日本テニス界で将来を嘱望される望月慎太郎(20歳・IMGアカデミー)にとって2023年は実り多いシーズンとなった。10月に開催された木下グループ・ジャパン・オープン(有明テニスの森公園)で4強入りと躍進し、2023年11月6日付の世界ランキングで自己最高の129位をマーク。トップ100入りも視野に入ってきた。連載「アスリート・サバイブル」
ランキングよりもコートで何をできるかが大切
ワイルドカード(主催者推薦)で出場権を得た木下グループ・ジャパン・オープン。
当時世界ランキング215位の望月慎太郎は1回戦直前のコート上でのウォームアップ中にアナウンスされた自身のランキングを聞き「そんなに落ちていたんだ」と驚いたという。
プロテニス選手にとって世界ランキングは単なる指標以上の意味を持つ。
ランキングは過去52週間(約1年)に出場した上位19大会のポイントの合計で決定。各大会ではランキング上位選手から順に出場資格が与えられるため、ランキングが低迷すればツアー大会はもちろん、ツアー下部チャレンジャー大会の出場すらままならなくなってしまう。
ランキングポイントの計算に追われる選手は多いが、望月の思考は少し違う。
「いつも挑戦者の気持ちでやっているので、ランキングとかは気にしていない。ランキングの上下によって、どうこうというのはまったくない。それよりもコートで何をできるかが大切」
世界ランクという数字に縛られることなく、あくまでコート上の感覚を重視している。
世界215位の大金星に海外衝撃
この精神が生きたのか。木下グループ・ジャパン・オープンでは格上を次々と撃破し、海外メディアが「おとぎ話」と伝えたほどの快進撃を見せた。
1回戦で世界31位のトマスマルティン・エチェベリ(アルゼンチン)を6-4、7-6で破りツアー初勝利を挙げると、2回戦では世界10位で第1シードのテーラー・フリッツ(米国)に0-6、6-4、7-6で逆転勝ち。
準々決勝では世界41位のアレクセイ・ポピリン(オーストラリア)に7-5、2-6、7-5で勝利した。
日本勢の4強入りは2018年大会準優勝の錦織圭(ユニクロ)以来2人目の快挙。
準決勝でロシア出身で世界50位のアスラン・カラツェフに3-6、4-6で敗れたが、3試合連続の番狂わせで大きな爪痕を残した。
大会期間中はリラックスするために、1人でカラオケに行き、おはこの「EXILE」の歌を熱唱。
2023年夏以降はツアー下部大会でも早期敗退が続いただけに「ここ最近、少し自信を失いかけた試合があったが、まずは自分を認めるというか、自信を持って試合ができていた。自分をコートで表現できた。素晴らしい1週間だった」と充実感を滲ませた。
フェデラーのヒッティングパートナー、錦織圭が認める逸材
2019年ウィンブルドン選手権のジュニア部門で初優勝。望月は日本男子として4大大会のジュニア部門シングルスで初めて頂点に立った。
ジュニア時代には現在世界2位で同い年のカルロス・アルカラス(スペイン)に勝った実績もある。
2019年11月のATPツアーファイナルズでは元世界1位のロジャー・フェデラー氏(スイス)のヒッティングパートナーを務め「大きなイベントに出場するチャンスがあれば、とにかくそれに向かっていけ」と助言も受けている。
同じIMGアカデミー出身の錦織圭(ユニクロ)の後継者として注目を浴び、2019年11月にプロ転向。
コロナ禍や、パワフルな選手が揃うプロの世界で力負けが続いた影響もあり、芽が出るまでに時間を要したが、2023年4月のツアー下部大会で初優勝。同年7月のウィンブルドン選手権で予選を突破して、4大大会で初の本戦出場を果たした。
4大大会の本戦にストレートインできる目安となる世界ランキングのトップ100入りも視野に入ってきたが「チャレンジャーでもタフな試合ばかり。良い意味であまり自分に期待しすぎずに1試合1試合集中したい」と強調する。
2023年11月には国内で開催されるツアー下部チャレンジャー大会にも出場。11月19日に閉幕した兵庫ノア・チャレンジャーで今季全日程を終えた。
激動のシーズンを振り返り、自身のインスタグラムに「とにかく長かったシーズン。何度も何度も砕けながらやり抜いた1年だったと思います。これからも色んなことがあると思いますが、何度砕けてもやり続けます」と記した。
一大会の結果に一喜一憂することなく、2024年も地に足をつけて、着実に歩を進めていく。
望月慎太郎/Shintaro Mochizuki
2003年6月2日神奈川県生まれ。兄と姉の影響で3歳からテニスを始める。12歳で「盛田正明テニス・ファンド」の奨学生となり、米IMGアカデミーに留学した。19年ウィンブルドン選手権のジュニア部門で日本男子として初優勝。日本男子として初のジュニア世界ランキング1位に就いた。同年11月にプロ転向。21年3月には史上最年少17歳9カ月でデビス杯の日本代表に選出された。身長1m75cm。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。