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2023.11.02

戦力外通告のベテラン捕手・炭谷銀仁朗、衝撃的な高校時代とは

年齢的には大ベテランの領域に入っているが、2023年も65試合に出場しており、その力はまだまだ健在。しかし、楽天から戦力外通告を受け、実績を残しながらも岐路に立たされている炭谷銀仁朗がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

2017年WBC1次ラウンドにて。

来季も他の球団での活躍を期待したい!

2023年のプロ野球も日本シリーズを残すのみ。来シーズンに向けての話題が多くなる時期となった。

ドラフト会議やフリー・エージェント(FA)など新加入の選手に注目が集まる一方で、気になるのは自由契約、いわゆる“戦力外”を通告された選手たちである。

すでに100人以上の名前が発表されており、なかには育成選手として再契約する見込みの選手も含まれているものの、その多くが次の就職先を探すことになる。

そのなかにも実績のある選手も多いが、特にその動向に注目が集まっている1人が楽天を自由契約となった炭谷銀仁朗だ。

西武では早くから正捕手となり、リーグを代表するキャッチャーへと成長。2013年と2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、2015年のプレミア12では侍ジャパンのメンバーにも選出されている。残してきた実績という意味では、現役でも屈指の捕手と言える存在だ。

“ナニワの四天王”の影で高3からメキメキと成長

そんな炭谷は2005年の高校生ドラフト1巡目で指名されてプロ入りしているが、下級生の頃はそこまで評判だったわけではない。

この年の高校生のドラフト候補は大阪桐蔭の辻内崇伸(元・巨人)、平田良介(元・中日)、近大付の鶴直人(元・阪神)、履正社の岡田貴弘(現・オリックス、登録名はT-岡田)が“ナニワの四天王”として早くから注目を集める存在だった。

そんななかで炭谷の名前が関係者の間から頻繁に聞かれるようになったのは3年生になってからである。

それには理由があり、下級生の頃も基本的な能力は高かったものの、キャッチャーとしての守備に不安があり、サードを守ることが多かったというのだ。最終学年になってようやく本職の捕手に復帰し、メキメキと力をつけてスカウト陣からも注目の存在となった。

レベル違いの高校ナンバーワン捕手

そのプレーをようやく見ることができたのは平安高校3年夏の京都大会、2005年7月17日に行われた対花園高校戦である。

会場となった福知山球場は京都市街地からもかなりの距離があり、前日に福知山に入ったことを今でも覚えている。そしてそこで見せた炭谷のプレーは衝撃的なものだった。

4番、キャッチャーとして出場すると、打撃こそ相手の厳しいマークもあって2打数1安打、2四球とそこまで目立つ成績ではなかったが、圧巻だったのはその体格とスローイングである。試合前のシートノックからその存在感は圧倒的なものがあり、高校生のなかに一人だけ大人が混ざっているように見えた。

平安(現・龍谷大平安)のシートノックは強豪校のなかでもよく鍛えられていることで有名だが、そのなかでも炭谷の動きと投げるボールの速さは一人だけレベルが違っていたのだ。当時のノートにも13行にわたって以下のようなメモが残っている。

「ユニフォームの上からでも筋肉がしっかりついていることがよく分かる。上半身、下半身ともによく鍛えられており、ユニフォーム姿が美しい。走る姿、投げる姿、捕手としての構え、すべてが絵になる。

(中略)肩の強さは間違いなくプロでも上位のレベル。キャッチボールの時からボールの軌道と勢いが違う。捕手としてのスローイングもきちんと左肩を投げる方向に向けてから素早い動作で投げることができており、ボールの軌道も安定している。フォームが良いのでコントロールも良い。

(中略)打つほうはバットを少し揺らして構え、左足を高く上げるスタイル。粗さが残り、変化球を追いかけるのも気になるが、リストワークの良さは十分で、ヘッドスピード、打球の速さも申し分ない。スムーズに引っ張る形ができている。高校生の捕手としては攻守ともになかなかいないレベル」

ちなみにイニング間のセカンド送球は2.00秒を切れば強肩と言われているが、当時の炭谷は1.78秒をマークしている。長くアマチュア野球を見ているが、高校生で1.7秒台をマークしたのは炭谷以外では松尾汐恩(大阪桐蔭→DeNA)と、2023年のドラフトでオリックスから4位指名を受けた堀柊那(報徳学園)の二人しかいない。

打撃など総合力を考えると、高校3年生時点で筆者が見たナンバーワン捕手は炭谷だったと言い切れるだろう。

2024年で37歳と年齢的には完全に大ベテランの領域に入っているが、2023年も65試合に出場しており、その力はまだまだ健在であるところを見せている。

高校時代から見せていた捕手としての基本的な能力の高さはもちろんだが、培ってきた経験も大きな武器であることは間違いない。来季も他の球団で、投手陣を牽引する姿を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=YUTAKA/アフロスポーツ

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