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2026.05.08

「数字では測れない価値がある。ドジャース契約が示した“見えない力”

ドジャースとkanzai、大正製薬とプロゴルファー、MLBとセブン-イレブン――。数々の大型スポンサー契約を単独で実現してきたスポーツエージェント・金子真育。難題大型契約をたった一人で締結してきた、その信頼はいかに築かれたのか。著書​『GRIP MLBやドジャースから全幅の信頼を得た「ザ・エージェント」​』から一部抜粋して紹介する。今回は、日本管材センターとドジャースのパートナーシップ契約の舞台裏⑥。【その他の記事はこちら】

「数字では測れない価値がある。ドジャース契約が示した“見えない力”
日本管材センター本社に飾られている大谷翔平選手のユニフォーム前にて。関根章人社長。

見えない力の大きさ

――編集部 「残業が減った職場の変化も含めて、ドジャースとの契約をどう評価していますか」

――関根(日本管材センター社長) 「私が経営者として判断して実行した大きな成功例の一つだと思っています。スポーツビジネスの力は見えないものです。効果があるのかどうかわかりにくいんです。社員のモチベーションアップに繋がっているかもしれませんが、会社の業績にはっきり表れるわけではありません。でも、この見えない力の大きさを感じています。マイナスに働くこともあるでしょう。流れが悪くなると、見えない力が逆に働いて、社員はそんなことより私たちに還元してほしいと言います。だから、先ほど話したように、給与水準を上げていきます」

ドジャースとの契約をきっかけにアメリカでの事業展開はあるのだろうか。副社長時代にそのアイデアを持っていたが、実現できなかったという。しかし、どうやら諦めたわけではないらしい。ドジャースを介したビジネス展開。勝手な臆測だが、そこまで進むとプロスポーツチームと関係を結んだ効果が計り知れないものになる。スポーツエージェントが絡める可能性があるわけで、金子の鼻が膨らんだように見えた。

――編集部 「ライオンズとは直接、交渉したそうですが、ドジャースとの契約はスポーツエージェントの金子さんを仲介役としました。いかがだったでしょうか」

――関根 「彼のフットワークの良さとレスポンスの速さはすごいです。ウチの仕事以外はやっていないの? と冗談で尋ねるくらいです。アメリカとは時差があるので、向こうの夜が明けたらすぐに対応します、ということもありました。私がいないときは担当スタッフと相対するわけですが、そのときも分け隔てなく、私に対してと同じ態度で話してくれると聞いています。だから、私の秘書をはじめ、社員に人気があります。人として信用できます」

――編集部 「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。興味深い話ばかりでした。最後に写真撮影をさせてください」

撮影は社内に飾ってある大谷翔平選手らのユニフォームを背景にして行った。関根社長はやはり、背筋をピンと伸ばしている。カメラマンの要求をのんで、笑顔を見せる。ただし、あくまでも紳士らしく。撮影を終えると、次のミーティングへと足早に向かった。我々はこの後、インドカレーの店で昼食をとりながら、対談を振り返った。金子はあらためて関根社長の話に感銘を受けたという。

初めて聞いた話もあったという。

「印象に残ったのはスポーツビジネスには見えない力がある、というところです。やはり、そう感じていらっしゃったんですね。効果が目に見えないから、このビジネスは難しいんです。見えないものを可視化するのがスポーツエージェントの仕事です」。そう再確認できたことが最大の収穫だったという。

アメリカに広がっている可能性

関根社長との対談を振り返りながら、私はドジャースとの交渉の場面、そしてその期間に交わした関根社長とのやり取りを思い出していました。

2024年1月19日。

ドジャースと関根社長とのミーティングは、決して長い時間ではありませんでした。それでも、あの場で交わされた言葉や感じた空気は、今も私の中に強く残っています。その機会を作ってくださった関根社長、そして時間を割いてくださったドジャースには、改めて感謝の念を抱かずにはいられません。

同時に、私は自分自身に言い聞かせています。こうした機会が、決して「当たり前」になってはいけない。経験を積むほどに、同じような場面は増えていくかもしれない。それでも、最初に感じた緊張や感謝の気持ちは、決して忘れてはならないと。

ここで少し、ドジャースという組織について触れておきたいと思います。彼らは、日本市場に対して極めて積極的です。グローバル展開を進める日本企業を中心にリストアップし、一社一社に地道にコンタクトを取り、営業活動を続けている。その姿勢は、日本人以上に泥臭いと感じるほどです。

2024年、ドジャースは大谷翔平選手と、10年7億ドル(当時のレートで約1014億円)という、北米プロスポーツ史上でも例を見ない大型契約を結びました。この投資を起点に、ドジャースは2025年までに、大創産業(ダイソー)、全日本空輸、伊藤園など、約15社に及ぶ日本企業と新たなパートナーシップ契約を結んでいます。調査会社スポンサーユナイテッドによれば、ドジャースは2024年度にスポンサーシップ収入を約7000万ドル増加させました。いわゆる「大谷効果」です。結果として、大谷選手への巨額投資は、フィールド内だけでなくフィールド外のビジネスの側面でも十分に回収できたと見られています。 後述しますが、アメリカの野球界、そしてスポーツ界は日本人が想像している以上に日本に注目しているとアメリカのスポーツ関係者から聞きました。つまり、日本とアメリカの橋渡しをしている私のようなスポーツエージェントにとって大きなチャンスが広がっているということです。

日本管材センターとドジャースを結ぶ交渉を通じて、私はアメリカのスポーツビジネスが持つダイナミズムを、肌で感じることができました。そして同時に、異なる世界に属する者同士を結びつけることこそが、自分の役割なのだと、改めて認識しました。

All-Grip がなければ出会うことのなかった両者を、一つのパートナーシップとして結びつける。それが、私の仕事です。

日本を代表するトッププロゴルファーたちと複数の日本企業のパートナーシップ契約をまとめた経験は、私自身の信用を高める一つの要素になりました。その積み重ねが評価され、ドジャースと日本管材センターの契約に繋がりました。実績は、次の実績を呼び込むきっかけになります。日本管材センターとドジャースのパートナーシップは、一つの到達点であると同時に、次の挑戦へのスタートでもありました。私はこの経験を足がかりに、アメリカのスポーツビジネスの世界へ、さらに深く踏み込んでいくことになります。

TEXT=金子真育

PHOTOGRAPH=岡村昌宏

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