ドジャースとkanzai、大正製薬とプロゴルファー、MLBとセブン-イレブン――。数々の大型スポンサー契約を単独で実現してきたスポーツエージェント・金子真育。難題大型契約をたった一人で締結してきた、その信頼はいかに築かれたのか。著書『GRIP MLBやドジャースから全幅の信頼を得た「ザ・エージェント」』から一部抜粋して紹介する。今回は、日本管材センターとドジャースのパートナーシップ契約の舞台裏④。【その他の記事はこちら】

きみは一体、何者なんだ?
――編集部 「話をドジャースとの契約交渉に戻します。どのような戦略で契約を進めたのでしょうか」
――関根(日本管材センター社長) 「最初はドジャースが春季キャンプを行っているアリゾナ州の球場に看板を出そうという考えでした。契約金を少しでも減額させるためです。ダッグアウトの中に看板を掲出すれば、大谷選手を追うカメラに捉えられるだろうと考えた金子くんの提案です。交渉相手は球場でした。しかし、ある事情で、それはできないということになりました」
――金子 「MLBの規約上の問題です」
――関根 「それが無理なら、やはりドジャースと交渉して、思い切ってドジャースタジアムに看板を出そうと決断しました。業績がぐっと上がってきていましたから。もちろん、出せる額に限度がありますから、その枠内で金子くんに交渉してもらうことにしました」
――編集部 「ドジャースとの最初の交渉ではどんな話をしたのですか」
――金子 「最初の面会でドジャースのセールス担当者は私の素性を洗い出そうとしました。きみは何者なんだ、何をしたいんだ、というわけです。私は名の知れたエージェントではないので、それは当然です」
――編集部 「探りを入れてきたわけですね。かなり緊迫した場面です。冷や汗が出ますよね。どう対応したのですか」
――金子 「自己紹介として、TBSテレビのスポーツ局ディレクターの仕事に始まり、スポーツエージェンシーを一人で立ち上げ、日本を代表するトッププロゴルファーたちと複数の日本企業のパートナーシップ契約をまとめたことなど、ビジネスに対する考えや今までのストーリーを話しました」
ドジャースの信頼を勝ち取った瞬間
――編集部 「反応はどうでしたか」
――金子 「スポーツへの情熱、向き合いかたが伝わったのか、ドジャースの担当者の目つきが変わりました。『それはいいね。面白いし、チャレンジンだ』と。積み重ねてきた仕事が少なからず信用に繋がったのだと思います」
国内外で活躍するトッププロゴルファーたちと大正製薬、島津製作所、SOMPOひまわり生命保険など幅広い業種の企業を繋ぎスポンサー契約を成立させてきた。これについては3章で詳述。金子は言う。「大きな仕事が、また次の大きな仕事に繋がるわけです。スポーツビジネスの世界はそういうものであると実感しました」。積み重ねてきたビジネスの実績によって、ドジャースは金子のバリューを認めたわけだ。金子は流暢に英語を話すわけではない。スポーツビジネスの世界では若手の部類に入る。一人、「相手陣内」に乗り込んで、天下のドジャースと対たいじ 峙するには相当の度胸が必要ではないか。想像するだけで、怖気(おじけ)づく。
――金子 「この最初のミーティングで感じ取ったことがいくつかあります。ドジャースは相手を所属している組織で見ていない、個人として見ている。きみの会社の社員は何人? という質問もありましたが、そんなことは気にしていませんでした。社員は何人でもいいんです」
「交渉事は組織対組織で行うものではなく、人対人で行うものだということなのでしょう。相手が大手企業に所属しているかどうか、大企業の名刺を持っているかどうかが重要なのではないのです。属している企業の規模を度外視し、ドジャースは私という人間を信用してくれたのだと思います。ドジャースとグリップできた瞬間です」
All-Grip は社員わずか3人。ドジャースの2024年度の総売上は10億ドルを突破。アメリカを代表するスポーツチームだ。そのジャースがちっぽけなスポーツエージェンシーの金子を信用した。
会社は小さくてもいい
――金子 「私はこうも感じました。ドジャースは情熱と人の柔軟性で回っている。一般的な大企業のように、組織の力だけで動いているわけではない、と。そう感じ取った瞬間、自分はアメリカでのほうが勝負できるのかもしれないと思いました」
「会社は小さくていいと思いました。小さくても、そこに集まる人間が柔軟な思考で、情熱を持ち、プロフェッショナルであれば勝負できると確信しました。目指すべきはスモール・プロフェッショナル・カンパニーだと。ドジャースから大事なことを学ばせてもらいました」
――編集部 「プロフェッショナルという部分を少し説明してもらえますか」
――金子 「たとえるなら、All-Grip は大型の総合病院ではありません。いわば、小さな専門医療クリニックです。最新鋭の医療機器がそろっているわけではない。その代わり、専門分野における知見を最大限に活かし、一人ひとりの患者と丁寧に向き合い、時間をかけて問診を行う」
「私の仕事も、それと同じです。クライアント企業一社一社と丁寧に向き合い、その企業が抱えている課題や目的を、表に出ていない部分まで含めて整理し、理解していく。何に悩み、何を本当に求めているのかを掘り下げていくのです。それを忘れなければ、会社は小さくてもいい。ドジャースとのミーティングを通じて、そう確信しました」
重要なのはWhy、What、How
――編集部 「ほかに、ドジャースはどんなことを問いかけてきましたか」
――金子 「日本管材センターは何を望んでいるのか、なぜ契約を望んでいるのかということです。達成したいゴールは何なのかと。スポーツビジネスではWhy(なぜ)、What(何を)、How(どのように)のストーリーが重要です。ドジャースはその答えを求めました」
――編集部 「どう回答したのですか」
――金子 「関根社長のお考えの熱量は冷まさずに、できる限りわかりやすく伝えました。創業60周年を記念する企画であり、人材採用を念頭に置いた企業ブランディングのためだと。クライアント企業とスポーツコンテンツ(選手、チーム、スポーツ組織)の間に介在して、クライアントのWhy、What、How を伝え、ストーリーを紡ぐのがスポーツエージェントの一番大事な仕事です」
「ドジャースは日本管材センターがどんな企業であるのか、知りたがりました。お金を積んでくれれば、どの企業でもウェルカムというわけではないのです。パートナーが品格に欠けていたら困ります。ドジャースの評判を落とすことになりますから」
その後、金子はドジャースとの契約で獲得できる権利・特典・ホスピタリティを一つ一つ確認し、関根社長に伝え、関根社長からも要望を聞き、それをドジャースに伝えることを繰り返した。権利・特典・ホスピタリティの主なものはスタジアムへの看板掲出、VIPルームの利用、試合のチケットの手配、始球式で投手を務める権利など。当然、看板を掲出する場所によって契約金の額は変わる。VIPルームの利用回数、チケット枚数も予算に応じて調整可能だ。日本管材センターはドジャースタジアムの1階席と2階席の間のクラブレベルにLED看板を選択する。9イニングのうちの1イニングの表か裏のどちらか(ハーフイニング)LED看板が掲出される。どのイニングかは試合によって変わる。2025年には新たに外野フェンスに掲出する契約を締結した。
――編集部 「バックネット裏と違い、テレビ放送では目に付きにくい場所です。それでも問題はないのでしょうか」
――金子 「会社のブランド価値のアップ、採用面の効果を狙っているので、テレビで頻繁に映らなくても問題ないという判断です。ドジャースのパートナー企業であるという事実が重要なのです。会社のホームページ等で、日本管材センターはロサンゼルス・ドジャースと契約していますと謳(うた)うことが重要という考えです」

