時代は変わってきた。職種の境界線が崩れ、肩書きにとらわれない時代になったと話す森田恭通氏。ではどう頂点を目指すのか? デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.44。
今、ビジネスで“マルチプレイヤー”が求められる理由
よく聞かれる「インテリアデザイナーになりたいと言う人に、どんなアドバイスをされますか?」という質問。正直、とても悩ましいです。なぜならデザイナーという職業の位置づけが変化してきているからです。
僕がデザイナーの仕事を始めた頃は、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザインなどの棲みわけがしっかりあったのですが、今やその境界線が曖昧になっています。昔に比べると、クライアントの要望が多岐にわたっており、そのニーズに応えるため、クリエイティヴな仕事は多方面にわたり、クリエイターはさまざまな顔を持つようになっています。
また、ニッチな市場がより求められる時代にもなってきました。例えば、僕が携わらせていただいた東京・南青山にある「セーヌ(SCÈNE)」という招待制アートサロンはありそうでなかったシーンを創りだした好例です。
ほとんどのアーティストはギャラリーと専属契約し、作品を展示・販売する場を設けてもらいます。しかし「セーヌ」はアーティストと専属契約せず、他のギャラリーでウェイティングしているアーティストの作品を展示するなど、さまざまなアーティストの作品が展示されるサロンとして、コレクターから注目されています。
つまり、こんな仕組みがなかったのか? という隙間をついてきたわけです。もちろんディレクターの山本菜々子さんの人柄があってのことだと思いますが、そのアイデアとセンスはさすがのひと言です。
時代の潮流を察知し、何が必要とされるのか。それを見つけ、実現し、オリジンになる。そこに数字の強さがあれば、ビジネスとして成りたつ。だから若い世代には、マネジメントや数字を扱う勉強をして備えることが僕からのアドバイスです。数字に強ければ、好きなことをビジネスにすることができますから。
加えて重要なのが自分をマネジメントし、それを伝えるコミュニケーション能力。自分の強みを的確にアピールできないと、ビジネスにはつながりません。
今やパンクロッカーがお花屋さん兼アーティストになる時代です。フラワーアーティストの東信(あずままこと)さんは、世界にひとつだけのオートクチュールの花束を作り続ける一方で、一流ファッションブランドのランウェイを彩り、花束を宇宙に打ち上げ、深海に沈め、花や植物という身近にあるものを題材に、新しいクリエイティヴを次々と生みだし続けています。
花屋、デザイナー、アーティスト。いずれの枠に収まらず、しかしそのすべてに通じる。自分の視点を同じ方向だけでなく、多角的に動かすことができたら、あらゆる場所にチャンスは潜んでいるはずです。
そこで必要になってくるのがプロデュース力です。亡くなってから評価されることの多かったアートの世界で、存命中に評価されたピカソやウォーホルのようなアーティストは、時代の潮流を汲みとり大衆の心を引きつけたセルフプロデュースの天才だったのでしょう。
今、世の中にないものをどのようにして生みだし、世の中に伝えるか。競争の激しい現代で勝ち残るためには、肩書きにとらわれない働き方でニッチなところを攻めること、セルフプロデュースする力が鍵だと僕は思うのです。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。