PERSON

2023.08.06

【サッカー日本代表・古橋亨梧③】――「謙虚」な「頑固者」と日本代表

2022-23シーズン、所属するセルティックを国内3冠に導き、リーグ得点王&MVPに輝いた、サッカー日本代表・古橋亨梧に独占インタビューを敢行。彼の強さの秘密「二面性」をテーマに全4回で配信する。第3回。#1#2

写真:アフロ

「お前は大丈夫だ」W杯落選後に助けられたチームメイトの言葉

「(前シーズンの結果が)軽い、と思われたらいやなんで、シーズンが始まる前から個人タイトルを全部取らせてもらおう、と思っていました」

チームの三冠に大きく貢献し、得点王そしてシーズンMVPを獲得したセルティックの古橋亨梧は、2022-23シーズン前に、その躍進を胸に誓っていたことを明かした。

それは現実のものとなり、大きな注目を浴びることになる。

類を見ない「謙虚」さを持ったFWは、それまでのストライカー像を覆している。日本人初の欧州主要リーグでの得点王は、日本サッカー史に名を刻んだ。

それでもまだ、古橋のすごさは過小評価されているだろう。その実力を証明するためには、日本代表の存在が欠かせない。

ただ、その日本代表においては「思い通り」に行かなかった。

カタールワールドカップでの落選はその象徴だった。果たして古橋はこの時間とどう向き合ったのか。

メンバー発表が行われたのが2022年11月1日。古橋は、自宅で落選を見届け、そのままチャンピオンズリーグの試合へと向かった。

対するのは世界屈指の強豪、レアル・マドリード。アウェイの地へ移動するバスのなかで、チームメイトが口々に声を掛けてきた。

「お前は大丈夫だ」

「俺たちのストライカーはKYOGOだ」

「点を決め続ければいいんだ」

「(元イングランド代表の)ジョー・ハートをはじめ、ほんとにほぼ全員がそう言ってきてくれたと思うんですけど……立ち直るのに少し時間はかかりましたけど、すごくたくさんのチームメイトに信頼してもらえていたことを感じられました。

幸せだな、と。

だからこそ、必ず自分の目標は達成しようと強く思えて、僕自身、一皮むけることができたと思います」

スコットランドリーグのレベルが「代表選外」となったのか?

その後、カタールワールドカップが終わり「新・日本代表」となっても、その初陣に古橋の名はなかった。

古橋自身は、リーグでゴールを量産し続けていた。そのインパクトに加え、森保一監督が発した「リーグのレベル」という言葉だけが“切り取られ”、「古橋はスコットランドリーグにいるから選ばれない」というような憶測も広まった。

「僕自身は特に気にしないようにしていました。僕はすごくいいリーグだと思っていますし、自分自身もすごく警戒されているな、と感じていた。マークも厳しい。そのなかで、いかに相手を騙せるか、と考えながらゴールを決めるためにプレーし続けていたので(リーグのレベルとかは関係ない)」

リーグのレベルが「選外」となった理由では?という疑問にそう答えた古橋は、その後「でも」と続けた。

「逆にいえば、僕のことをそれだけ見てくれている、セルティックを見てくれているからそういう議論が生まれるわけで。

僕はそれをポジティブに捉えようと思っています」

望んだ結果がもたらされなかったとき、それを決して他人のせいにしない。謙虚な男は、そこだけは譲らない。

「代表落選に憤るチームメイトはいなかったですか?」。無粋な質問に、「それはチームメイトに聞いてください」と一言で返す。

他にも、幾度となく話題となってきた「なぜ日本代表でセルティックと同じように点が取れないのか?」という問いにも、「決めきる力がないのは僕自身です。僕の実力です」と断言した。

スコットランドリーグで得点を量産している一方で代表でのゴール数は4。2023年6月のエルサルバドル戦での4点目は実に2年ぶりだった。日本代表は一緒に練習する時間が短い。加えて、所属クラブとサッカースタイルが違うと、如実にそのあおりを受けるのがフォワードの宿命でもある。

「いや、それはまったく関係ないです。(代表でも)本当にいいパスをくれているので、それを決めきれてないだけです」

再び頑固な一面を覗かせた古橋の、自分自身にフォーカスするときの姿は、まさにフォワードそのものである。

古橋亨梧/Kyogo Furuhashi
1995年奈良県出身。2017年にJ2・FC岐阜へ加入。翌年、J1ヴィッセル神戸に移籍。2019年11月19日ベネズエラ戦でA代表デビュー。2021年より、スコティッシュ・プレミアシップ・セルティックFC所属。

ネガティブ思考をポジティブ思考に変換する方法

――自分にプレッシャーをかけているようにも見えます。そういうプレッシャーに向き合い、もし失敗したときにはどうやって再び前向きな気持ちでピッチに立つのですか?

「先ほども言いましたけど、チャレンジしないで失敗するより、チャレンジして失敗したほうがいいと思っています。人として成長できると思うので」

――なるほど。では、例えばビジネスパーソンなど、同じ境遇にある人にはどう声を掛けますか?

「自分を追い込みすぎないで、何度も挑戦してほしいなと思います」

「追い込みすぎないで」と言うあたりに古橋の性格がにじむ。

――古橋さんは弱音を吐くようなことはありますか?

「ネガティブになることはあります。完璧な人間なんていないと思っているので、弱音を吐くことは大事だと思っています。弱音を吐く場所って必要だと思います」

――そういうときはどうやって折り合いをつけますか。

「その日のうちにネガティブをポジティブに変えるようにしています。今はノートを毎日書いているので、本当はネガティブな感情が湧いているんだけど、それをポジティブな言葉に変えて書いてみる。

ちょっと無理やりなときもありますけど、考えが整理されて前向きになれることが多いですね」

昨年から始めた、というこのノートはすでに1年近く続いている。ワールドカップ落選が決まった日、古橋はこう書いた。

【この経験は絶対に強くなれる。たくさんの人が応援してくれて支えてくれている。だからこそ前を向き続けて、成長して、チームが勝つゴールを決める。苦しい時に流れを変えられる人に、自分のゴールでチームやファンサポーターのみんなを元気にさせられるようになる。アクシデントがあって、いつでも呼んでもらえてもいいようにイメージをもって、調子を上げて、ゴールを決め続ける。明日はレアル戦……(以下略)】

最後の言葉は古橋らしい。

【今日もありがとう。感謝。】

「最初は難しかったんですけど、ちょっとずつでも書くようにしています」

こうして続けてきた姿勢は、古橋自身をよりいい環境へと導いている。冒頭に紹介したチームメイトからの信頼、サポートしてくれる人々の言葉。

「練習に行けば信頼できる仲間がいて、彼らと話したり、笑いあったりしているうちに自然とモヤモヤした気持ちが整理されていることも多いですね」

古橋がその実力を認めさせるために必要なピース「日本代表での活躍」の可能性を聞くと、力強く答えた。

「今回(6月)の代表召集時にはいろいろとコミュニケーションは取れました。それはすごくよかった。いい選手が揃っている中で、勝たなきゃいけない、国を背負うプレッシャーとも戦う。そこは自信を持って、でも調子に乗ることなくやっていけたらいいな、と思います」

(※4回目に続く)

#4】(8月7日10時公開)

TEXT=ゲーテ編集部

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