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2024.10.25

「また来たい」人気デザイナーが教える、リピートされる飲食店で大事なこととは

新港ふ頭に佇む横浜ハンマーヘッドに、2軒のレストランが新たにオープンした。デザインを手がけた森田恭通氏が、“リピートされる店”を目指して心を砕いたのは、機能性を兼ね備えた美しいレイアウトだった。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」Vol.52。

森田恭通氏が新たに手がけた「デル マール コメドール イ テラッツァ」の店内を彩るスペインタイル
森田氏が新たに手がけた「デル マール コメドール イ テラッツァ」の店内を彩るスペインタイル。これは既存の柱。建物の構造上必要な太い柱など内装レイアウトにおいてネガティブな要素を、魅力的なデザインに変身させるのも森田マジック。

お店はレイアウトが7割

2024年10月、横浜ハンマーヘッドに、グラマラスがデザインを担当させていただいたスパニッシュレストラン「デル マール コメドール イ テラッツァ」と、「蕎麦 菫(すみれ)」が開業しました。

運営するのは、僕が尊敬する経営者のひとりで、30年来のお付き合いがある新川義弘さんが社長を務めるHUGEです。

広さ120坪、2方向に海が望める「デル マール」に、床面積50坪の「菫」が隣接。

エントランスは別ですが、店内で行き来できるので、スパニッシュのあと蕎麦で〆たり、蕎麦のあとにスパニッシュで食後酒を飲んだりといった使い方も可能です。

ただし、デザインはまったく違います。スパニッシュレストランは、地中海をイメージ。スペインタイルやステンドグラスをアクセントに、椅子は太陽を彷彿させるオレンジで統一するなど、明るく開放的な雰囲気に仕上げました。

一方、蕎麦屋はオリジナルの菫色の陶箱や木と石を用いて、和を意識したシックなデザイン。青をメインカラーに据えています。

内装にもこだわりましたが、それ以上に僕が重視したのは、レイアウト。

「デル マール」は、エントランスを抜けると、オープンキッチンとバーエリアがあり、少し下がったところにメインダイニング、その先に海を望むテラスという構成になっています。

その平面図を作成する過程で、幾度となく脳内でシミュレーションを重ねました。

お客様は、エントランスに設けられた生け簀(す)で泳ぐ魚を見て、「どの魚をどんなふうに食べよう」と胸を躍らせ、オープンキッチンで料理するスタッフにワクワクし、バーエリアで食前酒を1杯。

それからメインダイニングに向かい、ゆったりしたソファ席や落ち着いた雰囲気のボックス席、個室、開放的なテラスと、その日の気分や目的に合わせ、席を選ぶ。

デート、家族や友人との食事、会食など、脳内でひとり何役も演じながら、お客様がどう過ごされるのかを“妄想”したのです。と同時に、スタッフが快適に働けるかといったことにも思いを馳せました。

オープンキッチンはメインダイニングより少し高くなっているのですが、これはお客様の目線に入ることで、スタッフのモチベーションが上がると、考えてのこと。「菫」も同様です。

そんなふうに妄想を繰り返し、お客様もスタッフも笑顔が絶えない情景が思い浮かんだ時、「きっといいお店になる!」と確信できるまでデザインするのです。

つまり、お店のデザインは“レイアウトが7割”。動線などの美しさが、お客様の居心地のよさ、スタッフの働きやすさを決めるのだと思います。

新川さんは統率力に優れ、チームを大切にされる経営者。ご自身がサービスマン出身ということもあって、常に現場目線に立ち、スタッフが快適に働けるか、最大のパフォーマンスを発揮できるかに心を砕いていらっしゃいます。

そんな新川さんに“なったつもり”でデザインした甲斐あってか、とても気に入ってくださいました。

飲食店で大事なことはリピーターという一番のファンをつくることであり、そのお手伝いをするのが僕らの仕事。デザインの力で、スタッフの士気が上がり、お客様が心地よさを感じて、「また来たい」と思っていただけたら本望です。

森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=Yasumichi Morita

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