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2023.12.07

競泳ニッポンの危機に挑む、日大4年・本多灯

競泳日本代表は2023年7月の世界選手権(福岡大会)で自国開催にも関わらず銅メダル2個に低迷した。2024年パリ五輪でも苦戦が予想されるなか、奮闘が期待されるのが2021年東京五輪男子200mバタフライ銀メダリストの本多灯(21歳・イトマン東京)だ。男子エースの自覚を持って、競泳ニッポンの危機に向き合っている。連載「アスリート・サバイブル」

危機が叫ばれている競泳ニッポン

世界舞台でメダルを量産してきた日本競泳陣だが、ここ数年は低空飛行が続く。

2021年の東京五輪はメダル3個(金2、銀1)で2000年代の五輪では最少。2023年世界選手権福岡大会ではさらに成績を落とし、銅メダル2個に沈んだ。

世界と水をあけられるなか、気を吐いているのが本多灯(ともる)だ。

本命種目の200mバタフライで、2021年東京五輪で銀、2022年世界選手権ブタペスト大会で銅、2023年世界選手権福岡大会で銅を獲得。

表彰台の常連となり、2024年夏のパリ五輪では金メダルを目標に掲げる。

日本のエースに成長した21歳は低迷する日本の現状について「日本の水泳が小さくなりつつあるのかなと思っている」と危機感を口にし、「僕が水泳界を盛り上げていきたい。来年の五輪に向けて、自分のやることは変わらない。金メダル取れるように頑張っていく」と視線を上げる。

競泳ジャパン・オープン、自己ベストで優勝

座右の銘は「何事も楽しむ」。

兄の影響で3歳で水泳をはじめてから、常にレースを楽しみながら成長を続けてきた。だが、世界選手権福岡大会では東京五輪メダリストの肩書きと自国開催の重圧が重なり、レース前に初めて不安にさいなまれた。

初日の400m個人メドレーで本来の泳ぎができず、予選14位で敗退。200mバタフライも準決勝5位通過。

表彰台が危ぶまれるなか、決勝は開き直って表彰台を死守し「自分に重圧をかけていたりしたなかで、メダルを取れたことはうれしい。(金メダルではなく)銅メダルかという思いはあるが、諦めなくて良かった」とほっとした表情を見せた。

世界選手権福岡大会後は守りに入っていた姿勢を反省。挑戦者としてレースを楽しむ原点に戻り、2024年9月のアジア大会(中国・杭州)では200mバタフライと400m個人メドレーの2冠を達成した。

2023年11月30~12月3日のジャパン・オープンでも同じ2種目で2冠。冬場の強化期間で疲労の蓄積するなか、400m個人メドレーでは自己ベストを更新した。

「変わらず僕に期待してほしい」

パリでの金メダルへ、ライバルの背中は決して近くない。

東京五輪金メダリストで世界記録保持者のクリストフ・ミラーク(23歳・ハンガリー)とのベストタイムの差は3秒近い。ミラークが欠場した世界選手権福岡大会の決勝レースでは優勝したレオン・マルシャン(21歳・フランス)に1秒23差をつけられた。

パリ五輪まで1年を切り、逆転は簡単ではないが「金メダルを獲りたい、世界一になりたいという大きな目標はブラさない。今の僕では勝てないが、それは諦める理由にはならない。変わらず僕に期待してほしい」と言い切る。

世界選手権福岡大会後には五十嵐千尋(28歳・T&G)、塩浦慎理(32歳・イトマン東進)ら一部ベテラン選手から日本水連に対してアスリートファーストではないとの不満が噴出。

日本水連との強化方針の違いにより、ミーティングを欠席するなどした平井伯昌コーチ(60歳)が2024年2月まで代表コーチの活動を自粛するよう勧告されるなどドタバタが続いた。

過渡期を迎える日本競泳界で数少ない明るい材料が本多の存在。

「今年(2023年)はいろいろなことを感じ、考えた1年だった。正直まだ金メダルが遠いところにあるのは間違いないが、確実に近づいてきているとは思う」

パリでの金メダルだけを見つめて、前向きに突っ走る。

本多灯/Tomoru Honda
2001年12月31日神奈川県生まれ。日本大学藤沢高等学校を経て、現在は日本大学4年。イトマン東京に所属する。本命種目は200mバタフライで、2021年東京五輪銀メダルを獲得。身長1m73cm。

■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=YUTAKA/アフロスポーツ

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