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2023.09.08

ディズニー、スターウォーズと比較されるジブリが“夢の工房”であり続ける理由

ジブリの頭脳・鈴木敏夫プロデューサーへのインタビューを交えながら、その圧倒的なまでのブランドパワーと、その類い稀なる創造性の核心に迫った伝説の企画を振り返る。第2回。#1 ※GOETHE2006年10月号掲載記事を再編。掲載されている情報などは雑誌発売当時の内容。【特集 レジェンドたちの仕事術】

『ゲド戦記』(2006年)

ウォルト・ディズニー・カンパニーとルーカス・フィルム

作品が良くなければ、どんなに言葉で飾っても観る者の胸には響かない――。ジブリが“夢の工房”であり続けるのは、アニメーションに対する尊敬と誇りがそこにあるからだ。

2005年の5月、ジブリは徳間書店から独立し、鈴木敏夫を代表取締役社長とする現在の「株式会社スタジオジブリ」となる。

その独立後のジブリが初めて世に出すのが、『ゲド戦記』なのは言をまたない。宮崎駿の子息•宮崎吾朗が初監督をする本作は、ジブリの方向性を占ううえで重要視された。

アニメーションスタジオがこれほどまでの大きなステイタスを得た点において、スタジオジブリはよく『リトル・マーメイド』『アラジン』のウォルト・ディズニー・カンパニーと比較されることが多い。

両者とも映画を母体にし、その規模は別にしてもジブリ美術館とディズニーランドはテーマパークという部分で共通視され、キャラクター商売という側面でトトロは、ミッキーマウスに比肩されるかもしれない。

しかしディズニーは本来主軸だったアニメーション映画の制作が先細りとなり、現在はテーマパークとメディア・ネットワークという部分で企業維持を図っている点でジブリとはニュアンスが微妙に異なってきている。

むしろ近い運営スタイルにあるのはルーカス・フィルムだろう。

マーチャン・ダイジングやキャラクター商品による収益も大きく得ている同社だが、基本的には『スター・ウォーズ』などジョージ・ルーカス監督の映画を制作することを主としている。ジブリが宮崎駿監督作品を中心に作り上げてきたように、そのサポート体制も極めて近い。

面白い作品を世に送り出してこそ

鈴木敏夫は2006年の6月に筆者が敢行したインタビューのなかで、「ジブリのブランドカが、原作者のル=グウィンに『ゲド戦記』の映画化をイエスと言わせたのでは?」という問いに対し、「ジブリのブランドなんてものが、はたして利点になるんでしょうか? そうやって企業名を後ろ盾にすることを好む監督はいないし、純粋に作品を観てもらいたい時に、ジブリの名はむしろ邪魔ですよ」と答えている。

こうした鈴木の言葉には「面白い作品を世に送り出してこそ」という“作品至上主義”の考えが大きくみて取れる。

その意志の現れとして、ジブリは常に「アニメーション映画の質的向上」を自作に課してきた。それは宮崎駿や高畑勲という作家の送り出す作品のクオリティが証明しているし、作品の質の低下を招くような製作体制と商売戦略はしないという企業理念からも顕著だ。

実際、ジブリは劣悪だったアニメーション制作の環境を改善と若手の育成のために、これまで作品を作るごとに結成し、完成と同時に解散する離散型の会社形態を改め、固定給を導入した社員制企業にしている。

社の存続だけで一ヶ月間で低単位の人件費や諸コストがかさむ、企業としてはリスクの大きい改組だが、これによって“ジブリ・クオリティ”とでも言うべき質の安定が保たれていると言っていい。

作品を手がけるスタッフもベテランから若手まで実カ・経験にムラがなく、常に安定した生産体制が用意されているし、セルによる描画・彩色からフルデジタルヘの移行など、会社がワーク環境を常に不足なくサポートしている。精度の高い映画を生み出すには、惜しみない制作環境を提供しているのだ。

『ホーホケキョ となりの山田くん』
興行は振るわなかったが手書き風をデジタルで表現するというまったく新しい技術を実験的に取り入れた高畑勲監督作品。この流れは『ギブリーズ』へと続いて行く。

スターウォーズとジブリが抱える問題

前述したルーカス・フィルムも、優れた音響と編集をサポートするスカイウォーカーズ・ランチの存在など類似点は多い。

しかし、同時に抱えている問題点も近似していると言わざるをえない。

1977年より6本のシリーズを重ねてきた『スター・ウォーズ』が一応の完結をみた現在、さらなる続編の立てにくい状況であり、今やルーカス自身もすでに63歳という年齢に達している。

代わりにスピンオフのような企画だけが乱立し、それは自社の救命策としか思えないようなものばかりで、あまりファンに歓迎されてはいない。

スタジオジブリも宮崎駿の高齢化によって、短いスパンで彼の監督作を世に送り出すのが難しいのが現状だ。

後継者育成や世代交代など、作品を作り続けていく体制にいろいろな課題が生じていることも然りである。時代に迎合しない姿勢が、今後ユーザーのニーズを掴み損ねることだって懸念されるだろう。

ただし、代表取締役の鈴木の言葉にもあるように、スタジオの存続ありきという考え方をとらないところが、他の企業とは異なっているところだ。

ジブリの場合、映画が作れなくなったら、その存続になんの未練も感じず、潔く解散への道を選ぶことだろう。

つまり、ジブリという株式会社は他の企業のように株主の利益を最優先しているわけではないので、経営者がその存続に疑問を抱いた時点で解散もありうるということなのだ。

これほど、名前が浸透している会社であっても、その実は中小企業だといわれる所以である。

だが、先述した「まずは面白い作品ありき」という姿勢が強く社に根を張り、何物にも折れることさえなければ、業界に吹く熱風(ジブリ)は、その勢いと熱を今後も保ち続けるに違いない。

TEXT=尾崎一男

PHOTOGRAPH=西川節子

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