プレミアムレジデンスのオーナーが自身の住まいに求める価値基準はどんなものか。最上級のものをはじめ日本の不動産に精通する住宅ジャーナリスト、坂根康裕氏に聞く。【特集 超絶レジデンスとシェア別荘】

1.資産性
富裕層ほど、時を経ても資産価値が下落しない物件をシビアに選びます。資産性が保てる不動産とはどういうものなのか。いろいろありますが、一番はやはり立地です。立地のよし悪しは、歴史的・地形的な要素によって決まることが多いものです。
東京都心を例にとると、高級住宅地として名前が挙がるのは松濤、番町、六本木5丁目、広尾、麻布などです。これらの地に共通するのは、東京が日本の中心となった江戸時代に大名屋敷が建てられた土地であること。その後の明治時代に迎賓館や軍事施設など国の重要な利用地となり、それから民間に流れます。地形的にはどれも高台で、南傾斜の土地が多いというのが共通事項です。雨の多い日本では、水はけと日当たりのいいことが最重要視されるのです。
これら高級住宅地には、規制により高層の大規模物件を建てられないことが多いものです。そこで現代の高級レジデンスは、その周辺を狙って建て、建築の質や設備・サービスの充実ぶり、ブランドの名声などで新たな付加価値をつけて販売します。
2.建築・デザイン
日本のビルというのはおしなべて、直方体のシルエットをしています。それがもっとも建てやすく丈夫で、スペースも大きくとれるからです。地震もありますし、経済合理性がいいのはたしかなのですが、ビルのデザインが似てしまうのは残念なところ。海外では高級物件ほど外観・内装ともユニークなもの。日本でもいかに他にない建築デザインを実現するかに、もっと注目すべきでしょう。遠くから見てもすぐ「あのビルだ」とわかる個性があれば、街のランドマークとしての機能も果たすことができます。
寺院の跡に建っているビルのシルエットが、蓮の花をモチーフにした洗練されたものとなっている例が、東京都心にもあります。ただ斬新なだけでなく、土地に根ざしたストーリーを含んだデザインであれば、なお説得力が生まれ、不動産の価値も高まるものです。
3.安全性・プライバシー
安全性の高さはよきレジデンスの絶対条件ですが、要所に人の目がちゃんとある体制こそ、最も安心できる状態といえます。ドアマンやコンシェルジュ、管理人らが常時いることは、安心安全に直結しますから、そうした面に手厚い物件は高く評価できます。
ただし、人の目が増えるほどプライバシーを守るという点では疑問符がついてしまいます。いつも「見られている」という感覚があるのは、気持ちが落ち着かないものですから。安全性とプライバシーの確保は、両立しづらい問題なのです。
両者のバランスを絶妙なさじ加減にするところが、プレミアムなレジデンスとしての腕の見せどころとなります。とある都心のあるレジデンスのコンシェルジュカウンターの配置は絶妙です。入口正面にカウンターはなく、サイドに設けられています。ビルに入った時にスタッフの目は気にならず、それでも通路を歩き過ぎる際にはさり気なく、しっかり見守ってくれている気配を感じられる設えとなっているのです。
4.眺望
プレミアムなレジデンスのユーザーのなかには、眺望が唯一無二のものであることに、非常にこだわる方が多いものです。眺めのよさには有無を言わさぬ説得力があって、その光景のためだけに物件を手に入れるということも起こり得ます。ゆえにタワーマンションの最上階というのは、それだけでたいへんな価値があるとみなせます。眺望はもちろん最高ですし、これより上には何もないという優越感も得られて、満足感も価値もそうそう下がらないと考えられるのです。
5.コミュニティ
レジデンスは基本的にプライベートな空間が連なっているものでありながら、エントランスはもとよりスポーツジムやミーティングルーム、パーティールームなどがあることもあって、全体が公共の場であるとも考えられます。住人同士またスタッフとの交流、ゲストの出入りも含め、そこにはコミュニケーションが生じますし、いいレジデンスには自然といいコミュニティが生まれます。
プレミアムなレジデンスのなかには、公式な経済会議が開けそうなオーナーリストに、外交行事ができるほどの格式あるスペースを持つところもあります。そこにふさわしい人が集い、営みが繰り返されることで、「場」としての価値も高まっていくのです。
最終的にはそこに住んでいる人たちが、レジデンスの佇まいや風格をつくるのだと言っていいでしょう。
6.施設・設備
「200㎡、2ベッドルーム、各ベッドルームにバス、3トイレ」。ラグジュアリーレジデンスを名乗るのならば、これが最低限満たすべきグローバルスタンダードです。天井高も10フィート、すなわち3m超はあるのがひとつの基準ですが、従来の日本のレジデンスの天井高は2.6m程度のものが多く、基準に達していません。
ウォークインクローゼットにしても、衣類を大量に収められるというだけでは足りず、本来はそのなかで着替えをして全身をチェックし、イメージと違えばまた着替えて……ということができるだけのスペースをとっていなければそう呼ぶに値しません。グローバルスタンダードに達するか、せめてそれに迫るレベルの施設・設備が整っているかどうかは重要な条件です。物件としての「器の大きさ」が、レジデンスの価値を大きく左右します。
7.希少性
上記のような要件を高水準で満たすものが、プレミアムなレジデンスとして認められることとなるわけですが、ここで重視とされているものをひと言でまとめれば「希少性」という言葉になります。立地や景観、建築の質、設備・コミュニティの充実などが相まって生みだされるのは、他に代えの利かないオリジナリティです。希少な物件であることにこそ唯一無二の価値があり、ステータスも保たれることとなるのです。

坂根康裕
住宅ジャーナリスト。『都心に住む』『住宅情報スタイル 首都圏版』(リクルート刊)元編集長。現在「Fact Stock」を運営、YouTubeやnoteを通じて不動産の最新情報をわかりやすく発信する。
この記事はGOETHE 2025年12月号「総力特集:超絶レジデンス+シェア別荘」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

