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2022.06.19

【建築家・手塚貴晴&由比】スイッチが入るまで勉強は放っておけばいい

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」。建築家・手塚貴晴さん、由比さん夫妻は、その子育て方針からは意外にも思えるが、ふたりの子供は“お受験”を経験している。果たして、どんな狙いでお受験に挑んだのか? Vol.1Vol.2/Vol.3/Vol.4 【過去の連載記事】

手塚ファミリー

子供の個性を伸ばしてくれた小学校受験

幼い頃から自然に触れさせ、貴晴さんいわく「猿のように育った」手塚家の子供たち。娘は、お嬢様学校として知られる女子校に、息子は、"日本一難関"と称される名門校に、いずれも小学校受験をして入学。手塚家と"お受験"、少々違和感があるような……。

「娘は、人と争うのが苦手で、友達に腕を噛まれても『やめて』と言えない性格。だから、周囲が温かく見守ってくれるような学校でないと辛いだろうと、そこを受験させたんです。家のすぐそばで、評判がとてもよかったのでね。娘を私立小学校に入れたのだから、息子の方は、姉と平等にと思って受験させました」(貴晴さん)

とはいえ、ふたりのお受験は正反対。引っ込み思案の娘は、受験のための幼児教室でも、机の下に隠れて出てこなかったとか。由比さんは心配したというが、貴晴さんは、親子面談で盛り上がったことから、合格を確信したという。

「当時は、試験の一環として、お弁当を食べる時間があったんですよ。僕が、海苔を象の形に切ってご飯の上にのせたお弁当が、その場にいた子供たちに話題になり、親子面談でも話題にのぼったんです。『お弁当は、お父様がつくったそうですね』、『そうです』、『それは素敵ですね』と、盛り上がってね。子供たちが小さい頃は、お弁当をつくるのは僕の役目だったんですよ」

木登り

高い木でもスルスルと登ることができるという子供たち。「猿のように育った」という言葉にも納得。

一方、息子は「受験向き」(由比さん)だったそうだ。幼児教室での自己紹介で、差し出されたおもちゃのマイクをトントンと指で叩き、「なんだ、入ってないじゃないか」と発言するなど、強心臓。4歳の時、貴晴さんに「どうしてママと●●ちゃん(娘)はケンカするんだろうね」と聞かれ、「女ってそういうものだよ」と答えたエピソードからもわかる通り、観察力と思考力、語彙力に富んだ、大人びた少年だったという。

「息子は、本当におもしろいことを言うヤツなんですよ。僕のスマホには、彼が小さい頃からの"迷言集"が入っているんだけど、今見返しても、笑っちゃうし、唸らされる(笑)」(貴晴さん)

与えられたものは失くすけれど、拾ったものは大事にする

両極端な"お受験"だったが、「この選択は、大正解だった」と、口をそろえる手塚夫妻。

「勉強が嫌いで、宿題をまったくしない娘を、先生方は温かく見守ってくれました。真綿でくるんで、やさしく、やさしく育ててくれたというか。めんどうみがよい学校で、娘の個性を認め、伸ばしてもらったと、心から感謝しています」(貴晴さん)

「息子が受験したのは、勉強より運動を重視する学校。身体を動かすことが大好きで、スポーツが得意な彼に合っていると思いましたが、その通りでした。今、高校2年生ですが、伸び伸びと、楽しく過ごしているみたいです。もう少し勉強も頑張ってくれたらいいな、とは思いますけどね。『やらなくてもできる!』と言って、あまりやらないから。その努力しない姿勢が、私は気に入らないんですけど(笑)」(由比さん)

「息子への期待値が高すぎるんですよ、『やらなくてもできるなら、やって1番をとってほしい』って(笑)。僕は、学校の勉強ができようができなかろうが気にならない。自分も、大学入学までずっと推薦だったから、受験勉強とは無縁で、留学前に初めてちゃんと勉強したくらいだもの。でも、あの3カ月間は、それまでの(学校で英語を習った)10年間より、はるかに価値がありましたよ。そんな風に、スイッチが入ったらやるんだから、それまで放っておけばいいんです。それは勉強に限らず、何に対してもそう。『ふじようちえん』の園長先生が、『子供は与えられたものはすぐに失くすけれど、拾ったものは大事にする』と言っていたけれど、本当にそう。親に言われてではなく、子供自身が望んでやるのでなければ、意味がないと思いますよ」(貴晴さん)

Vol.1「エサをくれる人に懐くのは動物の根本」
Vol.2「社会は凸凹した人間が集まって成立する」
Vol.3「スイッチが入るまで勉強は放っておけばいい」
Vol.4「自分のために生きるヤツは必要なくなる」

Takaharu Tezuka/Yui Tezuka
貴晴:1964年東京都生まれ。武蔵工業大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院を修了し、リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務。
由比:1969年神奈川県生まれ。武蔵工業大学卒業後、ロンドン大学バートレット校に留学。
ともに’94年に帰国し、手塚建築企画を共同設立(後に手塚建築研究所に改称)。個人宅から教育施設まで幅広い建築設計を手がけ、UNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受賞。国内でも、日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞など多数受賞している。

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【連載 イノベーターの子育て論】

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イノベーターの子育て論

ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

TEXT=村上早苗

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