放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
誰かにマウンティングされていませんか? 周りにマウントをとりたがる大人はいませんか?
学歴、収入、所有品、知識、武勇伝……そう、自分の優位性をアピールする人は周りにウヨウヨいますよね。
ですが、悲しいかな「マウンティングをしてくる人」は絶滅しません。
あなたができるのは、「してくる人に対する考えかた」をコントロールしていくことだけです。
そこで今週は、約30年、マウントだらけの業界で息をしてきた僕の、「してくる人への考えかた」をシェアしたいと思います。
マウント=上に乗りなれていない人の「後発イベント」
今では笑い話ですが、テレビ業界には高学歴の人が多いので、駆け出し作家のころは、よく学歴マウントをとられました。
プレゼンした企画の内容にはふれてもらえず、「漢字が違う」「どこの大学?」にはじまり、「いつも同じ服だな」「ショボい時計してるな」といった、収入マウント、所有品マウントもしょっちゅうでした。
でも、乗られ続けている間に「マウントをとる人の特徴」に気づいたんです。
それは“上に乗りなれていない”という共通点です。
大抵の人は、学生時代に厳しい部活やバイトに汗を流して“下の苦しみ”も“上の心地よさ”も知ります。
10代は人間的にも未熟なので、下級生や新人に厳しくあたってしまい、失敗や反省の知見をためます。
ですが、その苦い経験から、社会に出ると横暴な振る舞いには気をつけるんです。
いっぽう社会には、それらをまったく経験せずにきた一握りのエリートさんがいます。“先輩ビギナー”でもある彼らは、初めて体験する“上下関係イベント”の振る舞いが分からない。実は、内心あたふたしている。だけどナメられるのは、イヤだからマウント行動に出るのです。
そんな特徴に気づいてから、僕はマウントをとられながら、マラソン大会をしている中学生を見る感覚で、「大変だなぁ。なつかしいなぁ。頑張って!」と、後発イベントをこなしている彼らを眺める“ゆとり”を手に入れました。
お笑い芸人にマウントをとる人が少ない理由とは?
マウントをとってくる人は“自分の話ばかり”なので、ご本人は「ゆうえつ(優越)」でも、こちらは一文字ちがいの「ゆううつ(憂鬱)」になる悪魔性がありますよね。
ではなぜ、彼らの話はおもしろくないのでしょう?
僕の見立てだと“自虐のおもしろさを知らない”から。そう、マウント以外の有用なコミュニケーション手段を獲得しようとしていないためです。
例えば、芸人さんにはマウントをとる人が少ないのですが、その理由は、「どうも、ハゲです」や「オレはデブだから」などの“自分を下げるテクニック”を身につけているから。
このスキルはマウントへの対処にも有用です。
あなたの上に乗ろうとしている相手に対して、似たようなワードセンスや態度で応対しても、相手はますます鼻息を荒くするばかり。
なので、ハナから組み合おうとはせず「すごいですねぇ~」「憧れますわ~」と、自分を下げて、その場を立ち去る。顔ではウエルカム、心ではバイバイ。相手の存在を大きくしないことが大切なんですね。
マウントしてくる人にこそ「ラベル」を貼らない
「マウントをしてくる人を嫌いになる」は、至極まともな流れですが、「嫌い」というラベルを貼ると、おのずと“働きづらい空間”が形成されます。
なので僕は、いくらマウントをとられても、「好き」でも「嫌い」でもなく、「どちらでもない人」にカテゴリーして、自分の職場を保全してきました。
このアドバイスを芸人学校の生徒たちにすると、「難しそう」「できないと思う」という反応が必ずあります。
ですが私たちは、諸外国からずっと「曖昧だ」「はっきりしない」と言われ続けてきた国民です。
おそらく“世界で一番、好きでも嫌いでもない人をつくる達人”なので、実践する価値はあると僕は思っています。