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2023.04.21

元阪神監督・矢野燿大への疑問④「なんでポジションを固定しなかったんですか?」

なぜシーズン前に退任を発表したのか、選手選考に私情は挟んだのか、サイン盗みはあったのか……。元阪神タイガース監督・矢野燿大に、スポーツライター・金子達仁が独占インタビュー。今だからこそ話せる、その真意を探る。短期連載第5回。

ポジションを固定しないメリットとは

サードを守っていた大山悠輔がファーストに回り、ライトの佐藤輝明がサードに入る。矢野体制の阪神ではよく見られた光景であり、こうした選手起用もまた、批判の的となった。一向に減らないエラーの数は、選手を一つのポジションに専念させないからだ、という見方もあった。

だが、矢野の答えは明解だった。

「それって、昔の先入観やと思うんです。昔の正解、日本一強いチームはこうなんや、固定されてるもんなんやっていう正解は、これから崩れていくはずなんです。以前、先発ピッチャーは9回投げ切ってなんぼ、みたいなところあったやないですか。いや、投げられるピッチャーがいるんなら投げさしたらいい。でも、投げ切ることを前提に戦い方を考えるのって、もはや主流ではなくなってますよね。ぼくは、固定するやり方もありやなとは思いますけど、固定はええ、動かすのはあかんとは思いません」

固定するメリットが、選手がそのポジションに集中できるということにあるとするならば、では、複数のポジションを守らせるメリットはどこにあるのか。

「このポジションは誰それで決まりってことになったら、同じポジションの選手って、モチベーションが下がっちゃうと思うんです。いや、それでもモチベーションをあげるのがプロやって考え方もあるでしょうけど、ぼくは、チーム全体が1パーセントずつでもいいからレベル、実力をあげていけるやり方にしたかった。ポジションを固定しないことで、追う立場の選手は「よし、俺にもチャンスがある」って思うでしょうし、追われる側の選手も「なんでやねん」って反骨心がググッと盛り上がってくるかもしれない。その方がチームを活性化できるんじゃないか。ぼくはそう思ってました」

監督が固定したのか、固定できるメンバーがいたのか

ただ、自分のやり方を批判する人たちの気持ちもよくわかったと矢野はいう。

「だって、固定されてきましたから、いままでは。勝ってきたチーム、強いチームっていうのは、メンバー、固定できてるんですよ。ただ、それは監督が固定したという面より、固定できるメンバーがいたってことやと思うんです」

矢野からすれば確固たる狙いがあった梅野と坂本、キャッチャーの併用については、とりわけ強い反発があった。

「ソフトバンクの甲斐は固定されてるかもしれない。でも、ヤクルトの中村だってみなさんが思ってるほど試合にでてないし、オリックスだって変わりますよね。いい悪いは別にして、かつての常識が確実に変わりつつあるっていうのは事実やと思います」

奇しくも、矢野のあとを引き継いだ岡田監督は、就任早々、基本的にはポジションを固定すること、キャッチャーは梅野で一本化することを明言している。

矢野の目指した方向性は正しかったのか。それとも、阪神という球団には適さないやり方だったのか。答は、いずれ明らかになる。

6回目に続く

矢野燿大インタビュー記事はコチラ

右:矢野燿大/Akihiro Yano
1968年大阪府生まれ。元プロ野球選手。捕手。1990年度ドラフト2位で中日ドラゴンズ入団。1998年に阪神タイガースへ移籍。2003年、2005年には、一軍の正捕手としてリーグ優勝に貢献。2008年、北京オリンピックの日本代表メンバーに。2010年引退。2013年〜2015年、侍ジャパンバッテリーコーチ。2018年10月、阪神タイガース一軍監督に就任。2022年監督を退任し、現在は野球解説者/評論家。
左:金子達仁/Tatsuhito Kaneko
1966年神奈川県生まれ。スポーツライター。ノンフィクション作家。1997年、「Number」掲載の「叫び」「断層」でミズノ・スポーツライター賞を受賞。著書『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『決戦前夜』(新潮文庫)、『惨敗―二〇〇二年への序曲―』(幻冬舎文庫)、『泣き虫』(幻冬舎)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)、『プライド』(幻冬舎)他。

TEXT=金子達仁

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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