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2022.06.19

【建築家・手塚貴晴&由比】エサをくれる人に懐くのは動物の根本

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」。今回は、OECD(経済開発協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた「ふじようちえん」をはじめ、子供のための空間設計を多く手がけている建築家・手塚貴晴さん、手塚由比さんにインタビュー。「参考にならないと思いますよ」と笑いながら語ってくれた、手塚夫妻の独創的かつ大胆な子育てとは!? Vol.1/Vol.2Vol.3Vol.4 【過去の連載記事】

手塚夫妻

胃袋を掴めば反抗期はない!?

屋根がそのまま遊び場になり、その上を子供たちがぐるぐると走り回るドーナツ型の幼稚園「ふじようちえん」に、中央に"大きなお皿"を据えた屋内遊び場「PLAY! PARK」など、建築家・手塚夫妻が手がける施設は、子供たちが、自由に、伸び伸びと遊べる工夫に満ちている。それは、そのまま子育ての方針でもあるようだ。

「『PLAY!』は、子供博物館にという話もあったけれど、僕は、ああいうのは大嫌い。子供が何かやっているのを、親は、ガラス越しに見るだけか、その間、買い物に出かけるなんて、託児所みたいだもの。せっかく家族で訪れるなら、親子で楽しめる施設にしたかった。親子で楽しめる場所といえば、動物園。ならば、子供を大きなお皿の中で遊ばせて、親はその様子を、お皿の周りで眺められるようにしたらどうかと思ったんですよ。僕は、子供といっしょに過ごすのが大好き! 本当にかわいいし、面白いからね。子育ては、自分が好きでやっている趣味のひとつですよ。子供が巣立ってしまったら、どう過ごしたらいいんだろうと、心配しているくらい(笑)」(貴晴さん)

手塚家のふたりの子供は、大学生と高校生と青春まっさかりだが、反抗期をどう乗り越えたのかと聞けば、「なかったよね」と顔を見合わせるおふたり。由比さんに、その秘訣として子育てで最も大切にしてきたことをたずねると、「おいしいごはんをつくって、ちゃんと食べさせること」という答えが返ってきた。そのココロは、食べることは人間の基本であり、子供の成長に食は欠かせないものだから。

「乱暴な言い方だけど、エサを与えてくれる人には懐く。これは、人間も含め、動物の根本ですからね。反抗的な犬だって、3日エサをやれば、だんだんなついてくるでしょ。それと同じです。そもそも、『おいしいね』って言いながら、いっしょにごはんを食べると、幸せな気持ちになるじゃないですか」(貴晴さん)

手塚ファミリー

手塚ファミリーの写真。由比さんはもちろん、貴晴さんも料理が得意。胃袋をがっつり掴まれた(!?)ふたりの子供は反抗期がなかったそうで、父と娘にいたっては一度もケンカをしたことがないとか。「息子が中2くらいの時に、『1週間反抗期をしてみたけど、くだらないからやめた』と、突然言われて。不機嫌そうな態度をとっていたらしいんだけど、僕はまったく気づかなかった(笑)」(貴晴さん)

自然に触れさせたのは、「親が行きたかった」から

「子供たちは、小さい頃から自然の中で遊んでいました。近所の公園で木登りしたり、ザリガニを獲りに行ったり、家族で屋久島に出かけ、ウミガメの産卵を手伝ったり。2歳になった息子を背中にのせて、プールを潜ったこともあるんですが、次の日、彼はひとりで泳いでいましたよ。『息継ぎはこうやるんだ』なんて教えなかったのにね。
子供は、大人が思っているより、ずっと丈夫で強い。自然の中に連れ出してやれば、そこでどうすればいいかを、自分で探りながら、習得するんです。もちろん、ケガをすることだってあります。でも、命に関わるようなことでなければOKというのが、我が家の方針。危ないからって、転ぶ前に手を差し伸べたら、子供は転び方がわからなくなってしまいますよ」

潜水

「子育ては趣味」という言葉通り、貴晴さんのスマホには、家族写真や、子供たちの語録が多数保存されている。なかには、息子さんが貴晴さんの背中に乗ってプールに初潜りした時の動画も保存されていた。

そんな貴晴さんの言葉に、「手塚家の教育方針=自然の中でたくましく育てる」かと思いきや、「私たちが行きたいから、連れていっているだけ」と、由比さん。

「教育のためじゃないんですよ。私たち夫婦が、自然が大好きで、自分たちが行きたいから、子供もいっしょに連れて行き、連れて行ったらそうなった……という感じです。それに、同じ場所に連れて行っても、娘と息子では反応がちょっと違います。娘も泳げますが、息子ほど興味はわかなかったみたいで、ちょっと泳いだら、『もういい』って、岩の上で休んでいました。水泳教室も、すぐやめちゃいましたしね(笑)」

親が子供に同調することが求められがちな昨今において、まず何よりも自分達が楽しむことに重きを置く。手塚夫妻の子育てがどこまでもおおらかで自然体なのは、その親としてのスタンスにヒントがあるのかもしれない。

Vol.1「エサをくれる人に懐くのは動物の根本」
Vol.2「社会は凸凹した人間が集まって成立する」
Vol.3「スイッチが入るまで勉強は放っておけばいい」
Vol.4「自分のために生きるヤツは必要なくなる」

Takaharu Tezuka/Yui Tezuka
貴晴:1964年東京都生まれ。武蔵工業大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院を修了し、リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務。
由比:1969年神奈川県生まれ。武蔵工業大学卒業後、ロンドン大学バートレット校に留学。
ともに’94年に帰国し、手塚建築企画を共同設立(後に手塚建築研究所に改称)。個人宅から教育施設まで幅広い建築設計を手がけ、UNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受賞。国内でも、日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞など多数受賞している。

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【連載 イノベーターの子育て論】

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イノベーターの子育て論

ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

TEXT=村上早苗

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