、キャパオーバ―になっているのなら変革のとき。

部下に「頼めない」のではなく「頼める言葉を持っていない自分」に気づく時期なのかもしれません。

ちなみに僕の周りにいる、一流と呼ばれているヒットメーカーは、伝えるのが面倒な「センス」「感覚」「メソッド」といった領域の言語化がとてもうまい。

言い換えると、自分の仕事の効率を上げるために“わずらわしい指導や育成から逃げていない人”とも言えるんですね。

「任せてみる」と、新たな仕事を「任せてもらえる」  

後進を育てる講師になると、おのずと卒業生から「企画を見てほしい」「アドバイスがほしい」と言われるようになりました。

最初は、「同じ作家の人生を背負うのはまっぴら御免だ」と考えていたのですが、前述した「わずらわしい育成から逃げていないトップランナー」たちの姿が浮かび、僕のアイデアを企画書にしてもらう育成やミーティングに時間を割くようにしました。

すると、これまで膨大な時間を費やしていた作業が減り、そのぶん新たなアイデアを生む余白が生まれ、今では以前にくらべて約4倍の企画が通過、番組化されるようになったのです。おかげで数人の教え子が作家デビューもしています。

また僕は、以前は一人で決めていた吉本NSCの「若手芸人たちの評価」も、一緒に授業を運営しているスタッフやアシスタントに分散。査定の一部をチームに委ねてみることにしました。

すると、これも好転。運営チームの間で「僕らも評価者なんだ。真剣に見よう。向き合おう」という感情が芽生え、授業のムードがグッと良くなり、やがてそれは生徒たちに伝播し、ネタのクオリティがぐんぐん上がっていったのです。

そんな自己変革をしていくうちに、テレビ番組や出版社から「育成法を聞かせてほしい」というオファーが来るようになりました。

その一つが、いま読んで下さっている本コラムの仕事です。そう、仕事を「任せてみる」と、新たな仕事を「任せてもらえる」こともあるということなんですね。

新しい年の始まりは、新しい自分を始める好機。今年も一緒に考え、一緒に悩んでいけたら幸いです。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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