投資歴70年目。資産20億円を築き、88歳の今も現役のデイトレーダーとして勝ち続ける藤本茂さん。「ボケてる暇なんてあらへんで」と笑う“日本のバフェット”の元気の素に迫ります。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。藤本茂さんとの対談5回目。
常に変わり続ける
和田 藤本さんは、最初はペットショップで働いていたそうですね。
藤本 そう。ペットショップ時代に、お客さんに証券会社の人がいて、話を聞くうちに「やってみたい」と株をやり始めた。それ以来、68年です。
和田 ペットショップの店員から今度は経営者になられた?
藤本 店員の給料は安かったんです。ペットは好きだったので自分で店を持つことにした。店は順調だったんですが、ある時に、都市計画で土地の値段が2倍くらいになったんです。そこで店を売ることにしました。
和田 その後に雀荘?
藤本 兄の知人が「定年したら喫茶店か雀荘でもやりたいな。学生が多いし儲かるやろ」と言ってるのを聞いて「これや!」とピンときたんです。で、ペットショップを売ったお金で雀荘を開きました。
和田 素晴らしい変わり身の早さですね。儲かりましたか?
藤本 はい。店舗は3つに増えました。ピーク時には月収で200万円ほどありました。
和田 でも結局、株の世界に入ったわけですね。
藤本 きっかけは転換社債の存在を知ったことです。「これは面白そうだ」と思いましたね。例の村上ファンドが大儲けしたのも転換社債です。でも、それで儲けるには、元手が必要です。たとえば100万円で初めたところで、10倍にしても1000万円にしかなりませんから。
和田 株で生きていくには、その額では足りないですもんね。
藤本 はい。転換社債にかけるには大きな成果がほしい。そのためには初期資本がいる。そこで儲かっていた雀荘3店舗をまとめて売ることにしたんです。知人が6500万円で買ってくれました。
和田 藤本さんは、常に変わり続けているわけですね。現状に満足せず、どんどん挑戦し、成長してこられた。
藤本 運も味方してくれたんでしょうね。バブルの波に乗り、資産はうなぎ上りに増えていきました。だけど、景気の良い話だけではありませんよ。
和田 そうでしょうね。
藤本 その後、アメリカをブラックマンデーが襲い、その波が日本を飲み込みました。
和田 バブルの崩壊ですね?
藤本 そうです。相場は崩れ始めたら、あっという間です。株価の下がりは止められません。バブル絶頂期に10億円あった資産も、バブル崩壊時には2億円になっていました(笑)。
和田 それは大変なショックだったでしょうね。
藤本 相場は動くものとわかってるから、覚悟してる部分はあったんだけどね。でも、しばらくは投資に全力投球できなかったな。
和田 株の世界から一旦は離れたんですか。
藤本 幸いにも2億円残りましたから。片手間に投資しながら遊びまわりました。女房とスイス旅行にも行きましたよ。
和田 不幸中の幸いですね。
藤本 せやけど、今度は阪神・淡路大震災ですわ。住んでいたマンションの1階がつぶれ、家を失くしました。株の売買記録のノートも焼失してしまいました。わずか5年の間に、とんでもなく大きな人生の逆境を5連続して経験しました。
和田 大変でしたね。その後、デイトレードに転向した?
藤本 はい。先にも話した便利なインターネット取引ができたからです。証券会社の人に誘われ「やってみるか」と。
高齢者は株をやったらいい
和田 デイトレードに転向して、20年で資産を20億円まで増やしたんですね。
藤本 はい。まだまだ一桁、二桁違いますよ、私の目標は。
和田 100億、1000億?
藤本 死ぬまでに達成できるかはわからんけどね。目標は大きく持たんと。
和田 目標を持つのはいいですね。とくに高齢者にとって大事な視点です。元気に長生きするには心の張りが必要で、目標があることが大事なんです。
藤本 デイトレードは高齢者にもいいと思いますよ。
和田 僕も、もうちょい暇になったらやろうかな。
藤本 時間ないよ、先生は。本書いて儲けたらええやん(笑)。
和田 本を書くには、ベターッと張り付いてないといかんわけじゃないですか。
藤本 株も同じですよ。朝から晩までベターッとパソコンに張り付いとる(笑)。
和田 じゃあ本が売れなくなって出版社に見捨てられたら株やることにします(笑)。
藤本 ほんなら一生できひんな(笑)。
和田 藤本さんとの会話は楽しいですね。目配りがすごいし、想像力もすごい。株に勝つ人はこういう人なんだって、改めて勉強になりました。老化予防の点で考えても、藤本さんの生き方には学ぶことが多いです。
藤本 あんまり欲もかかない。だから決断も早いね。
和田 それは脳にもいいし、メンタルにもいい。
藤本 みんな欲かきすぎやねん。長年やってると、大きな損失にだんだん慣れてきてしまう。
和田 負けても平気なんですか?
藤本 いや、そうじゃない。負けた時に「よし、勉強するチャンスをもらった」と思えるようになる。もちろん「なにくそ!」と奮起するんよ。で、そうやって勉強できる人が後につながっていきます。
和田 藤本さんは株に対して謙虚です。研鑽を欠かさない。
藤本 謙虚かどうかはわからないけど。常に油断しない姿勢を保ってます。絶対に勝てるとかこうなるという思い込みは危険だと思ってますから。
和田 疲れることはないですか?
藤本 楽しいですからね。せやけど、取引が多い時は頭が回らなくなることもあります。ただまあ、やると決めたら、人間は意外とできるものですよ。
和田 そういえば、藤本さんの自宅にある2つの時計がずれているのはわざとですか?
藤本 1つを25分くらい進めてます。
和田 準備のため?
藤本 あと25分したら始まります。25分したら終わりますと鳩時計が教えてくれるんや。
和田 なるほど。
藤本 熱中しとっても聞こえるわけやから。
和田 機会の損失が防げる。
藤本 秒単位やからね。いかに時間が大事かいうことや。
和田 株の値はずっと動いてますからね。
藤本 チャンスは逃しちゃあかん。どうしようかと考えたらダメなんで。