ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、又吉直樹の『生きとるわ』をご紹介。

又吉直樹 著 文藝春秋 ¥2,200
生きるために悪魔のような旧友を追う男。「魔物さがし」がいざなう本当の棲み家
裏切りと金の無心を重ねる悪魔のような元親友の影を追い、大阪ミナミを彷徨う主人公。その足どりに、夜の街で息をする人たちと、仄暗い青春の追憶がまとわりつき、とぐろを巻いていく。
芥川賞から10年。又吉直樹氏が紡ぐ「生きること」は、やはり残酷さと、主題から逃げない覚悟があった。人間のやわらかい部分を丹念に書き上げ、読み手と共鳴させつつ、容赦なく追いこんでいく筆力はあいかわらず健在だ。
また今作は、そこここに「笑い」がちりばめられているのも特徴だろう。実は刊行前、本人から「今回は笑いを意識した」とも聞いた。芸人又吉らしい会話劇、言葉の切れ味はページをめくらせる弾みがあり、笑えるからこそ怖さも増幅する奥行きを生んでいる。特に登場人物を通して吐きだされていく、現代社会と現代人の生きかた・在りかたを問う「語り」は、過去3作以上に胸を衝くはずだ。
私は、魔物を追う主人公と一緒に文字列を追いかけたが、魔物の棲み家は「自分の内側にあるのではないか」という穴に陥り、空恐ろしくなった。あなたはどうだろう? 芸人と文人の二刀流を成し得た「魔物」のような男の作品に、ぜひ喰われてみてほしい。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSCの講師も務め、令和ロマンなど教え子をM-1に輩出。著書『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が発売中。

