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2024.04.17

サッカー五輪・大岩剛監督「アジア対策ではなく、どの相手にも対応できる力を」

4位に終わった東京大会から3年。今夏、パリで開催される五輪への出場権を争うAFC U23アジアカップに挑んでいるサッカーU-23日本代表。コロナ禍により、2021年開催予定だったU-20 FIFAワールドカップが中止となり、この世代は国際経験が他の世代より少ない。そのハンディキャップを補おうと、数多くの海外遠征を重ね、スペインをはじめとした強豪国と対戦してきた。そんなチームを率いる大岩剛監督へのインタビュー最終回は、代表チームを形作るうえでの哲学について訊いた。【#1】【#2

日本代表経由パリ五輪、A代表でもできるレベルを求めている

――クラブチームと比べて、代表チームの監督は、多くの選手の中から選ぶことができるというイメージがありますが。

「A代表ならそういう考え方もできるでしょうが、U-23代表チームには年齢制限があります。上限が限られている。確かに下には制限がありませんが、フィジカル面でのギャップを考えるとある程度限られてきます。そういう意味では年齢の幅が決まってくる。クラブなら、大ベテランからルーキーまで、さまざまな年齢の選手がいて、キャラクターが豊富。そこに違いがありますね」

――代表チームは活動期間が限られています。クラブでの指揮とは違うものですか?

「クラブは毎日活動できるので、さまざまなことを積み上げられます。でも、代表の場合、インターナショナルマッチデー(以下IMD/FIFAが定める代表が活動できる期間。代表チームの拘束が認められる。この期間以外の場合、所属クラブが代表での活動を拒否できる)に応じた期間しか活動できませんから。試合も2試合程度に限られてしまいます」

――それでもチームを作り上げるという作業はクラブも代表も変わらない。メッセージなどの濃度を濃くする必要がありますね。

「だからこそ、名古屋グランパスで接した(アーセン・)ベンゲルが非常に参考になるんです。彼は本当にシンプルなことしか、選手に要求しなかった。こだわることもシンプル。シンプルだからこそ共有しやすい。そういう環境作りに注力しています。現代サッカーの戦術は、とても複雑化しています。選手に求めるものも当然増えていく。すべてを短期間で落とし込むことは難しい」

――数多くの戦術があっても実行できない、中途半端なものでは武器にもならない。

「だから、『俺たちはこれをやろう』というものを明確に、シンプルにして、それにこだわるというか、自信を持つというのは、ベンゲルの姿が参考になります。ミーティングで何を伝えるかというのも、すごくそぎ落とし、段階を踏みながら、浸透させていきました」

――活動のほとんどをヨーロッパなどで行い、強豪国と対戦しました。

「オランダ、スペイン、ドイツ、ベルギー……と戦い、その1戦1戦でもっと高い強度が必要だとか、選手自身がさまざまなことを体感したと思います。だからこそ、所属クラブに戻ってもそれを意識した結果、成長しているんだと思います。『自分も海外でプレーしなくちゃ』と考える選手もいるだろうし、それができなくても、皆がもがいている。そういう変化をこの2年で感じました。一度いっしょにやったあと、大きく変化する成長する選手もいます。所属クラブで何かを得たんでしょうね。自信が漲り、眼の色が変わったなと驚くことは少なくありません」

――U-23代表が刺激を与える場所になったんですね。

「僕たちのチームは、この年代のトップという位置づけです。みんなが目指している場所。だから、基準はハイレベルであるべきだと思っています。僕はよく『A 代表経由パリ五輪』と言っています。それはA代表でもやれるレベルを僕たちは求めているというメッセージです。そういう高い基準を常に持つべきだと考えています」

外れることを怖がらない。そんな思考やアクションが試合を動かす

――Z世代のコミュニケーションはほかの世代と異なりますか?

「それはよく聞かれますね。でも特に意識してないし、その最適解を僕は持っていないと思います(笑)。その言葉自体も、この世代を指導するようになってから初めて認識した感じですから。年齢によって接し方を変えるということはないですね。鹿島で監督をしていたときも、対応を変えることはなかったし。組織を前進させるためには公平性が重要だと思っています。ベテランへのリスペクトはありますが、あくまでも選手同士、会社のように役職が違うわけではないので」

――監督はコーチほど選手との距離感が近いわけではない。

「そうですね。クラブなら、クラブハウスで声をかけたり、共に過ごす時間も長いですけど。代表はそういう機会も少ないので。それでも、意見を言ってくれたり、話しかけてくれる選手はいますよ」

――今の若い世代は真面目だという話を訊いたことがあります。

「そういう面はあるかもしれませんね。昔は個の強い選手がいましたからね。突拍子もない選手はいないかもしれない」

――チームとして、選手主導で積み上げてくれたら良いなと思っていますか?

「それはもちろん。そういうのは必要だと思う。選手同士で『監督はああ言っているけど、こうやったほうが良いと思うから、やっちゃおうぜ』みたいな空気は必要だと思います。ただ、チームの規律を無くしてしまうのはダメです。チームの基準を保ったうえで、判断できる力を選手には求めてきました」

――今の時間帯はキツいから、一旦下がって、整えようみたいな選択を選手自らが行えるグループでいてほしい?

