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2023.09.06

野村克也「即効性はないけれど、努力は決して人を裏切らない」

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後3年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」12回目。

野村克也連載12回「」

見ている人は見ている

2023年8月16日、優勝マジックが点灯。今季、岡田彰布監督率いる阪神が歴史的快進撃を見せている。

これまで阪神のリーグ優勝は1985年(吉田義男監督)、その次が2003年(星野仙一監督)。前回の優勝が2005年(岡田彰布監督)、今季優勝を飾れば2023年。ファンの間では阪神の優勝は18年周期とも言われている。

野村克也が監督を務めていた1999年から2001年まで3年連続最下位と阪神を再建できなかった。

それでも2006年のセ・パ交流戦で楽天監督として甲子園球場を訪れたとき、万雷の拍手が巻き起こったのだから、それなりに野村の功績はファンに認められていたのだろう。

さて、岡田が二度目の阪神監督に就任した今季、落合博満は注目する球団として真っ先に「岡田・阪神」を挙げた。

かつて、2004年「落合・中日」、2005年「岡田・阪神」、2006年「落合・中日」と隔年で覇権を分け合い、セ・リーグ「竜虎の時代」とも言われた。落合は岡田の監督としての手腕を認めていたのである。

岡田は就任早々、遊撃・中野拓夢を二塁にコンバートし、佐藤輝明を三塁に、大山悠輔を一塁に固定した。懸案の守備力向上を図った。ネット裏から、阪神戦力をよく見ていたのである。

もうひとつ、岡田は潜在能力を顕在化させた。過去未勝利だった村上頌樹だ。プロ3年目にして右のエース格の働きをしている。

「一歩ずつ」前進した大竹。優勝マジック点灯の原動力に

岡田が潜在能力を顕在化させた投手は、もう一人いる。ソフトバンクで埋もれていた大竹耕太郎だ。「現役ドラフト」で獲得するや、左のエース格に仕立て上げた。

大竹は、高校2年夏の甲子園では藤浪晋太郎(阪神→現・オリオールズ)を擁する大阪桐蔭高校に、高校3年春の甲子園では安楽智大(楽天)を擁する愛媛・済美高校に敗れた。早稲田大学では1年秋から4勝を挙げたが、3年と4年は故障に悩まされる。

熊本・済々黌(せいせいこう)高校、早稲田大学という文武両道の学校からプロ入りを果たした大竹。

名門校から育成選手(大竹は2017年育成ドラフト4位)で入団することは稀だが、九州出身の大竹にとって、ソフトバンクには和田毅という憧れの存在があった。大竹は2022年まで5年間で10勝9敗。

層の厚いソフトバンク投手陣ではなかなか出番がなかった。登場曲「一歩ずつ」(MintZ)が大竹の心境を表していたかもしれない。

それが今季阪神に移籍するや、通算9勝1敗(2023年8月27日現在)と、8つの貯金をチームにもたらしている。

2022年までパ・リーグ相手に7勝9敗、セ・リーグ相手には3勝0敗。

力勝負のパ・リーグより、技勝負のセ・リーグ向きの投手だった。ちなみに大竹の大学卒業論文のテーマは「緩急を使った投球は打ちにくいのか」だった。

藤本監督も栗山監督も実力を認めていた牧原

ソフトバンクの育成選手からの台頭といえば、牧原大成が思い浮かぶだろう。

2010年の育成ドラフト5位で熊本・城北高校から入団。同じ年の育成4位が千賀滉大(愛知・蒲郡高校。現・メッツ)、6位が甲斐拓也(熊本・楊志館高)だった。

牧原は内外野どこでも守れるユーティリティー・プレーヤーぶりを発揮し、2018年から1軍出場が増加する。

2022年は規定打席到達にわずか2足りない441打席で打率.301。規定打席到達の打率3割超えは首位打者の松本剛(日本ハム)と吉田正尚(オリックス。現・レッドソックス)の2人しかいなかった。

抜群の守備でも、どこでも守れるユーティリティーぶりが裏目に出てゴールデングラブ賞を獲れなかった。すんでのところで陽の目を見なかった。

しかし、藤本博史監督(ソフトバンク)から「ジョーカー(切り札)」と呼ばれる万能ぶりは、WBC栗山英樹監督の目にも留まり、鈴木誠也(カブス)の故障代替選手として、緊急招集された。

見ている人は見ているのである。

いつになるかわからないけど、いつかきっとラクをさせるから

野村克也も日々努力を惜しまなかった。

入団時、南海ホークス(現・ソフトバンク)の合宿所。高卒2年目のシーズン終了時、言い渡された戦力外通告に対し必死の粘りで猶予をもらった。

私服もないから外にも遊びに行けず、夜は庭でバットを振った。手は豆だらけだ。血が出てきた。涙も出てきた。でも、もう貧乏はしたくなかった。女手一つで育ててくれた愛する母親に、少しでも仕送りを増やしたかった。

「いつになるかわからないけど、いつかきっとラクをさせてあげるから」

プロ3年目、1軍で7本塁打を放ち、レギュラーへの足がかりをつかんだ。

「努力に即効性はないけれど、決して人を裏切らないんだなあ」

のちの野村の大活躍は、今さら説明の必要もない。

45歳で現役を引退。引退後はジャーナリストの草柳大蔵に師事した。「本を読みなさい。言葉は大事です」と言われ、評論家時代の9年間はとにかく片っ端から読書に勤しんだ。

「これが何につながるのだろう?」と、ときには無為に感じられることもあったが、草柳の言葉に救われたそうだ。

「見ている人は見ているものですよ」

1989年、野村はヤクルト・相馬和夫球団社長(当時)に監督就任の打診を受けた。

「野村さんの野球解説の言葉を見聞して、心酔しました。ウチのチームに野球の真髄を叩き込んでください」

まとめ
努力に即効性はないけれど、努力は必ず報われる。努力した人間を裏切らない。見ていてくれる人は必ずいるものであり、努力は形となって結実する。

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。

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連載
【野村克也】ノムラの言霊

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也。今こそ、改めてその言葉を振り返り、一考のきっかけとしてほしい

TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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