放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位の桝本壮志のコラム。
鋭利な言葉には「思考の剣」で立ち向かおう
「お前、この仕事に向いてないよ」
そんな鋭利な言葉をあびた経験はありますか?
ここのところ話題の中古車販売メーカーをはじめ、令和の世になっても、耳を疑うようなデリカシーなき言葉を口にするリーダーは、まだまだ存在しています。
そこで今週は、「お前、向いてないよ」と言われたりして、仕事で凹んでいるみなさんに“思考の剣”を届けてみたいと思います。
「実力不足」は「情報不足」でもある
もしあなたが、突然「米をつくれ」と言われ、うまくできなかったら、「この仕事に向いてない」と思いますか? 思わないですよね。
モラハラ上司や先輩の「お前、この仕事に向いてないよ」発言は、このパターンがけっこう多いんです。
お米をつくるには、土づくり、苗の選定、田植え、除草、追肥など「88の手間」が必要だと言われていますが、そういった情報を知っていないと畑仕事はできません。
そう、畑仕事もオフィス仕事も、世の中の「仕事」はみんな同じ。“実力不足”の正体は“情報不足”でもあるのです。
裏を返せば、仕事に必要な情報を与えず、あなたの実力を値踏みしている人もいるということ。情報を知らないあなたがフリーズすることを想定ずみで、マウントを取ろうとしている人もいるということ。
そんな意地悪に負けないでください。
自分の実力を疑う前に、情報の足りなさを疑いましょう。そして足らなければ調べてみましょう。そんな時のための「情報社会」なのです。
「お前じゃムリ」の種あかしは「あなたがムリだった」
僕は作家のキャリアを劇場(ほぼ住み込み)からスタートさせましたが、「いつかテレビでやりたい」と思い、アイデアをためていました。
しかし、先輩のなかには、いかにテレビ界が厳しいか、レベルが高いかを、とうとうと語る人がいました。僕のアイデアを見て「向いてない」「お前じゃムリ」と言ってくる人もいて、自分じゃダメなのかな……と凹みました。
ところが、いざテレビ界に飛び込み、同じアイデアを見てもらうと「おもしろそう」「ためしてみよう」と言う人だらけだったのです。
それから約20年テレビ界にいますが、「お前じゃムリ」の種あかしは簡単でした。先輩方は、劇場からテレビに挑戦するには年齢的に厳しく、僕はまだ若かっただけなんです。
世の「先輩」や「上司」は、自分が行きたくても行けなかったポジションに、後輩や年下がステップアップすることを嫌い、無意識に阻止してしまう生き物だったりもします。
「お前じゃムリ」と凹ませてくる人の言葉は「あなたがムリだった」に変換してやり過ごす。そして自分がリーダーになったら禁句にする。これをデフォルトにしましょう。
ブレイクスルーの鍵は「横移動」にもある
最後に、“仕事は合っているが、組織が合わない”という場合。これは大いにありうるケースです。
吉本NSCでも、毎年1000人を超える芸人の卵が入学しますが、「吉本っぽくないかもな」と感じる生徒が、必ず一定数います。
なので、僕は毎年「横移動の選択肢もあるよ」と伝えています。
日本人は、序の口からはじまり横綱を目指す「相撲番付」の精神が好きですし、一般社員にはじまり、主任、係長、課長と昇進していく“組織内での縦の移動”を目標にしがちです。
吉本興業でも、卒業した1000人は劇場ライブでしのぎを削り、実力や人気に応じてピラミッドを形成。売れるためには“縦移動”しないといけません。
ですが、本来の目標は、吉本内で縦移動することではなく“芸人として活躍すること”のはず。吉本は数多あるプロダクションの一つなので、別の事務所に“横移動”してもいい。実際、他事務所に移って売れた教え子もいるからです。
上昇志向は素敵ですが、横移動してつかむ高みもある。これも頭の片隅に置いてみてください。
それでは、また来週お逢いしましょう。