選手の新たな収益源を確立!
2020年度アメリカンフットボール日本一に輝いたオービックシーガルズで活躍する前田眞郷氏。現役トッププレイヤーである前田氏が、「アスリートの価値を最大化し、人生を豊かにするキッカケをつくる」をミッションに掲げ、’18年に設立したのがスタートアップ企業、リバイブだ。’19年には、ジャフコやアカツキ、MTGVenturesなどから1億2000万円の資金を調達するなど、注目を集めている。
「前職の生命保険会社でアスリート対象の資産管理業務に携わっていたのですが、長い人生を考えるとお金を守ることよりもお金を稼ぎ続けることのほうが大切だと感じ、こうしたキャリア構築の課題を解決したいと、起業を決めました」
競技の種類にもよるが、アスリートが第一線で活躍できる期間は短い。しかも、引退後に解説者や指導者になれるのはごく一部で、大半の選手がセカンドキャリアをイチから模索することになる。現役時代にしても、収入は実績に左右されるため不安定で、ケガなどで突然選手生命が断たれる危険性もつきまとう。収入を得る手段としては、アスリートはかなりリスキーだ。
「本業で結果を出すことが一番大切ですが、今の時代、競技外で収益を確保するための手段は充実していて、そもそも現役時代に名前が知られているからこそできることも多い。セカンドキャリアを探るなら、知名度がある現役時代のうちに準備をするほうが有利です」
現在だけでなく将来の収入源も探る
この想いをカタチにしたのが、現役時代だけでなく将来を見据えた持続的な価値を生むためのサポートをする「アスリート・クリエイティブ・パートナー事業」。現在、阪神タイガースの近本光司選手や格闘家のHIROYA選手、競泳日本代表の塩浦慎理(しんり)選手などと提携。ビジュアルに強みがあるならインスタ、言葉に長けているならツイッターのように、各選手の特徴を活かしたプラットフォームを選び、企画や制作などをサポートしている。
「アスリート自身がSNSで発信することで、人柄やライフスタイルなどプレー以外の魅力が伝わり、新たなファンがつくこともあれば、企業案件につながることもあります。そんな風に収入にプラスになるだけでなく、将来競技外のことにチャレンジする際、応援してくれるサポーターを増やすことにもなると思います。アスリートが競技以外の事業を手がけることを批判する声もありますが、逆に、本業以外での活動が競技のレベルアップにつながることがあることも知ってほしいですね」
スポーツはある程度のレベルまでくると、練習やトレーニングだけでは成長が止まる時期が必ずくる。そのため、競技外での体験や学びを自身の成長につなげられるかが重要だという。
「僕は起業してから、競技成績が向上し続けています。要因は競技に対する意識が変わり、目の前のプレイに、以前にも増して集中し続けられるようになったから。スポーツも仕事も結果をコントロールすることはできません。だからこそ、自分でコントロールできることをやり続けることが大切。スポーツだけやっていてはたどりつけない境地でした」
実際、前田氏はリバイブ設立の翌年、オフェンスMVPになっている。確かに、本業以外の世界を持つことは、将来の仕事につながるだけでなく現在の自分を高めるのにも役立つようだ。
学生アスリートのポテンシャルに着目
リバイブは今年、新たな事業を立ち上げた。主に体育会所属の大学生を対象に、次世代型アスリート人材を育成する「アカデミー事業」がそれだ。プロや社会人リーグで活躍するトッププレイヤーを講師に技術や戦術といった競技に関するレクチャーのほか、主体的なキャリア構築を実現するための指導を行う。
「高いレベルでプレイする学生でもプロになるのはひと握り。大半は一般企業に就職します。ただ、競技に熱中するあまり、キャリアに関して無頓着なケースがほとんど。スポーツひと筋に打ちこんできた学生に、もっと広い世界を提示し、多くの選択肢から、自分自身で納得して選んでほしいと考えています」
そもそも「トップアスリートと呼ばれる人たちは、ビジネスの世界で通用する素養を持っている」とも、前田氏は指摘する。
「今後社会で必要とされているのは、自ら道を切り拓くことができる人材。スポーツは、勝つとか記録を出すといった目的を達成するために、自らの強みと課題を把握し、より高い成果を出すための戦略を描き、具体的な行動計画に落としこむ。そしてトライアンドエラーを繰り返しながら成長していく。チームスポーツの場合、周りを客観的に見て、自分の役割を認識することも求められます。いわゆるビジネスで言うところのPDCAをうまく回せないと、トップ選手になれません。だから、大学まで高いレベルでやれている選手は、ビジネスの世界でもきっと活躍できるはず。それを学生に知ってほしいし、自信を持って広い世界に飛び立ってほしい。企業からも、競技を通じて、仕事をするうえで大切な素養を身につけた学生アスリートへの期待は高いですね」