「もちろん、そうですね。ただ、そういうのも僕から、ある程度『こうなったら、こういう時間があってもいいよ』ということを提示しないと、動けない傾向があるようにも感じます。昔の僕らの世代なら、選手だけで、やっちゃう感じでしたが、それさえも監督からの言葉が必要なのかもしれないなと思います」

――それだけ、チームの規律というものが重視されているのかもしれませんね。

「確かにチームにおいての基準や規律を求めているのも事実だけれど、そこからはみ出すような突拍子もない選手が試合を動かし、結果を出すこともあります。だから、それを求めているところもあるので、メッセージを削って、削って、シンプルにして、言い過ぎないというのは、そういう意味もあるんです。僕らが用意するプランが多すぎてもいけない。その少ない選択肢の中から、選ぶということも選手に求めている。選手たち自身で、何かを起こしてほしいので。サッカーというスポーツのルール上、監督の提示したことから外れた対応をすることは必要です。それは絶対なくならない」

――事故みたいなことが起きるのが試合ですからね。

「選手の退場をはじめ、想定外のことが起きてしまう。でも、試合は止まらない。バスケットボールのようにタイムアウト制度もなく、監督が直接指示を出せるわけでもないので。そういう意味では、想定外のことは起きてほしくはないけれど、そういうときに想定外の思考やアクションを起こすことは、非常に重要かもしれません、突拍子もないって言い方をしたけれど、外れることに、怖がらないことも選手に求めたい。そのうえで、規律も守れともいうわけだから、そう単純な話ではないですが(笑)。だから、監督としてはそのバランスが大切になるんだと思います。提示もしなくちゃいけないし、提示しすぎてもいけない。これはZ世代に限らず、どの年代でも必要なことですね」

大岩剛/Go Oiwa
1972年6月23日静岡県生まれ。1995年名古屋グランパス加入。天皇杯を2度獲得し、2000年に移籍したジュビロ磐田でもリーグ優勝を経験。2003年に所属した鹿島アントラーズでは、リーグ3連覇。天皇杯で2度優勝している。2010年現役引退後、鹿島のコーチに就任。2017年監督に昇格。2021年12月パリ五輪を目指す、U-21日本代表監督に就任した。

アジアカップをしっかり戦い、さらに大きくなり、パリに行く

――パリ五輪出場権を賭けたU23アジアカップ開催も、なかなかスケジュールが決まらず、結果的にIMDではない時期の開催となりました。それでも数多くの選手を招集し、チームを運営してきたことでいい準備ができたと感じます。

「自信を持ってチームを作ってきました。活動時期に集まれる選手が異なっても、同じコンセプトを貫いてきた、だから、自信はあります。とはいえ、U23アジアカップでは苦労すると思います。集中開催で、試合間隔も短い。そういうなかで、大会を通じて、チームがよりタフになると思うし、100だったものが、120や130になってというイメージがあります」

――2024年2月のアジアカップではA代表がベスト8で敗退。同じ結果だとパリ五輪の出場権を獲得できません(上位3位が出場権獲得。4位は大陸間プレーオフへ)。アジア対策というものを考えていますか?

「ヨーロッパの強豪と戦っても、アジアはまた別だろうという意見は少なくありません。確かに守備を固めて、ロングボールを蹴りこんでくるスタイルの国もあります。その形はヨーロッパとは異なるでしょう。でも、僕らのチームは2年間ヨーロッパの国と戦い、勝ったり負けたりをしながら、自信を得たり、自信を失いながらも、サッカーの基準はどんどん上がってきている。だから、アジア対策というのではなく、どういうチームなのかを分析し、どんなスタイルのチームに対しても対応できる力をつけたという手応えがあります。ロングボールを蹴られても、セカンドボールを拾い、自分たちの時間を作り、俺たちのやるべきことをやろうというスタンスでやってきているので。当然、うまくいかない時間帯もあるでしょう。それを修正しながら、前進できるように準備してきたので」

――対策と対応。言葉は似ているけれど、大きく違いますね。自分たちが術を持ち、どれを使うかを選択して、対応していくと。

「そうです。そのためにも選手全員が同じ絵を持っている。ボールを出す選手、受ける選手、それ以外の選手が感じて、行動できるように準備する。そういう流れでこれまでもやってきましたから」

――アジアとひと口に言っても、対戦相手はそれぞれに特徴があります。また中2日というハードなスケジュール。AFCチャンピオンズリーグで優勝した2018年は、準決勝まで進んだルヴァンカップや天皇杯、リーグ戦(3位)、クラブワールドカップも含めて、年間60試合を戦いました。負傷者が増加し、限られた選手を起用しながら、勝利を重ねていく指揮官の姿が印象的でした。そんな手腕がU23アジアカップでも見られることを期待しています。

「準備、準備と何度も言っていますが、どんなことにも対応できるように準備してきたのが、今まで僕がやってきた仕事だから。それはこれからも変わらないと思います」

――そういう意味でも良い準備ができた2年間ではないでしょうか?

「どの世界でもそうだけど、そのプロセスはなかなか評価されない。鹿島でもそうでしたし、サッカー界は結果がすべてです。評価されたいわけじゃないけれど、選手たちがやっていてよかったねと、結果に関わらず、信じられるものにはしたいと思っています。自信を持って、U23アジアカップを戦うけれど、それが最高値というわけじゃないから。U23アジアカップをしっかり戦い、さらに大きくなり、パリまで行きたいというイメージがあります」

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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