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2024.03.04

サハラ砂漠、アマゾンの密林…なぜIT経営者は過酷なアドベンチャーレースに挑むのか

サハラ砂漠、南極大陸、アマゾンの密林。エクストリームな旅先で、過酷なレースに出場する男がいる。時に命の危険を冒してまで挑む、その理由とは──。【特集 エクストリーム旅】

サハラマラソン
「サハラマラソン」では険しい岩場を抜ける。水はたびたび支給されるが、それ以外の食糧などを背負って走る。

危険と隣り合わせな孤独で過酷なレース旅

アフリカ、サハラ砂漠を7日間かけて、250㎞走る「サハラマラソン」に、エニグモCEOの須田将啓氏が出場したのは2012年のことだ。

「7日間砂漠で生き抜くための食糧などを背負って走るレースです。途中に山間部もあり、起伏もあるコースを、毎日40㎞ほど走ってゴールまで向かう。そんな凄まじい大会があると知ってしまったからには、挑まずにいられませんでした」

それまでにも、トライアスロンなどさまざまなレースに出場してきた須田氏。日中の気温が50度近くまで上がる灼熱の砂漠で、アドベンチャーレースの魅力に取り憑かれた。

「トライアスロンは何度か出場して慣れてきました。挑戦の場であるはずのトライアスロンがコンフォートゾーンになってしまっている。もう一度デンジャラスゾーンに挑みたいと、より過酷な大会に参加するようになったんです。砂漠では50度あったかと思えば、雹(ひょう)が降りだす。前を走る人を見失い、見渡す限りの地平線に自分しかいない状況もありました。過酷で孤独。けれど、砂漠の空に出る月はあまりに大きくて美しく、本当に感動的でした」

サハラマラソンの翌年には南極大陸でのフルマラソンと、トライアスロンに挑んだ。

「とにかく寒い。汗も凍ってしまうのでかけない。あたり一面、真っ白で眩しくて目が焼けるよう。サングラスを外したら10秒といられません。生物はまったくおらず、風の轟音だけがひたすら鳴り響く極限の世界でした」

孤独で過酷なレース旅。その極めつけは、2016年に出場したアマゾンの密林を7日間で260㎞走る「アマゾンジャングルマラソン」だ。

「最も命の危険を感じたレースです。毒蛇など危険生物がいるアマゾンを、サハラと同じく荷物を背負って走ります。サハラの場合は発煙筒を焚けば救助が駆けつけますが、ここでは小さな笛を渡されただけ。笛の微かな音に、他の出場者やアマゾンの村人が気づいてくれることを祈るのみなんです。救助ヘリも飛びませんから、怪我や病気はまさに命取り。自分の身は自分で守る、ということを改めて徹底したレースでした」

準備が9割。徹底的なリサーチ力が生死を分ける

命の危険すらあるレースに、須田氏が惹かれるその理由は一体何なのだろうか。

「経営者として会社を率いるようになると、達成感は大きくなりますが、質も変わってきます。一方レースは身ひとつで挑み、全身全霊で達成感を味わえるのが醍醐味。それにこれらのレースは、準備が9割なんです。生き抜くために、完走するために何を持っていくべきか。それをどれだけ軽くできるか。徹底的に情報を集めて対策すれば大丈夫。あとは自信を持って挑戦するだけ。仕事と同じです」

荷物の準備はレースの2ヵ月前から。歯ブラシの柄を折り、ドライフードのパッケージを切り取り、グラム単位で荷物を調整する。さらに米10㎏を背負い、品川から七里ヶ浜まで50㎞走るトレーニングも続けて肉体をつくっていくという。準備を完璧にして挑んだこれらのレースを経て、須田氏は自身の変化を感じるようになった。

「レースに欠かせないのは、この準備力、想定外に臨機応変に対応する力、そして不屈の魂の3つです。これはビジネスでも、特に経営者に重要なマインド。私はレースを経験するたびに、この3つの力が養われていった気がします。仕事で問題があっても、絶対に諦めず、逆にどう乗り越えてやるかワクワクするようになりました(笑)」

次に狙うレースを聞いてみると、須田氏は大きく首を横に振って笑った。

「世の中に『こんな過酷なレースがあるのか!』と知ってしまうと、挑戦してみたくなる。だから、くれぐれも『すごいレースがあるよ』なんて教えないでくださいね(笑)」

そう言いながらも、現在もトレーニングを続けている須田氏。次なるレースに向けての準備はすでに始まっているのかもしれない。

須田将啓/SHOKEI SUDA
エニグモ代表取締役CEO
1974年茨城県生まれ。博報堂を経て2004年エニグモ創業、海外ブランド・ファッション通販BUYMAを設立。2009年ホノルルトライアスロンでレースデビュー。翌年アイアンマンに出場し、さまざまなレースに挑み続ける。

【特集 エクストリーム旅】

この記事はGOETHE 2024年4月号「総力特集:エクストリーム旅」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら

TEXT=安井桃子

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