モロッコに惹かれる理由のひとつは、荒々しい自然と、人の手によって整えられた快適さを、ひとつの旅の中で味わえることだ。焼けるように乾いた砂漠と、白銀を冠した4,000メートル級のアトラス山脈。その両極端な環境を、手厚いホスピタリティーに支えられながら体験できる国は、そう多くはない。今回は、ラクダの背に揺られて目指すメルズーガ砂丘でのデザートキャンプと、マラケシュの空を舞う気球の空中散歩をご紹介。

ラクダに乗ってデザートキャンプへ
ラクダの背に揺られ、果てしなく続く黄金の稜線を進む。足下に長い影を落とすラクダの列と、視界の先に連なる波のような砂の起伏――。中世には、莫大な富を運んだキャラバンも、この道を越えていったという。
そんな時代を超えた冒険を楽しませてくれるのが、モロッコ東部、サハラ砂漠の西端に位置するメルズーガ砂丘だ。砂漠のオアシス都市・エラシディアから、砂丘への拠点となるエルフードを経由し、移動手段をラクダに替えて砂の奥へと進む。
やがて辿り着く砂丘の頂が、砂丘トレッキングのクライマックスだ。視界を遮るものはなく、沈みゆく太陽が、見渡す限りの大地を鮮やかに染め上げていく。

空に深い藍色が混ざり始める頃、再びラクダに揺られて、砂漠の静寂に佇むキャンプへ。
プライベートテントは、華美な装飾を抑えながらも、上質なベッドやウェットエリアなど快適な設備が設えられている。ここが過酷な自然環境の只中にあることを一瞬忘れそうになるが、窓の外に目を向ければ、闇に沈む一面の砂丘。夜を照らすのは、人工の灯りではなく、頭上に瞬く星の光だ。
夜は砂漠の静寂に身を委ね、翌朝は熟練のドライバーが操る4WDで砂丘を駆け抜ける。メルズーガ砂丘は、「ダカール・ラリー」をはじめとする数々の伝説的レースが繰り広げられてきた、世界有数のオフロードエリア。砂の尾根を越えるたびに視界が切り替わり、かつてこの地を駆け抜けたドライバーたちの感覚が身体に重なる。
こうしたメルズーガでの体験を支えているのが、この地を知り尽くした現地の手配体制だ。宿はカスバ(城塞)仕立てのホテルから砂漠のキャンプまで様々な選択肢がある。
気球で迎えるマラケシュの夜明け
モロッコの旅は、地上だけで完結しない。次の舞台は、マラケシュの空へと移る。
エラシディアから空路でカサブランカへ渡り、さらに陸路で約3時間。辿り着いたマラケシュは、喧騒と洗練が混ざり合う、この国有数の活気ある都市だ。
ホテルを出発するのは、まだ街が眠っている夜明け前。郊外の荒野へ車を走らせると、巨大な気球がバーナーの炎に照らされ、静かに佇んでいる。各国から集まった旅人たちと、これから空へと昇る高揚感を分かち合うのも、体験の一部だ。
やがて気球は地面を離れ、視界の先にアトラス山脈の稜線が姿を現す。山の向こう側から光が差し込み、峰々が次第に色を帯びる。都市と荒野、そして雪山が近接するこの土地ならではの風景だ。
空中散歩はおよそ1時間。着地後、無事を祝う乾杯に選ばれるのは、甘いミントティーだ。モロッコでは、親しみを込めてこのお茶を「ベルバー・ウィスキー(先住民ベルベル人のウイスキー)」と呼ぶという。
雄大な砂漠と、ゆっくりと表情を変える空。そのどちらにも、自然と向き合う時間の贅沢がある。モロッコは、大人の感性で味わえる場所だ。






