トルコといえば世界有数の観光大国だが、いま、旅人を呼ぶトピックスのひとつが“植毛”となっている。そこで、医療ツーリズムの人気が高まるトルコに向かい、植毛事情を現地クリニックで聞いた。
植毛でトルコが潤っている
近年、日本でトルコでの植毛が認知され始めている。日本語での現地サポートを行う業者も増え、提携する日本国内クリニックも増加。一大ニュースとなったのは、2023年3月に俳優のいしだ壱成さん(49歳)がイスタンブールで植毛したことだ。
いしださんは「薄毛の窓口」代表とともに植毛トリップを体験。その様子はYouTubeで配信され、移植した毛を育んだいしださんの現在の頭髪は健やかそのものだ。植毛後、映画や芝居の出演オファーが増え、仕事もプライベートもV字回復したという。
興味を集めているのは、その圧倒的な安さだ。トルコでの植毛は一般的に日本の半額以下の価格帯。約8500kmを飛ぶフライト代と宿代を含めても、場合によってはトルコが安い。さらにエキゾチックな観光大国の魅力も重なってくる。
もとより植毛目当てでトルコに入る欧米人は多かった。トルコは医療ツーリズムが盛んな国であることが背景にある。トルコ保健省は国の医療ツーリズム支援のために、小会社「USHAŞ」を設立したほどだ。「USHAŞ」のデータによると、2023年1月1日から12月31日の期間、医療ツーリズム目的の入国により、計743万1776ドル(約10億8700万円)もの外貨がトルコにもたらされた。
医療ツーリズムのなかで勢いを増しているのが、植毛、歯科医療、美容医療だ。イスタンブールとアンタルヤで話したトルコ人たちは、植毛を珍しいことでないように話していた。
「オフィスの同じフロアで3人が植毛しています」(航空会社関係者)
「イスタンブール空港には、坊主でヘアバンド姿、つまり植毛を受けて出国する人たちがうろうろしています。入国と出国で別人だとふざけ合う会話もあります」(ガイド)
「リフトアップや鼻などの整形も多いですが、よく見かけるのは植毛。友人の夫も植毛しています。隠しようがないし、みんな隠そうともしません」(ホテルPR)
最も植毛が盛んなのが最大都市のイスタンブールだが、南部リゾート地のアンタルヤもアツいという。なぜなら、ビーチもゴルフ場も遺跡もリゾートホテルもあり、バカンスと植毛の二毛作を楽しむ旅が出来るからだ。そこで、リアルな植毛事情をさらに聞くべく、アンタルヤで一番というクリニックを訪れた。
植毛バカンスが叶うアンタルヤへ
訪れたのは、アンタルヤで22年続くクリニック「AKUMER POLİKLİNİĞİ(アクメール・ポリクリニック)」。アンタルヤでゴルフバカンスのコーディネートを行うガイド、アルプさんお墨付きのクリニックである。ゴルフ目的の富裕層との重複も少なくない。植毛に加えハイフなど美容医療の老舗でもあり、夫婦で訪れる旅行者もいるとか。
クリニックの受付で迎えてくれたのは、目を奪われるほど美しい女性だった。端正な顔だちにツヤツヤの肌。ニコッと笑えば綺麗な歯が見える。植毛への不安が軽減されそうな穏やかな美女だ。
4フロアからなるクリニックはトルコらしくアラベスク模様で飾られていた。興味があると同行した美容好きポーランド人PR女性によると、ここはクラシックな造りだがモダンな内装のクリニックも多いという。院長のシュクリュ・ユルデゥルムさんに、近年の顧客について聞いた。
「この10年で海外からの患者さんがとても増えました。やはりトルコ人が一番多いですが、そのあと人数順にロシア、ウクライナ、イギリス、フランス、ドイツ、中東からで、大半が観光客です。言語は英語、ロシア語、ドイツ語に対応しています。アジアの方もたまにいらっしゃいます」
トルコがここまで国際的に植毛が盛んになった理由は、シンプルかつロジカルだった。
「一番には品質がよいこと。二番目は他の国より安いことです。なぜそうなったかといえば、もともと国内でのニーズが高く、どのクリニックも初期のお客さんはトルコ人でした。国民のDNAか、トルコでは比較的若いうちから薄毛になる男性が多く、ファッション感覚で植毛する傾向があります。
逆にカツラはあまり人気がなく、まったく毛のないスタイルをいくか植えるか。患者さんが多いので技術や機器が発展して、新たな自毛植毛であるサファイア(FUE)という技術が生まれ、広く展開されるようになりました」
サファイア(FEU)とは、自身のドナーエリア(耳の間辺り)から毛包を採取して、移植領域に植えていく手法。トルコのクリニックで主流となっており、1回に3000〜4000株植える人が多いという。
シュクリュ院長のクリニックでは、3000本なら約3000ユーロ(約48万5000円)と、1本約1ユーロの換算だ。欧州と比べても特価である。「普及率も高いですし、植毛だけではなく美容医療全般も他国より安いので、この価格帯となっています」と、シュクリュ院長。また、いまのリラ安も他国より手頃な理由だ。
大切なのは量よりデザイン
シュクリュ院長によると、クリニックに通う最低所要日数は3日。大まかなスケジュールは以下の通りだ。
「施術の前日にカウンセリングや血液検査などを行い、翌日に植えます。施術時間は7〜9時間。植えた翌日も来院していただき、初洗いなどのアフターケアをします。3日目から普通の生活に戻りますが、いくつかの注意事項はあります。できれば施術日を含め4日間は同じ街にいてください。その後、3〜4カ月で移植した毛包が成長し始めます」
最初のカウンセリングでは、どれぐらい欲しいのか、どういったスタイルが可能かを話しあう。なるべく多く植えたいと思う人もいるそうだが、担当医の腕とセンスに委ねるのが賢明だ。
「植毛は多く植える競争ではなく、いかにバランスよくカバーできるか。大切なのは量ではなくデザインです。おでこの始まるラインが自然に見えるか、1本1本が自然な向きで生えているかが重要です。上手に毛包を採取して、移植した毛をきちんと生かし続けることが前提です。
そのためには十分な経験が必要なので、私は老舗をおすすめします。そういった意味でトルコは植毛の老舗クリニックが多いですし、様々な国からの色んな髪質の方の施術経験が豊富なので、そこも強みかもしれませんね」
国土がヨーロッパとアジアにまたがり、中東にも接するトルコ。地政学上重要なこの国は、いつしか“毛”を引き金に旅人を呼ぶ植毛先進国になっていた。街には丸刈りにして施術後につけるヘアバンドをした人がちらほら。植毛はこっそり済ませるイメージがあるが、トルコでは大らかに引け目なく受けることができる。史跡、グルメ、絶景などの観光と合わせれば、楽しい思い出まで作れてしまう。
次回は、植毛と合わせて楽しめるアンタルヤの見どころを紹介。トルコ有数のリゾートは、植えたての旅人にも優しい滞在先だ。
アンタルヤでの植毛の日本語サポート
Infinity Global Tours. infinitytours.com
Oğuzhan ALP oguzhanalp@infinitytours.com (日本語でのメール可)