約1年の延期が決まった東京五輪。本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかでメダルを目指すアスリートの思考や、大会開催に向けての舞台裏を追う。
短距離の自由形を長年引っ張ってきた逸材
美女と顔を寄せ合い笑顔を見せるモヒカンのスイマーが話題を集めたのは9月9日のことだった。タレントおのののか(28)と結婚した競泳男子の塩浦慎理(29=イトマン東進)は日本屈指のスプリンター。世界大会の個人種目でメダルがないため、萩野公介(26=ブリヂストン)、瀬戸大也(26)らと比べて知名度は高くないが、競泳の花形である短距離の自由形を長年引っ張ってきた逸材だ。
世界選手権に4大会連続出場中で、2013年スペイン・バルセロナ大会では北島康介らとともに男子400㍍メドレーリレーで銅メダルを獲得。昨夏の韓国・光州大会では50㍍自由形で日本人として18年ぶり2人目のファイナリストとなった。
'16年リオデジャネイロ五輪にも出場。来夏の東京五輪日本代表入りも有力視されている。トレードマークのモヒカンは初めて日本代表入りした'13年に初挑戦。目立つために奇抜な髪型にしたが「引き際が分からない」と7年以上も継続している。
「最高のパートナーを手に入れたので、格好いい姿を見せたい」
今月3~6日に開催された日本選手権の50㍍自由形では連覇を達成した。タイムは21秒96。自身の持つ日本記録に0秒29届かなかったものの「優勝はもちろんうれしい。21秒台で終われたのは気分的に違う。長年自由形の短距離を引っ張ってきた自負もある」とプライドをのぞかせた。妻帯者としての初レースとなった10月の日本短水路選手権の50㍍自由形は3位。低調な結果が続けば、周囲から結婚が不調の一因とも言われ兼ねない。レース後は「妻はすごく競技に理解があり、食事の面なども気を遣ってサポートしてくれる。最高のパートナーを手に入れたので、格好いい姿を見せたい」と決意を語っていた。
10月下旬から約1カ月間はハンガリー・ブダペストで開催された国際リーグ(ISL)に参戦。新婚早々、離れ離れの生活を送り「僕は長期の遠征に慣れているけど、妻は寂しそうでした」と明かした。遠征中は8時間の時差をものともせず、連日ビデオ通話で連絡を取り合ったという。遠征中は競技に打ち込むために妻に欧州の生活リズムに合わせてもらっていたため、塩浦が帰国した直後は2人揃って時差ボケ状態。「(妻に)夜型の生活をさせてしまったので、日本に帰ってきて一緒に時差調整をしました。2週間の隔離期間はゆっくりできて、本当に良い時間だった」とのろけた。
YouTubeチャンネルを開設
プール外でも積極的に活動している。昨年に自身のYouTubeチャンネルを開設。水泳のレッスンやレースの舞台裏などの本職に加え、年間約1000杯のコーヒーを飲むスポーツ界きってのコーヒー通として、お薦めのカフェや、アスリート向けのスイーツの作り方などを紹介する。「アスリートとして五輪に向かうなかで、自分のコンテンツがほしかった。パーソナリティを知ってもらえれば、応援もしてもらえる」と意図を説明した。
遠征にはドリッパー、ポット、ミル、コーヒー豆を持っていき、自身で淹れるのが日課。おのののかは自身のインスタグラムに「年間1000杯コーヒーを飲む旦那さんの影響で、コーヒーの舌が肥える肥える笑。いつか夫婦でカフェやれたら楽しいよな~」と記している。
東京五輪の延期決定後はモチベーションが低下。練習に身が入らない日々が続いたが、ISLで'19年世界選手権6冠のドレッセル(米国)ら世界のトップスイマーと一緒に泳いだことで「そろそろ本気で泳がないといけない」とスイッチが入った。東京五輪本番会場の東京アクアティクスセンターで開催された日本選手権の連覇により「久しぶりに良いレースができて、気持ちの面がようやく整った。これから前向きにトレーニングできる」と競技に対する熱い気持ちを完全に取り戻した。
東京五輪の日本代表選考会は来年4月に開催予定。この先は体調管理がより重要性になるため、食事に対するこだわりも強くなる。塩浦は妻の手料理について「煮物とか美味しいですね。僕が体調管理の面でけっこうリクエストするので、出汁の取り方とかが上手くなりました」と評した。目標は東京五輪での上位進出。美人伴侶の存在が何よりの発奮材料となる。