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2025.04.23

脳科学者が伝授。非認知能力を高める魔法の褒め言葉は「おしい!」

脳科学者・西剛志氏が200以上の幼稚園や教育の現場に携わるなかで見えてきた大事なものが、非認知能力の6つの力。普段の生活に取り入れるだけで、知らないうちに子どもの非認知能力がグングン育つ習慣について、西氏に聞いた。『脳科学的に正しい! 子どもの非認知能力を育てる17の習慣』(あさ出版)の一部を抜粋して紹介します。【その他の記事はこちら】

「おしい!!」はチャレンジする心や自己肯定感を高める

1〜3歳以降は努力をほめるのが、ほめ方の基本となりますが、一筋縄ではいかないのが子育てというもの。 「こんなときはどうすればいいの?」と対応に困ってしまう場面や、工夫が必要な場面に出くわすこともあるかもしれません。そこで、ほめ方の基本も踏まえたうえで、身につけておくと役に立つ応用パターンをいくつか紹介します。

まずは、マンガで紹介した「おしい !!」からです 。「ほめる」は、何かしらの成功があって、それを「ほめる」となりますが、必ずしもみんな成功できるわけではありません。ただ、失敗したからといってそれまでの努力が賞賛に値しないなんてことはありません。 実は数々の研究からも、子どもが失敗したときに、周りがどう声をかけるかで、自己肯定感ややる気、セルフコントロール力の向上などにも大きな影響をおよぼすことがわかってきています。

このとき、ほめ言葉として大きな力を発揮するのが、「おしい!! 」の3文字です。 幼稚園や保育園の先生でも、スポーツのコーチでも、子どものやる気を引き出すのが上手な人は、この魔法のほめ言葉「おしい!! 」を上手に使いこなしています。

「おしい!!」には失敗で落ち込んでいる子どものやる気を高める魔法のような力があります。 なぜなら「できなかった」という事実は認める一方で、「だけどもうちょっとやったらできるよ」 というメッセージを同時に送れるからです。 想像してみてください。みなさんもご自分が失敗したときに「おしい!! 」と声をかけられると「もうちょっとだな」「頑張ってみようかな」と思えてきませんか?

「大丈夫」や「できるよ」といった応援する言葉が浮かぶ人もいるかもしれませんが、これらの言葉からは「おしい!! 」に含まれる「もうちょっと」といったニュアンスが伝わってきません。 なお、こうした場面で絶対に避けてほしいのが、「なんでできなかったの?」などと原因を追及する言葉がけです。この言葉がけは、子どもに痛みしか与えません。特に自己肯定感が低い子の場合は、ただでさえ凹んでいる心に追い打ちをかけるようなものです(*1)。

素直に受け取れない子は第三者の言葉としてほめよう

ちなみに、ほめ言葉をかけられたときに、すべてのお子さんが素直に喜ぶとはかぎりません(*2)。 これは自分に自信が持てない子にありがちな反応ですが「別にそんなことないよ」と否定する子や、あまり嬉しくなさそうな子も中にはいます。 ここで無理に「いや、すごいよ」とさらにほめようとするのは逆効果。ほめ効果が低下してしまいます。

こんなときは直接ほめるのはやめて、第三者に登場してもらうのがおすすめです。「パパ(ママ)が一人でお着替えできてすごいって言ってたよ」「先生が一生懸命に取り組んでくれるって感心してたよ」などと、自分以外の人(第三者)の言葉を介して間接的にほめるというわけです。

こうすれば、さっきまで身構えていた子でも言葉を受け取りやすくなります。 これはウィンザー効果(サードパーソン効果)と呼ばれるもので、当事者からの情報よりも第三者からの情報のほうが信憑性が高く思えるからです(*3)。

このほめ方は「ほめる」ことに慣れていないご家庭にもおすすめです。 これまであまりほめてこなかった親が、急にほめるようになると、子どもが「嘘をついてるんじゃないの?」「何か裏があるんじゃないの?」とあやしがるのは十分に考えられます。 いつも厳しいことばかり言ってくる先生が、いきなりほめはじめたらちょっと怖いですよね。

このように、いきなりほめられることで生まれる警戒心を解くためにも、第三者を使ってほめる手は有効です。 この本を手にしてさっそくお子さんをほめてみたけれど微妙な反応しか得られないという方は、ぜひこの方法を試してみてください。

ほめてオーラを醸し出す子には

ほめられるのが苦手な子とは対照的に「ほめて」オーラを醸し出す子もいます。 最近の子どもは、特にこのタイプが多いようです。

「ぼく、こんなことできるんだよ!」「私、こんなすごい絵を描いたの!」とほめてオーラを全開にしながら駆け寄ってくる姿はかわいくもありますが、対応には少し気をつけなければいけません。

勉強やスポーツにしろ、お手伝いにしろ、遊びにしろ、ほめてオーラを発している子が求めているのは、自分ではなく他者からの評価です。 自信満々に見えて、実際は周りからどう評価されるかを気にしているんですね。内側から起こるやる気でなく、外側からのやる気(外発的動機)が大きく発達している状況です(*4)。残念なことに、このままでは人から評価されないと動かない大人になってしまう恐れがあります。

では、どのように接するのがいいのでしょうか。このようなときは、ほめ言葉をグッと飲み込み、「あなたはどう思うの?」と問いかけてみてください。自分自身はどう思ったのかを聞いてみると、 それまで他者評価を欲しがっていた子が、自分を振り返って自己評価をすることになります。

すると、これまでは単に「自分はすごい」で終わっていたことが、自分の気持ちの動きや楽しさ、どうしたらもっとうまくいくかといったことについて深く考えるようになり、 その結果、自分を自分で評価できる人間へと、成長を促すことができます。

ほめてオーラを感じたときは、自己評価を促す質問を! ぜひ試してみてください!

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて3万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計42万部突破。最新刊『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』も好評発売中。

<参考文献>
(*1) Brummelman, Eddie et al. ““That’s Not Just Beautiful—That’s Incredibly Beautiful!”.” Psychological Science 25 (2014): 728 - 735. 
(*2) Collins, N.L., & Frrney, B.C., “Working model of attachment shape perceptions of social support: Evidence from experimental and observantional studies” Journal of Personality and Social Psychology, Vol.87, p.363-383 
(*3) Davison, W. (1983). “The third-person effect in communication”. Public Opinion Quarterly. 47 (1): 1–15./ Moser K, Paul KI, Soucek R, Eskofier A, Galais N. The first-person effect. A reconsideration of two meta-analyses. PLoS One. 2024 Dec 11;19(12):e0311155. 
(*4) Deci EL. “Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation”, J. Pers. Soc. Psychol., Vol.18, p.105–115, 1971 

TEXT=西剛志

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