日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」。子供のための空間設計を多く手がけている建築家・手塚貴晴&由比夫妻に、3回にわたって大胆な子育て方針を語ってもらった。最後は、これからの時代に必要とされる人材についての考えを聞く。Vol.1/Vol.2/Vol.3/Vol.4 【過去の連載記事】
生きるのに必要なのは、気配りと段取り
自由を重んじる手塚夫妻だが、小学校受験を決めた理由が、実はもうひとつあった。その後の学生生活を、受験勉強にとらわれることなく、好きなことに打ち込んでほしかったからだ。
「人生には、勉強より大切なものがたくさんある。僕は、そう思っています。娘は中学・高校、息子は大学まで受験と無縁だから、好きなことを思い切りしていますよ。それに、夏期講習やら冬期講習がなかったから、家族で旅行もたくさん行けましたしね」
そういう貴晴さんに、「勉強より大切なものは何か」とたずねると、「気配りと段取り、そして、人のために生きること。それがあれば、勉強なんてできなくても、社会で生きていけます」という答えが返ってきた。
由比さんも、「人とちゃんと関わることができれば、大丈夫じゃないかな。自分でできないことがあるなら、他の人に力を貸してもらえばいいし、他の人が困っていたら、自分が助けてあげる。子供たちには、それができる人間になってほしいと言っています」と、言葉を続ける。
「本当にそうだよね。人間は、人のために生きているんだもの。自分が何をしたいかではなく、世の中のために何をすれば貢献できるかを考えてほしい。これからは、自分のために生きているヤツは、いらなくなっちゃいますよ。娘も息子も、世界各地に連れて行きました。だから、世界にはいろんな人がいて、社会はいろんな人で成り立っていることを、肌で感じていると思う。現地の人も怖がるスラム街に連れて行って、自分と同じくらいの年の子が働いている姿も見ていますし、僕らが、そういう子供たちのための施設をつくろうと、頑張っていることも知っています。息子が、ボランティア活動をしているのは、その影響もあるのかもしれない。子供に、実際に見せるというのは、すごく大切。同じ水でも、洗面器に入った水を見せるのと、海に連れて行くのでは、感じ方が全く違うのだから」(貴晴さん)
太く、たくましい芯を持った人間を育むのは、親の"ぶれない人生哲学"なのかもしれない。
Vol.1「エサをくれる人に懐くのは動物の根本」
Vol.2「社会は凸凹した人間が集まって成立する」
Vol.3「スイッチが入るまで勉強は放っておけばいい」
Vol.4「自分のために生きるヤツは必要なくなる」
Takaharu Tezuka/Yui Tezuka
貴晴:1964年東京都生まれ。武蔵工業大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院を修了し、リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務。
由比:1969年神奈川県生まれ。武蔵工業大学卒業後、ロンドン大学バートレット校に留学。
ともに’94年に帰国し、手塚建築企画を共同設立(後に手塚建築研究所に改称)。個人宅から教育施設まで幅広い建築設計を手がけ、UNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受賞。国内でも、日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞など多数受賞している。
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【連載 イノベーターの子育て論】