タクシーアプリ「GO」のCMでは今ドキ感満載の部下を、ドラマ『あなたの番です』では、ちゃらんぽらんな新人管理人を、『スカイキャッスル』では冷静沈着な秘書をと、どんなキャラクターも“ハマり役”にしてしまう俳優、前原滉。2024年12月20日公開の主演映画『ありきたりな言葉じゃなくて』では、また違った一面を見せてくれた。そんな注目俳優の素顔に迫る。インタビュー前編。#後編
ちょっと不思議なチームだった?
報道情報番組やバラエティ番組を数多く制作するテレビ朝日映像が、映像業界で起こった実話を基に初めて手掛けた長編オリジナル映画『ありきたりな言葉じゃなくて』が、2024年12月20日に公開される。
主役の32歳新人脚本家・藤田拓也を演じるのは、映画に舞台、連続ドラマと、出演作が引きも切らない注目の俳優、前原滉だ。
「実は僕、この役を一度、お断りしているんですよ。今の僕にできる役ではないなと思ったので。でも、監督から『脚本も、一緒に話し合ってつくっていけたら』と、すごく熱心にオファーいただいて、その言葉に背中を押され、『よろしくお願いします!』とお引き受けしました。
オファーから撮影まで長く作品について監督と一緒に話し合ってきたので、正直完成がどうなっているか想像がつきませんでした。ですが、完成した作品を観させていただいたら、素敵に仕上がっていて、喜びも大きかったです。
印象に残っているシーンはたくさんあるんですが、とくに、家族のシーンが好きですね。お父さん役の酒向芳さんとお母さん役の山下容莉枝さんがすごく素敵で、親の愛情の深さみたいなものが感じられて」
現場の雰囲気もよかったのかたずねると、「素敵な俳優さんたちがたくさん出演してくださいましたから」と言った後、前原の口から出たのは、「ちょっと不思議なチームだったんですけどね」という言葉だった。
「スタッフのみなさんは、バラエティや報道など、映画とは違う畑でやってきた人がけっこういたんです。とくに若手が多かったから、映画畑出身のスタッフさんが(その若手に)、時に厳しく、時にやさしく指導されていて、それがすごく素敵だったんですよ。
『こういう時は、こんなふうに動いたほうが、役者さんはありがたいと思うよ』なんてアドバイスをしたり。それを見て僕も、『(若手スタッフに対して)頑張れ!』って、心の中で応援していました。
いい化学反応が起きているというか、全員が一丸となってつくりあげている感じがする現場でした」
作品づくりにおいては役者もスタッフも平等
主役ゆえに、現場にいた時間は長い。とはいえ、自分には直接関係がないスタッフ同士のやりとりに、こんなにも目を配り、気遣う演者はそうはいないだろう。
前原のこの発言を聞き、そう驚いたと同時に思い出したのが、とある記事で目にした現場スタッフへの応対。
集中するシーンの撮影日だからと、あえて前原から距離を置いていたスタッフに、撮影が終わった前原が「今日はまだ挨拶をしていませんでしたね」と自ら声をかけに来たというエピソードだ。
俳優もスタッフも、担う役割が異なるだけで、上下関係はない。前原のなかには、そんな気持ちがあるのだろう。
「表に出るのは役者だけれど、作品をつくるうえではみんな平等だと思っていて。主役だからと気を遣っていただくのも、なんか居心地悪いんですよね。
僕はセリフ一言から始まった役者なので、楽屋がもらえるようになったとか寒い時にベンチコートをもらえる立場になったとかで、(役者として認められたという)感慨にふける気持ちは、もちろんあります。
でも、『いやいや、ちょっと待てよ。寒いんだから、スタッフも含め全員にベンチコートは配られるべきじゃないか?』って思ってしまう。数の問題もあるし、現実的には難しいとわかってはいるんですけどね。
だから、せめてスタッフさんのことを気にかけて、何かあれば『大丈夫ですか?』と声をかけられる人間でありたいなとは思っています。とは言っても、たいしたことはできないし、無理もしないタイプなんですけど(笑)」
「“小栗旬になりたい、なれる”と思ってあがいてきた」
こうした発言からもわかるとおり、前原は周囲を慮(おもんぱか)るやさしさを持ち、売れっ子になっても奢ることなく、地に足のついた人間だ。
それに対し、今回の映画『ありきたりな言葉じゃなくて』で演じた拓也は、他者の気持ちに無頓着で、独りよがりな説を振りかざしてマウントをとり、自分を大きく見せようとする未熟な人物。
先輩脚本家の推薦で脚本家デビューが決まったとたん有頂天になり、それがゆえに、事件に巻き込まれ、奈落の底へと突き落とされてしまう。
「(インタビュアーに対して)ライターさん、拓也のこと、嫌いですよね(苦笑)。浅はかな男だなって、僕も思います。でも、共感できるところもあるんです。
自分は平凡な人間だとわかってはいるけれど、特別になりたいという気持ちがあって、そのためにもがいていて。そういう弱さって、みんな持っているんじゃないかなという気もするんですよね。特別な人って、ほんの一握りですから。
僕自身、そのひとりです。事務所の養成所に入る時は、『(事務所の先輩である)小栗旬さんみたいになれるはずだ!』と思っていましたから。
冷静に考えたら、『なれるわけないだろ』っていう話なんですけど、というか、冷静に考えなくてもそうなんですけどね(笑)。それぐらい、自分のこと、見誤っていたんです」
小栗旬になりたくて、俳優養成所の門を叩いた青年は、その後どうもがき、どう道を切り拓いてきたのか。後編では、俳優・前原滉がいかにして生まれたのかを紐解く。
『ありきたりな言葉じゃなくて』
町中華を営む両親と同居し、ワイドショーの構成作家としてナレーション原稿の執筆に奔走する32歳の藤田拓也。鬱々とした日々のなか、先輩脚本家の推薦で念願の脚本家デビューが決まり、有頂天になった拓也の前にひとりの女性が現れて……。偶然の出会いによってもたらされた“予期せぬ人生のつまずき”、アラサーという青春から微妙な距離にいるからこその男女の葛藤とあがきを描いたヒューマンドラマは切なくも、心に染み入る。
渡邉崇監督による書き下ろし小説も発売中。映画とは異なり、拓也、りえ、京子、猪山、4人の視点で物語が進行していく。
出演:前原滉、小西桜子、内田慈、奥野瑛太ほか
脚本・監督:渡邉崇
原案・脚本:栗田智也
2024年12月20日(金)より全国にて公開
衣装クレジット:ジャケット¥106,700、ポロシャツ¥55,000、パンツ¥85,800(すべてエンポリオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03-6274-7070) シューズはスタイリスト私物