男子テニスで故障離脱中の錦織圭(33歳・ユニクロ)の復帰が間近に迫ってきた。木下グループ・ジャパン・オープン(2023年10月22日閉幕、東京・有明テニスの森公園)には間に合わなかったが、2023年11月6日開幕のツアー下部のチャレンジャー大会、愛媛国際オープン(愛媛総合運動公園)にエントリー。ここ数年はケガに苦しむが、競技に対する情熱に衰えはない。連載「アスリート・サバイブル」
テニスに対する情熱は衰えない
33歳。ここ数年、錦織は度重なるケガに苦しみ、自身と向き合う時間が増えた。2023年7月のアトランタ・オープンで左膝を負傷して、現在も離脱中。キャリア終盤に差し掛かり、引き際について思いを巡らすこともある。
2023年10月15日、有明コロシアムで行われた木下グループ・ジャパン・オープンの開幕前イベントに参加。その後の記者会見で、衰えないテニスへの情熱を語り“引退観”も明かした。
「体が尽きるまではやるだろうなという考えはある。情熱は全然衰えないし、動画で試合を見ていても試合をしたいなという気持ちが出てくる。だから情熱がなくなってやめるというのはない。やめるとしたら体が限界だと感じたら。これからデカい手術をもう1回したら無理なのかな」
度重なるケガから復活へ
2021年10月から長期離脱を経験。2022年1月には股関節の手術を受けた。過酷なリハビリを乗り越え、2023年6月のツアー下部大会で約1年8ヵ月ぶりに公式戦に出場。復帰大会をいきなり優勝で飾った。
2023年7月のアトランタ・オープンで約1年9ヵ月ぶりにツアー大会に出場。準々決勝まで駒を進めて世界トップレベルでも戦えることを証明したが、この大会で左膝を負傷し再離脱を強いられた。
その後は出場を予定していた全米オープンなどを欠場。ジャパン・オープン出場の可能性を直前まで探ったが、かなわなかった。
「ギリギリ間に合わなかった感じ。回復は順調です。左膝に炎症があり、水も溜まっている。炎症が引くのを待っている状態で、大事ではない」
2023年内の公式戦出場を目指しており、早ければ11月6日に開幕するツアー下部のチャレンジャー大会、愛媛国際オープン(愛媛総合運動公園)で復帰。同月に兵庫、横浜、四日市で開催されるチャレンジャー大会への出場も検討しており、2018年ジャパン・オープン以来、約5年ぶりに国内でプレーする可能性は高い。
「早く戻りたい。正確には分からないが、あと1~3週間ぐらいで治ればいいなという感じ。(11月に国内で開催されるチャレンジャー大会の)4つのどこかには出たい。可能であれば全部出たいけど、体との相談です」
ラオニッチ、マレーからの刺激
同年代の奮闘にも刺激を受けている。2023年6月に、ふくらはぎ負傷で長期離脱していた元世界3位のミロシュ・ラオニッチ(32歳・カナダ)がツアー大会で約2年ぶりに勝利。2018年に臀部手術を受けて一時は引退を示唆していた元世界1位のアンディ・マレー(36歳・英国)は世界トップ50に返り咲いた。
「マレーがあのレベルでしぶとく戦って、以前と同じように叫びまくっている。その熱を見ていると、モチベーションがもらえる。ラオニッチとは(2023年6月の)復帰時期が同時期だったし、そういのは嬉しい」
世界ランキングのキャリアハイは4位。現在は300位台にまで落ちているが、トップ10返り咲きを目標に掲げる。国内チャレンジャー大会でゲーム体力や試合勘を取り戻し、2024年1月の来季4大会初戦、全豪オープンの出場を目指す。
「全豪オープンには、もちろん出るつもりでいます。今年、数大会に普通に出られれば、また来年に0から始められる。それができないとマイナスからのスタートになる。最初からちゃんとスタートを切れるようにしたい。膝が治れば、やる気も勢いも戻ってくる。ずっと耐えてきているし、それを爆発させられる日がくればいい」
2022年に長く第一線でプレーしたロジャー・フェデラー(42歳・スイス)が引退。4大大会男子シングルスで22回の優勝を誇るラファエル・ナダル(37歳・スペイン)も2024年シーズン限りでコートを去る意向を表明している。世界ランキングのトップ10は1位ノバク・ジョコビッチ(36位・セルビア)を除く9人を20代の選手が占める。
ここ数年で勢力図は大きく変化。錦織はその状況さえも楽しんでいるように映る。成長著しいテイラー・フリッツ(25歳・米国)やキャスパー・ルード(24歳・ノルウェー)の名前を挙げ、少年のように目を輝かせた。
「最近の選手は皆攻撃力がとてつもない。たまに自分に置き換えて、試合をしてみたいなとか、どうやったら勝てるかなというのは考えています」
2019年の右肘手術など過去にも何度も長期離脱を乗り越えてきた。再び錦織が世界トップ選手と対峙する瞬間が待ち遠しい。
錦織圭/Kei Nishikori
1989年12月29日島根県松江市生まれ。5歳からテニスを始め、2003年に米国にテニス留学。2007年10月にプロ転向し、2008年2月にツアー初優勝を果たした。2014年の全米オープンではアジア男子シングルス初の4大大会準優勝。五輪は初出場の2012年ロンドンオリンピックで8強入り。2016年リオデジャネイロオリンピックは男子シングルスで日本勢96年ぶりのメダルとなる銅メダルを獲得した。2020年東京五輪は8強。世界ランキング自己最高位は4位。身長1m78cm。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。