真摯にスポーツに取り組んできたアスリートが、“戦場”を離れたあとも豊かな人生を送れるように。それは、自身が現役プレイヤーだからこそ生まれた願いであると同時に、経営者としての前田氏を突き動かす原動力になっているに違いない。
新時代のアスリートを育てる体育会の学生に向けてセミナーを開催
前田氏は、大学まで高いレベルでスポーツを続けてきた学生のポテンシャルに注目し、育成プログラムにも着手。
スポーツ界での広い人脈を活かし、アメリカンフットボールやラグビーなどのトッププレイヤーを招き、学生向けのセミナーを開催している。
「これまでスポーツ一筋だった学生が多いので、その世界を広げてあげたい。テクニックや戦術、リーダー論といった競技に関する話だけでなく、スポーツと仕事の両立、就職先の選び方、働く意義など、学生の将来につながる話をさせていただいています」。
個人の収益源を持ちつつトップリーグに
ジャパンラグビートップリーグのクボタスピアーズに所属しながら、SNSなどで収入も得ている岸岡智樹選手。
「当時の岸岡選手はラグビーを続けたい気持ちはありながらも、一般企業への就職を考えていました。彼にはラグビーに対する独自の戦術眼があり、トレーニング方法なども面白い。『SNSで発信すれば、キャリアの可能性を広げられるのでは? 』と提案しました。仕事とスポーツを両立する新しい時代のアスリートとして、頼もしく思っています」(前田氏)
人を惹きつける二刀流経営者の素顔
「お会いするまで、前田さん自身が現役アスリートであることを知りませんでした。なのでビジネスとスポーツ双方で活躍していることに驚いたと同時に、『よいアスリートであることとよいビジネスマンであることに違いはないんだな』と感じたのを覚えています。スポーツ業界のテクノロジー浸透度は、決して高いとは言えません。スポーツとビジネス、テクノロジーがわかる前田さんのような経営者が、業界を変え、スポーツの魅力をさらに拡張してくれるに違いないと思います」(ジャフコ パートナー 北澤知丈氏)
「世の中に“ワクワク”を生みだす会社に投資したい。その想いから、アメフトを通じて多くの人にワクワクを届けている前田さん率いるリバイブに出資させていただきました。スタートアップ経営には目に見えないものを信じてくれる仲間(共同創業者・従業員メンバー・協力会社・投資家等)が必須ですが、前田さんは仲間を集めるのがうまく、ゴールに対する“やりきり力”も素晴らしい。試合同様、仲間と全力でフィールドを駆け抜けて、タッチダウンを決めてくれる姿も頼もしいです」(アカツキ Heart Driven Fund ヴァイスプレジデント 熊谷祐二氏)
「前田社長に初めてお会いした時、目の奥に力があり、『スポーツ業界やアスリートが直面する課題を、自分が起業して解決するんだ』という強い決意を感じました。現役選手でありながら起業家にチャレンジされるなど、前田さんの生き方そのものが、アスリートを志す若者たちのロールモデルとなる気がします。日々の成長を目指し、肉体も心も常に鍛錬しているところも魅力的ですね。今後もスポーツ業界での人脈や行動力を活かし、アスリートの生き方を変えてくれることを期待しています」(MTG Ventures 代表取締役 藤田 豪氏)
YouTubeで新たなファンを獲得した格闘家HIROYA
SNSやイベントなど、プロアスリートの特性を活かしたプラットフォームを提案・企画・制作しているリバイブ。
「格闘家のHIROYAは人柄が魅力。それがダイレクトに伝わるよう、YouTubeでの展開をメインにサポートしています」と前田氏。昨年末開催の「RIZIN.26」で、HIROYA氏がYouTuber・シバター氏と対戦することになった時は、その関連動画を「HIROYA×大雅チャンネル」にアップすることを企画。
狙いどおり、ふたりが試合の裏側を赤裸々に語った回は再生回数200万回を超えるなど、大きな反響があった。コメント覧には、HIROYA氏の誠実さやひたむきさを賞賛し、「ファンになった」「これで格闘技が好きになった」という声も。
今後、HIROYA氏の新たな活躍の場が広がりそうだ。
Policy of MAEDA
01. アスリートとしてだけでなく一人間としての魅力を引きだす
02. スポーツで培っている価値を社会に翻訳する
03. 自らがトップアスリートであり続ける