ドジャースとkanzai、大正製薬とプロゴルファー、MLBとセブン-イレブン――。数々の大型スポンサー契約を単独で実現してきたスポーツエージェント・金子真育。難題大型契約をたった一人で締結してきた、その信頼はいかに築かれたのか。著書『GRIP MLBやドジャースから全幅の信頼を得た「ザ・エージェント」』から一部抜粋して紹介する。今回は、日本管財センターとドジャースのパートナーシップ契約の舞台裏①。【その他の記事はこちら】

SNSで広がった謎
「kanzai って何? 日本の会社?」
2024年3月、ロサンゼルス・ドジャースの春季キャンプで大谷翔平選手が移籍第1号ホームランを放ったのを機に、SNSで話題になったのが「kanzai」というロゴでした。
アメリカ・アリゾナ州グレンデールの球場に掲出されたこのブルーを基 調とするロゴがテレビ中継の画面に映り込み、日本の野球ファンの目に留まったのです。「kanzai って何だろう」「日本の会社なのだろうか」。そんな 声が、SNS上に次々と書き込まれました。
kanzai は日本管材センター(東京)のロゴです。そう聞いても、最初はあまりピンとこないかもしれません。日本管材センターは、管工機材やプラント機材、配管システムなどを扱う専門商社で、建築資材メーカーと施工業者を繋ぎ、建築やインフラの現場を足元から支えてきた企業です。
一般消費者向けの商品を扱う会社ではないため、企業名や事業内容が広く知られていなかったとしても、不思議ではありません。だからこそ、「kanzai って何?」という謎がSNSでぐんぐんと広がって いったわけです。
はじまりは関根社長との出会い
実は、この日本管材センターが2024年にドジャースとパートナーシップ契約を結んだのです。同社のロゴがドジャースタジアムのLED看板に掲出されるようになりました。
どうして一般消費者を相手にしているわけではない業種の日本企業が、大谷翔平選手を擁するドジャースと結びつくことができたのでしょうか。そもそも、なぜ手を結ぼうとしたのでしょうか。不思議に思うかもしれません。「野球とは、まったく関係のない業種ではないか」と。
謎がまた謎を呼びます。
謎解きは後ほどにしますが、イメージが重なりにくいこの両者を繋いだのがスポーツエージェントである私でした。日本の管材専門商社と絶大な人気を誇るアメリカのスポーツチームであるドジャースを文字通り「グリップ」させたのです。
私がこのパートナーシップ契約に関するビジネスを手掛けることになったきっかけは、友人の紹介で日本管材センターの関根章人社長と知り合ったことでした。
この出会いが、どのようにしてドジャースタジアムへの広告掲出に繋がったのか。そして、野球とは直接関係のない日本企業が、なぜアメリカの球団に投資する決断を下したのか。当事者である関根社長を交えてお伝えしましょう。
関根社長との対談は東京都港区赤坂にある9階建てのビル、「日本管材センター本社」の社長室で行われた。エレベーターを降りて、スタッフの方に導かれて社長室に向かうと、壁に掲げられたYAMAMOTO、OHTANI、FREEMAN(いずれもドジャースの選手)、IMAI(埼玉西武ライオンズ〈2026年にヒューストン・アストロズ移籍〉の今井達也投手)のユニフォームが我々を迎えてくれた。実際に試合で着用されたユニフォームとのことで、フリーマンのユニフォームは球場の土で汚れている。
社内はフリーアドレスデスク制で、スペースはかなりのゆとりがある。ところどころに大画面のテレビモニターが設置されている。このときは女子プロゴルフトーナメントの中継が流されていた。スポンサードしているドジャースや埼玉西武ライオンズの試合もライブで流されるという。
社員の集中力が削(そ)がれないのだろうか? 関根社長いわく「これでかえって集中力が高まっているんです」。その訳は後ほど。とにかく、将来的には社内をスポーツバーのようにしたいのだという。すでに、スターバックスのコーヒーマシンは備わっている。
社長室の装飾は野球に関係するものばかり。大谷選手の写真に目をやると、その背景に例の「kanzai」のロゴが。もちろん特大のテレビモニターもある。ブルーのスーツを身にまとった関根社長は背筋がピンと伸びている。語り口はソフト。何を尋ねても、よどみなく言葉が流れてくる。記憶がかなり整理されている印象だ。
スポーツマンらしいたたずまい
――編集部 「まず、お二人の出会いから、お聞かせください。金子さんの第一印象は?」
――関根章人(日本管財センター社長。以下、関根) 「好みの(笑)スポーツマンが来たと思いましたよ(笑)」
――金子真育(以下、金子) 「初めて関根社長と一対一でお会いしたときは緊張しました。経営者の大先輩ですから」
金子はこの対談でも緊張からか普段より硬くなっているようにも見えた。あるいは、それは経営者の大先輩である関根社長への敬意の表れかもしれない。ちなみに金子は電話で済む用件でも、直接、会って話すことにしている。それも敬意の表れだ。金子のポリシー。
「誰に対しても、足を使って出向く。そういう姿勢を示すことも重要だと思うんです」
――関根 「共通の友人が、どうしても紹介したい男がいると言って、食事の席に連れてきたのが彼でした。慶應義塾大学時代はゴルフ部の主将をしていて、TBSテレビのスポーツ局、営業局で働いた後、独立してスポーツエージェントの仕事を始めたという予備知識だけを頭に入れた状態で顔を合わせました」
「金子くんはビジネスの話は別として、自分のことをあまり語らないタイプです。尋ねれば教えてくれるけれど、キャリアについて自分からは話しません。聞かれるまでじっと待っています。その点も好感が持てました。すごくスポーツマンらしいたたずまいだなと」
過度な自己アピールをしない人間は信頼に足るという。これは、すべてのビジネスパーソンに参考になる。金子はこの対談でも自分から多くを語ろうとしなかった。関根社長の話に割って入らず、集中して話に耳を傾けていた。何でも吸収してやろうという意志が感じられる。金子にとっては、この対談も学びの場だった。関根社長は金子を「金子くん」と言ったが、ふだんは「マイク」と声を掛けているらしい。ただし、アメリカのオフィシャルな場では「ミスター・カネコ」と呼ぶ。なぜ真育と命名されたのかは次章で。

